美神戦隊アンナセイヴァー

敷金

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第三章 第4・第5のアンナユニット編

 第20話【策略】3/3

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 結局、愛美とありさを見つけることが出来なかった凱と未来は、SVアークプレイスに帰還することにした。
 疲労が限界に達した未来は、もうすっかり寝付いている。
 無駄足を踏んで舌打ちをした凱に、ナイトシェイドが話しかけた。

『マスター。ミーティングルームからの情報です。
 愛美様と、外部からの来訪者が一名、皆さんと合流しています』

「えっ?! なんだよそれ」

『詳細は分かりかねます』

「結局無駄足か。トホホ……」

『マスター、勇次様より連絡です。
 ミーティングルームではなく、地下迷宮(ダンジョン)の方へいらして欲しいとのご要望です』

「わかっ……って、ちょっと待てよ。
 来訪者はどうなったんだ?」

『詳細は分かりかねます』

「……あ、そ」

 ため息を吐くと、凱は助手席で軽い寝息を立てている未来を見て、優しげな表情を浮かべる。
 だが、呼吸に連動して動く大きな胸に目が向いてしまい、慌てて目を逸らした。







 JR渋谷駅・ハチ公口改札前。
 青年・山高は、約束の時間に現場へ辿り着いた。
 スマホを見る仕草をしながら、周囲をきょろきょろ見回して様子を窺う。
 だが、電話で言われたようなエージェントらしき人物など、居るようにはとても思えない。
 尚も十分間ほど待ってみるが、何も変わった事は起こらない。
 もしかして、騙されたのか? と思い始めた頃、宮下方面から歩いて来た背の低い少女が、こちらをじっと見つめて来た。

「山高さん、ですね?」

 突然、真横から声をかけられ、青年は喫驚した。
 麦藁帽子を被った、水色のワンピース姿の小学生くらいの少女。
 つい先程までガード下に居たと思ったのに、突然接近していた。

「な、な?! あ、ああ、そうだけど?!」

「これをお願いします」

 少女は、そう呟くと白い紙袋を手渡してきた。
 中には、白い封筒と少し冷たくなっている「小さな箱」が入っている。

「お、おう」

 青年が応えると、麦藁帽子の少女は踵を返し、スクランブル交差点へと姿を消した。
 大急ぎで封筒を確認すると、確かに、中にはかなりの枚数の万札が詰め込まれていた。

(やっ……た! マジで大金ゲット! スゲェ!!)

 身に余る程の大金の獲得に我を忘れた青年の頭からは、次に行うべき事は完全に消え失せていた。
 無論、電話で伝えられた「規約の読了」も、全く行っていない。
 早速金の使い道を考慮し始めた青年の足は、再び鳴ったスマホによって止められた。

「あぁ? 誰ぇ? 今忙しいんだけどなぁ~」

『オレだ』

 電話口の声に、青年の顔が瞬時に強張る。
 浮き足立った気分も消え失せ、緊張感が漲る。

「あ、た、田代サン……っスか? どもです……」

『おう。
 島田の野郎から聞いたぞ。オンナ犯るんだってな』

「え?! あ、はあ……」
(島田ぁ! いくらなんでも声かけんの早過ぎだろアイツ!)

『いいぜ、力貸してやるよ。
 だがおめぇ、オレが出て行くってことは、わかってんだろうな?』

「え、ええ、そりゃあもう」

『おめぇらの居る店に今からクルマ回させるから、30マン用意しとけや』

「さ……?!」

『島田の野郎から額は聞いてんだよ。
 おめぇ、いいバイト見つけたんだろ? だったら問題ねぇよな」

「は、はぁ……」
(あンの野郎! なんで金額まで言っちまうんだ馬鹿!)

「いいな、ここまで来てバックれんじゃねぇぞ』

「はい……」

 通話が途切れ、先程までの高揚感を完全に消失した青年は、突然不機嫌になり、唾を吐き捨てて通い慣れた店への路を進んで行った。


「――今回の案件も、ハズレかもしれないわね。
 ウィッチ、監視をお願いしたいの」

 青年が姿を消した方向を見つめながら、麦藁帽子の少女は、そっと携帯を閉じた。
 



『おい今川! 貴様、いったいどういうつもりだ?!
 あのサークレットは、ANX-05B用じゃないか。
 何時の間に持ち出した?!』

『あんまり使われてなかったんで、ティノさんとこに持っていってチェックしようと思ってたんですよ』

『なら何故、それをあの女に渡したんだ?!』

『決まってるじゃないですか。
 空席のANX-05Bのパイロットに、と思ったからですよ』

『な……何を勝手に決めてるんだ!
 分かっている筈だろう?!
 アンナユニットの搭乗者は、システムが指定した――』

『そのシステムに、名前があったんですよ』

『な、何?』 

『前まで、空白だったじゃないですか、ANX-05Bの搭乗者名義。
 そこに「石川ありさ」って名前が、いつの間にか記述されてた
すよ。
 たぶん、未来ちゃんの実戦の後に変わったんじゃないすかね』

『なんだと?! それは本当か?』

『ウソついて何になるってんですか。
 オレだってビックリしたんですよ。
 多分ですけど、アンナユニットが何かを新しくやる度に、段階的にフラグがクリアされるようですね』

『それで、また新しいフラグが立つのか。
 一昔前のRPGじゃないんだぞ、まったく……』

『まあ、どのみち、あの子にはまたココに来てもらう必要がある気がしたんです。
 だから、すんませんけど、独自判断でやらせてもらいましたー』

『き、貴様と云うやつは……今度から先に報告しろ!』

『へぇ、すんません☆』


「ねーねー勇次さん、あっきーさん♪
 何コソコソ話してるのー?
 こっち来てみんなとお話しようよー☆」

 部屋の隅で顔を寄せ合って内緒話をしていた二人に、背後から恵が抱きついてくる。
 大きな胸の感触が容赦なく背中から伝わり、勇次と今川は、揃って「あへっ」と謎の言葉を吐き出した。
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