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第三章 第4・第5のアンナユニット編
第21話【意志】3/3
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未来の激昂のせいで、それ以上話をするような雰囲気ではなくなった。
有耶無耶のうちに、愛美はアークプレイスの部屋に戻ることになり、ありさは凱によって自宅まで送られることになった。
ありさを助手席に乗せながら、凱は複雑な思考を頭の中で張り巡らせていた。
「ありさちゃん、でいいかな。
愛美ちゃんと友達になってくれたんだってね、ありがとう」
「ああ、いーっすよぉ。
でも彼女、良い子だけど今時珍しいタイプですよね。
ネットも知らないし、交通機関も使ったことないんだって!
何処のお嬢様なんだろうって世間知らずで、ちょっと一人にするのが怖かったっすよ」
まるで家族の車に乗っているようにリラックスしているありさを横目に、凱はフロントウインドウに次々に表示されていくデータ画面を観察している。
ありさはナイトシェイドによって、データを徴収されている。
身長・体重・体温・脈拍・神経反射・体重移動による身体バランスや運動能力・周辺空間の水蒸気密度変化による基礎代謝能力、果ては骨格や筋肉、内臓器官のスキャンまで。
微妙に偏光を掛けているため、ありさの位置からはモニター画面は見えない。
凱はステアリングを動かしながら、会話を続けた。
「ところでさ、君は本気であんなことを?」
「え? 何の話っすか?」
「アンナユニットに乗るって話」
「ああ、それですか。
そうですよ?」
「そうか。君が何処までXENOのことを知ってるのかはわからないけど――」
凱は、今自分が伝えられるレベルで、XENOの存在と、都内で発生している事件の事を説明した。
「確かに最近、犯人がいつまでも捕まらない殺人事件多いなーとは思ってたけど。
そんな事になってるなんて、知らなかったっすよ」
XENOを見たとはいえ、まだ都内の猟奇殺人事件との繋がりを実感していないようで、ありさの言葉は何処か軽い。
凱は、そんな彼女の態度に僅かに不安を覚えた。
「未来は、君が仲間に入るのを拒絶したらしいが。
あの子ほどじゃないけど、俺も正直、賛成はしかねる」
「へぇ、なんでですか?」
「まあ、動かす為の訓練に時間を要するとか、そういう話はいいだろう。
やっぱり、命に関わる危険を伴う訳だからね」
「へぇ。
んで凱さんは、そんな危険なことに、女の子達が三人も関わってる事には賛成なんすか?」
ありさの棘のある言葉に、思わず急ブレーキを踏みそうになる。
「――賛成、な訳ないじゃないか。
出来ることなら、代わってやりたいくらいさ」
「えー、意味わかんない。
反対なのに、闘いに参加させてるって訳? それって矛盾じゃない?」
「そうだな、明らかな矛盾だ。
だがな、“SAVE.”のメンバーは全員、そんな想いで彼女達をサポートしてるんだ」
「は? どうして?
そう思うんなら、代わってやればいいじゃん」
「それが、そう出来ない事情がある」
凱の口調が、重苦しいものになる。
「話すと長くなるから割愛するが。
舞衣や恵――あいつらは俺の妹みたいなもんなんだけどな。
あの二人が参戦する事が決まった時は、俺も全力で反対したよ。
さっきの未来と同じくらい……いや、それ以上に」
「妹、なんですか? あの双子って」
「血の繋がりはないけどね。
あの子達が物心付く前から、ずっと俺が世話をして来た。
まあ――妹っていうより、気持ち的には“子供”に近いな」
「だったら、そんな大事な二人を、どうして」
「話が長くなる要因はそこだ。
だがあの子達は、自ら進んでこの闘いに身を投じたんだ。
XENOから人々を守りたいって想いに駆られてね。
まあ、納得は出来ないだろうけど、そういうもんだと思って今は聞いて欲しい」
「……」
外は、もう暗くなり始めている。
灯り始めた街灯の流れを見つめながら、ありさはぼそりと小さな声で呟いた。
「未来、アイツは――親を、XENOに殺されたんですか?」
「そう、君の想像通りだ」
「そんな前から、XENOって居たんだ。
親御さんが亡くなられたのって、もうかなり昔の話なのに」
「ああ、そうだ。
ずっと居たんだよ。我々の知らない場所で」
「警察も、自衛隊? も、何もしようとしないんでしょ?」
「そうだよ。
警察はまだ、XENOという存在自体に気付いてないか、認めてすらいないだろうね」
「へぇ。呑気な話っすね」
「まったくだ。
だからこそ、俺たちみたいのが必要ってことさ」
「……」
会話は、そこで途切れる。
山手通りに入りしばらく北へ進むと、ありさが声をかけて来た。
「凱さん、この辺りでもういいよ!」
ありさの指示通り、脇道に入ったところで停車する。
素早くナイトシェイドから降りると、ありさは車内を覗き込むようにして話しかけた。
「送ってくれてありがと!
愛美や、あの巨乳姉妹によろしく言っといて」
「き、巨乳って……おい」
「じゃあ、連絡待ちしてるわ!
おやすみー!」
「ああ、おやすみ。
気をつけて」
「ばーい!」
走り去るありさの後ろ姿を見つめ、凱は、なんとなくため息をついた。
「ったく、元気の塊みてぇな子だな」
『マスター、石川ありさの身体データを地下迷宮(ダンジョン)のデータシステムに転送しました。
パーソナルユニットの情報に追記する形で登録されますので、充分なデータ量に至るかと考えられます』
「サンキュ、助かるぜナイトシェイド。
――さて、と」
凱は肩を軽く動かし、ステアリングを握り直す。
『どちらへ向かいますか?』
「そうだな、今日のとこは自宅に帰るか。
舞衣と恵も待ってるだろうしな」
『了解』
微かにタイヤの音を鳴らし、ナイトシェイドは静かにUターンする。
山手通りに戻るため、手近な交差点まで進もうとした時、いきなり正面jから黒いタウンエースが突っ込んできた。
「うわっ?!」
ぎりぎりのところで接触は避けられたが、タウンエースはそのまま何処かへ走り去ってしまった。
「なんだよありゃ! 危ねぇなぁ」
『マスター、ナンバープレートを記録しました。
通報されますか?』
「ああ、あんがと。
まあ、事故にならなかったからいいさ」
それだけ言うと、凱はナイトシェイドを運転し、SVアークプレイスへの帰路へと進んだ。
アパートまであと少しという所まで辿り着いた頃。
少し離れたところでタイヤの軋む音が響き、ありさはふと足を止めた。
事故などではなさそうだと察し、再び歩き出そうとしたその時。
複数の足音がこちらに向かってくる事に気付き、再び歩みを止める。
「なんだ、お前ら?」
ありさの背後に、三人の男が姿を現す。
暗がりで顔は良く見えなかったが、彼らが何者かは容易に想像がついた。
「お礼参りかよ」
全く動じることなく、男達を睨みつける。
案の定、あの時、愛美をホテルに連れ込もうとしていた者達だった。
「この前は世話になったなぁ」
鳩尾に一撃を食らった青年が、片眉を吊り上げて睨み返して来る。
そんな彼を冷めた目で見ながら、ありさは呆れたため息を吐く。
「何度来ても同じだよ。
あんたら、あたしに勝てるとでも思ってんの?」
両脚を開き、重心を落とす。
無意識に両腕が、即撃に移れる位置に動く。
そんな彼女の、瞬間で切り替わる気迫に気圧されたものの、男達は怯まずに前に歩み出た。
「それが、勝てるんだよなあ~」
「へぇ、やってみなよ。出来るんならね」
「ああ、じゃあお望み通りにな。
――田代さん、オナシャス!」
「?」
青年がそう言った次の瞬間。
ドガッ! という衝撃音と同時に、後頭部を激しい痛みと振動が襲う。
悲鳴を上げる間もなく、ありさの顔は路面に激突した。
何が起きたのか、判断する余裕も何もなかった。
しばらくして、再び車が近付いてくる音がした。
「よし、乗せろや。
中で縛れ」
「ウイッス!
田代さん、あざっした!」
「おいおい、俺にもヤラせろよ。
最近ヤってねーから溜まってんだしよ」
「お、おぅっす……」
身長おおよそ190センチ、プロレスラー並の体格を誇る大男は、右手に握っていたブラックジャックを車内に放り込むと、仲間達と共に乗り込んだ。
車の最後部には、白い紙袋が横倒しで置かれていた。
有耶無耶のうちに、愛美はアークプレイスの部屋に戻ることになり、ありさは凱によって自宅まで送られることになった。
ありさを助手席に乗せながら、凱は複雑な思考を頭の中で張り巡らせていた。
「ありさちゃん、でいいかな。
愛美ちゃんと友達になってくれたんだってね、ありがとう」
「ああ、いーっすよぉ。
でも彼女、良い子だけど今時珍しいタイプですよね。
ネットも知らないし、交通機関も使ったことないんだって!
何処のお嬢様なんだろうって世間知らずで、ちょっと一人にするのが怖かったっすよ」
まるで家族の車に乗っているようにリラックスしているありさを横目に、凱はフロントウインドウに次々に表示されていくデータ画面を観察している。
ありさはナイトシェイドによって、データを徴収されている。
身長・体重・体温・脈拍・神経反射・体重移動による身体バランスや運動能力・周辺空間の水蒸気密度変化による基礎代謝能力、果ては骨格や筋肉、内臓器官のスキャンまで。
微妙に偏光を掛けているため、ありさの位置からはモニター画面は見えない。
凱はステアリングを動かしながら、会話を続けた。
「ところでさ、君は本気であんなことを?」
「え? 何の話っすか?」
「アンナユニットに乗るって話」
「ああ、それですか。
そうですよ?」
「そうか。君が何処までXENOのことを知ってるのかはわからないけど――」
凱は、今自分が伝えられるレベルで、XENOの存在と、都内で発生している事件の事を説明した。
「確かに最近、犯人がいつまでも捕まらない殺人事件多いなーとは思ってたけど。
そんな事になってるなんて、知らなかったっすよ」
XENOを見たとはいえ、まだ都内の猟奇殺人事件との繋がりを実感していないようで、ありさの言葉は何処か軽い。
凱は、そんな彼女の態度に僅かに不安を覚えた。
「未来は、君が仲間に入るのを拒絶したらしいが。
あの子ほどじゃないけど、俺も正直、賛成はしかねる」
「へぇ、なんでですか?」
「まあ、動かす為の訓練に時間を要するとか、そういう話はいいだろう。
やっぱり、命に関わる危険を伴う訳だからね」
「へぇ。
んで凱さんは、そんな危険なことに、女の子達が三人も関わってる事には賛成なんすか?」
ありさの棘のある言葉に、思わず急ブレーキを踏みそうになる。
「――賛成、な訳ないじゃないか。
出来ることなら、代わってやりたいくらいさ」
「えー、意味わかんない。
反対なのに、闘いに参加させてるって訳? それって矛盾じゃない?」
「そうだな、明らかな矛盾だ。
だがな、“SAVE.”のメンバーは全員、そんな想いで彼女達をサポートしてるんだ」
「は? どうして?
そう思うんなら、代わってやればいいじゃん」
「それが、そう出来ない事情がある」
凱の口調が、重苦しいものになる。
「話すと長くなるから割愛するが。
舞衣や恵――あいつらは俺の妹みたいなもんなんだけどな。
あの二人が参戦する事が決まった時は、俺も全力で反対したよ。
さっきの未来と同じくらい……いや、それ以上に」
「妹、なんですか? あの双子って」
「血の繋がりはないけどね。
あの子達が物心付く前から、ずっと俺が世話をして来た。
まあ――妹っていうより、気持ち的には“子供”に近いな」
「だったら、そんな大事な二人を、どうして」
「話が長くなる要因はそこだ。
だがあの子達は、自ら進んでこの闘いに身を投じたんだ。
XENOから人々を守りたいって想いに駆られてね。
まあ、納得は出来ないだろうけど、そういうもんだと思って今は聞いて欲しい」
「……」
外は、もう暗くなり始めている。
灯り始めた街灯の流れを見つめながら、ありさはぼそりと小さな声で呟いた。
「未来、アイツは――親を、XENOに殺されたんですか?」
「そう、君の想像通りだ」
「そんな前から、XENOって居たんだ。
親御さんが亡くなられたのって、もうかなり昔の話なのに」
「ああ、そうだ。
ずっと居たんだよ。我々の知らない場所で」
「警察も、自衛隊? も、何もしようとしないんでしょ?」
「そうだよ。
警察はまだ、XENOという存在自体に気付いてないか、認めてすらいないだろうね」
「へぇ。呑気な話っすね」
「まったくだ。
だからこそ、俺たちみたいのが必要ってことさ」
「……」
会話は、そこで途切れる。
山手通りに入りしばらく北へ進むと、ありさが声をかけて来た。
「凱さん、この辺りでもういいよ!」
ありさの指示通り、脇道に入ったところで停車する。
素早くナイトシェイドから降りると、ありさは車内を覗き込むようにして話しかけた。
「送ってくれてありがと!
愛美や、あの巨乳姉妹によろしく言っといて」
「き、巨乳って……おい」
「じゃあ、連絡待ちしてるわ!
おやすみー!」
「ああ、おやすみ。
気をつけて」
「ばーい!」
走り去るありさの後ろ姿を見つめ、凱は、なんとなくため息をついた。
「ったく、元気の塊みてぇな子だな」
『マスター、石川ありさの身体データを地下迷宮(ダンジョン)のデータシステムに転送しました。
パーソナルユニットの情報に追記する形で登録されますので、充分なデータ量に至るかと考えられます』
「サンキュ、助かるぜナイトシェイド。
――さて、と」
凱は肩を軽く動かし、ステアリングを握り直す。
『どちらへ向かいますか?』
「そうだな、今日のとこは自宅に帰るか。
舞衣と恵も待ってるだろうしな」
『了解』
微かにタイヤの音を鳴らし、ナイトシェイドは静かにUターンする。
山手通りに戻るため、手近な交差点まで進もうとした時、いきなり正面jから黒いタウンエースが突っ込んできた。
「うわっ?!」
ぎりぎりのところで接触は避けられたが、タウンエースはそのまま何処かへ走り去ってしまった。
「なんだよありゃ! 危ねぇなぁ」
『マスター、ナンバープレートを記録しました。
通報されますか?』
「ああ、あんがと。
まあ、事故にならなかったからいいさ」
それだけ言うと、凱はナイトシェイドを運転し、SVアークプレイスへの帰路へと進んだ。
アパートまであと少しという所まで辿り着いた頃。
少し離れたところでタイヤの軋む音が響き、ありさはふと足を止めた。
事故などではなさそうだと察し、再び歩き出そうとしたその時。
複数の足音がこちらに向かってくる事に気付き、再び歩みを止める。
「なんだ、お前ら?」
ありさの背後に、三人の男が姿を現す。
暗がりで顔は良く見えなかったが、彼らが何者かは容易に想像がついた。
「お礼参りかよ」
全く動じることなく、男達を睨みつける。
案の定、あの時、愛美をホテルに連れ込もうとしていた者達だった。
「この前は世話になったなぁ」
鳩尾に一撃を食らった青年が、片眉を吊り上げて睨み返して来る。
そんな彼を冷めた目で見ながら、ありさは呆れたため息を吐く。
「何度来ても同じだよ。
あんたら、あたしに勝てるとでも思ってんの?」
両脚を開き、重心を落とす。
無意識に両腕が、即撃に移れる位置に動く。
そんな彼女の、瞬間で切り替わる気迫に気圧されたものの、男達は怯まずに前に歩み出た。
「それが、勝てるんだよなあ~」
「へぇ、やってみなよ。出来るんならね」
「ああ、じゃあお望み通りにな。
――田代さん、オナシャス!」
「?」
青年がそう言った次の瞬間。
ドガッ! という衝撃音と同時に、後頭部を激しい痛みと振動が襲う。
悲鳴を上げる間もなく、ありさの顔は路面に激突した。
何が起きたのか、判断する余裕も何もなかった。
しばらくして、再び車が近付いてくる音がした。
「よし、乗せろや。
中で縛れ」
「ウイッス!
田代さん、あざっした!」
「おいおい、俺にもヤラせろよ。
最近ヤってねーから溜まってんだしよ」
「お、おぅっす……」
身長おおよそ190センチ、プロレスラー並の体格を誇る大男は、右手に握っていたブラックジャックを車内に放り込むと、仲間達と共に乗り込んだ。
車の最後部には、白い紙袋が横倒しで置かれていた。
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