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第三章 第4・第5のアンナユニット編
●第24話【炎雷】1/3
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「やるぞ」
「は?」
「だから、そのクロス・チャージングってヤツをさ。
あたし達でな!」
ありさと未来は、まるで睨みつけるか如き険しい表情で、お互いの顔を見つめ合った。
「凱さん!
XENOを振り落としてください」
未来が、はっきりとした声で指示を出す。
「よし、二人とも、しっかり捕まってろ!」
そう言うと、凱は指示通り、操縦桿を大きく左に傾けた。
機体が垂直に近いくらいに傾倒し、あと少しでキャノピーに爪を立てようとしていたワーベアは、ずるずると滑り落ち、遂には地面に落下してしまった。
とはいえ、高度はたかだか十メートル未満。
XENOであれば、致命傷には程遠いダメージだろう事は想像に難くない。
「おぉ~、落ちた落ちた!」
「喜んでる場合じゃないわよ。
このまま放っといたら、大変なことになるわ」
「わーってるって!
凱さん! あたし達を降ろして!!」
「いいのか、未来?」
「ここまで来たら、もう賭けるしかないでしょう」
ため息混じりに、呆れた口調で未来が返答する。
「賭けるって、何にさ?」
にやりと微笑みながら、ありさが尋ねる。
未来は、目を閉じながら、まるで独り言のように呟いた。
「ちょっとしたことですぐにその気になる、単純明快な誰かさんの意見に、よ」
「へっ、上等だ!」
鼻の下をこすりながら、ありさは満面の笑みを返す。
それを肩越しに見つめ、凱は、再び操縦桿を握る手に力を込めた。
美神戦隊アンナセイヴァー
第24話 【炎雷】
一方、パワージグラットの生み出した異世界(バトルフィールド)では、アンナローグ・アンナウィザード・アンナミスティックの三人が、ジャイアントセンチピードの逃げ込んだ廃墟へ侵入していた。
中は酷く荒らされており、しかもそれは、つい先ほど行われた蛮行による結果なのは明らかだ。
ひび割れ大穴が開いた壁、折れかけた柱、踏み砕かれた床板に、無数の傷が入った家具。
その犯人は、言わずともかな。
しかして、つい先ほど中に逃げ込んだ筈のXENOの姿は、全く見当たらない。
「暗い筈なのに良く見えます。どうしてでしょう?」
不思議そうに周囲を見回すアンナローグに、何故かピースをしながらアンナミスティックが答える。
「それはね、暗視機能があるからだよ」
「暗視機能?」
「そうです。この“マーカー”が、外部の映像を映し出してくれるのです」
そう言いながら、アンナウィザードは自分の額をこつんと指差した。
前から気になっていたが、三人の額には、エメラルドグリーンに輝く不思議な器官が付いている。
アンナローグは、自分のマーカーを指先で撫でてみた。
「こ、これって、そんなすごいものなんですか!」
「そうだよー、ここがアンナユニットの本当の目みたいなもんだからね!」
「へえぇ~」
「それより、XENOを」
「はーい!」
「承知しました」
再び、三人はXENOを探し始める。
一階にはいないようで、裏口のドアが大きく破壊されていることから、外へ脱出した可能性も見えて来た。
その時、天井の方から、ガサッという大きな音が響き、全員の意識が向く。
「二階に逃げたのかな」
アンナミスティックの言葉に頷くと、皆は早速階段を目指すことにした。
二階に辿り着くと、そこには広いリビングのような空間が広がっていた。
一階に比べれば荒らされ具合は低いものの、それでも様々な場所が破壊され、床には無造作にガラクタや倒された家具やその破片が散らばっている。
中途半端に残された生活感が、かつてここを利用していた住人の様子を連想させるが、今はそれどころじゃない。
――ジャイアントセンチピードの姿が、見えないのだ。
この建物は、個人の別荘か別宅のようで、広いとは云っても所詮は個人宅の粋を出ていない。
そんな中に、長さ十メートル前後にも及ぶXENOが忍び込んだのだ。
完全に身を隠すことなど、不可能な筈だ。
のも関わらず、ジャイアントセンチピードは忽然と姿を消している。
「もしかして、二階に居ると思わせて、外に逃げたのでは?」
アンナローグの言葉に頷きはしたものの、アンナウィザードは、すぐに違和感に気付いた。
「床が――」
「えっ?」
アンナミスティックとローグは、慌てて床に注目した。
AIが自動的にサーモグラフィーモードを切り替えたようで、先ほどまでは見えなかった「床の状況」を映し出してくれる。
そこには、赤い光の線が無数に描かれており、床のおおよそ70%以上が赤く染まって見えた。
そしてそれは壁にも走っており――
「上っ?!」
アンナミスティックが叫んだ瞬間、天井が音を立てて崩れ落ちた。
それと同時に、大量のジャイアントセンチピードも降り注いだ。
その数は――数え切れない!
「うわあぁぁぁぁ!?!?!」
「ひえぇぇぇぇぇぇ?!?!」
「――!」
大量の巨大ムカデが、一瞬でリビングを埋め尽くす!
一体辺りの長さと体積が大きいため、彼らは次々に重なり合う。
あまりにもおぞましい惨状に、悲鳴を上げる二人と、かろうじて冷静さを保っている一人。
間髪入れずに飛び上がったアンナウィザードは、飛来したウィザードロッドの柄の部分に飛び乗った。
「ろ、ローグ! 一旦、浮かんで!」
「は、はい!」
多数のジャイアントセンチピードは、次々に二人に覆い被さり、行動を邪魔しようとする。
だが、振り切るのは意外にも簡単で、拍子抜けするほどあっさりと飛び上がることが出来た。
フォトンドライブの力で浮上した三人は、床を完全に埋めつくし、更に天井まで身体を伸ばそうと蠢くジャイアントセンチピードの群れを見下ろし、眉間にしわを寄せた。
「な、何匹いるの――って! 二十体ぃ?!」
アンナミスティックが自分のAIに解答をもらったようで、一人で驚いている。
「ひえっ?!」
「で、出来る限り分裂したみたいですね……」
「どうしましょう?! きりがないですよ、これでは」
「これがまた分裂したら、もっともっと増えて、うわぁ、益々きりがなくなっちゃうよぉ!」
浮かんでる三人に対し、ジャイアントセンチピード達は、懸命に上体を上げて掴みかかろうとするが、僅かに届かない。
しかも、不思議なことに壁を這って登ろうとする者も居ない。
それに、先程までの個体が見せたような、荒ぶるようなパワーが感じられない。
そのどこか奇妙な様子を見て、アンナローグは、ふと疑問を覚えた。
「このムカデ達、もしかして、かなり弱っていませんか?」
「え?」
「さっき飛び上がる時もそうでしたが、外で闘った時と違って、簡単に振り切れたような気がして」
「言われてみれば、すぐに飛べたね」
「……ひょっとしたら」
アンナウィザードは、その言葉に何かを思い、しばらく沈黙した。
そして、
「映像分析しました」
と呟き、説明を始めた。
「本体のXENOが、仮に天井裏で限界まで分裂したのだとしたら、その分エネルギーを消耗して各個のパワーが弱まっているのかもしれないですね」
「あ、そっか! 自分のエネルギーを使って分裂してるから、そうなるんだね」
「? ? ? え、え~と……」
すぐに納得するミスティックと、イマイチ意味が理解出来ないローグ。
だがその時、アンナローグの頭の上に電球が浮かび、パリンと割れた。
「あっ! いいことを思いつきました!」
「えっ? 何ナニ?」
「この建物、丸ごと燃やしてしまったらどうでしょう?」
人差し指を立てながら、アンナローグは得意げに提案した。
「え? え?」
「あ、あの、ローグ……それは、いくらなんでも……」
ドン引きする二人に、アンナローグは、何故か強気な態度で続けた。
「でも! この世界で何を壊しても、現実の世界には影響ないのでしょう?
だったら、それが一番効率がいいと思うんです!」
「そ、そうかもしれないけど~」
困った顔で、姉の方をチラ見するアンナミスティック。
だが、その表情は次の瞬間、驚愕のそれに変貌することになる。
「言われてみれば、確かにそうでしたね」
「え?」
「わかりました、その方法で参りましょう!」
「ええぇぇ?! わかっちゃうのぉ?!」
「みんな、急いで外へ」
「ちょ、お姉ちゃん! マジでぇ?!」
「ミスティック、急ぎましょう!」
「ひゃあぁぁ!」
言うが早いか、二人はアンナミスティックの手を引き、そのまま二階の窓を突き破って脱出した。
すかさず、アンナウィザードが科学魔法を唱える。
“Execute science magic number M-032 "GOD-THUNDER" from UNIT-LIBRARY.”
突然、漆黒の雲が頭上に発生し、稲光をまとわせながらゆっくり降下し始めた。
人差し指と中指を揃えて伸ばすと、アンナウィザードは、右手を真っ直ぐに天へ伸ばす。
次の瞬間、指先が激しくスパークし、細い電光が黒雲へと伸びて行った。
「ゴッド・サンダー!」
本詠唱と共に、巨大な落雷が、一直線に廃墟に落下した。
大気を振るわせる凄まじい衝撃音と破壊音、そして大地を揺さぶる衝撃!
目も眩むような真っ白な閃光が、一瞬のうちに廃墟とその周囲を焼き払う。
気象兵器・ゴッドサンダー。
その余りにも壮絶過ぎる破壊力は、想像を超える範囲で周囲を焼き尽くし、そこに建物があった事すらも判別出来ない程に、何もかもを消し去った。
まるでクレーターのようにへこんだ敷地の端では、黒いタウンエースが炎上している。
「ひ、ひえぇぇぇぇ……!」
「え~ん! ウィザードぉ! 雷怖いってばぁ!
使う前に、ちゃんと教えてよぉっ! ぷんぷん!」
「ご、ごめんなさい、つい……」
胸の谷間へカートリッジを戻しながら、ウィザードが平謝りする。
だがそんな二人をよそに、アンナローグはある事に気付いた。
「ちょっと、待ってください!
なんか、おかしいと思いませんか?」
「え?」
「何かありましたか?」
不思議そうに尋ねる二人に、ローグは真顔で説明する。
「私も今、映像を分析してみたんです。
あのXENOは、身体の節が全部で二十一あったんです。
さっき外で闘った個体も、建物の中に居たものも、全部同じ数です」
「うん、それで?」
アンナミスティックが相槌を打つ傍らで、アンナウィザードだけは、ハッとした顔をした。
「ですが、さっき中に居たXENOは、二十体でしたよね?
もし、本体のXENOが限界まで分裂していたなら……一体、数が合わなくないですか?」
その言葉に、アンナミスティックがようやく顔色を変えた。
「ああっ!」
「あのXENOは、はじめから逃走する目的で、あのような策を弄したのではないでしょうか?」
「ローグ、よく気付きましたね! さすがです!」
ようやく事態を把握した二人は、頷き合うと、再び眼下に注意を向けた。
「――あっ! アレは!」
ものの数十秒も経たないうちに、アンナローグが叫ぶ。
「えっ、どこどこ?」
「さっきの場所から、北の方です!
木の隙間から、動いている影が見えました!」
「え、よ、良く見つけましたね……」
目を凝らすが、アンナウィザードとミスティックには、全く判別が出来ない。
しかし、アンナローグからの通信で位置情報を得たのか、二人のAIがポイントを特定した。
かなりの速度で、現場から逃走しようろしているようだ。
「どどど、どうしよう?!」
「ここは、私にお任せください!」
そう言うと、アンナローグはアサルトダガーをクルクルと回し、順手に持ち替える。
意識を集中すると、モニタの画面が切り替わり、ズームされる。
木々や葉の隙間を縫うように、素早く移動する細長い影を捕捉した。
アンナウィザードの言っていた通り、力が弱まっているのか、なんとなく動きが鈍い気がする。
アンナローグは、ジャイアントセンチピードの向かう先に目を向ける。
と同時に、画面が切り替わりベクタースキャンのような表示になった。
地形の凹凸、木々の生えている位置などがピンポイントで表示される。
そこから、ローグはXENOの移動経路を推測した。
アサルトダガーの刃を展開させて、光の粒子をまとわせると、それを暗闇の森に向けて投げつけた。
「たぁ―――っ!」
アサルトダガーの放つ光が、一直線に筋を描き、闇の中を飛翔していく。
数秒後、遥か彼方の森の中で、ひときわ激しく閃光が広がった。
「え! め、命中したの?!」
「尻尾の、端っこが弱点でしたよね?」
「うん、そうだけど」
「そこを狙いました! 命中していると思うので、確認します!」
そう言うが早いか、アンナローグは瞬速で暗闇の森の中へと飛んで行ってしまう。
ポカーンとその様子を見つめていた姉妹は、思わず無言で見つめ合った。
“命中”を知らせる通信が二人に届いたのは、その数分後だった。
「は?」
「だから、そのクロス・チャージングってヤツをさ。
あたし達でな!」
ありさと未来は、まるで睨みつけるか如き険しい表情で、お互いの顔を見つめ合った。
「凱さん!
XENOを振り落としてください」
未来が、はっきりとした声で指示を出す。
「よし、二人とも、しっかり捕まってろ!」
そう言うと、凱は指示通り、操縦桿を大きく左に傾けた。
機体が垂直に近いくらいに傾倒し、あと少しでキャノピーに爪を立てようとしていたワーベアは、ずるずると滑り落ち、遂には地面に落下してしまった。
とはいえ、高度はたかだか十メートル未満。
XENOであれば、致命傷には程遠いダメージだろう事は想像に難くない。
「おぉ~、落ちた落ちた!」
「喜んでる場合じゃないわよ。
このまま放っといたら、大変なことになるわ」
「わーってるって!
凱さん! あたし達を降ろして!!」
「いいのか、未来?」
「ここまで来たら、もう賭けるしかないでしょう」
ため息混じりに、呆れた口調で未来が返答する。
「賭けるって、何にさ?」
にやりと微笑みながら、ありさが尋ねる。
未来は、目を閉じながら、まるで独り言のように呟いた。
「ちょっとしたことですぐにその気になる、単純明快な誰かさんの意見に、よ」
「へっ、上等だ!」
鼻の下をこすりながら、ありさは満面の笑みを返す。
それを肩越しに見つめ、凱は、再び操縦桿を握る手に力を込めた。
美神戦隊アンナセイヴァー
第24話 【炎雷】
一方、パワージグラットの生み出した異世界(バトルフィールド)では、アンナローグ・アンナウィザード・アンナミスティックの三人が、ジャイアントセンチピードの逃げ込んだ廃墟へ侵入していた。
中は酷く荒らされており、しかもそれは、つい先ほど行われた蛮行による結果なのは明らかだ。
ひび割れ大穴が開いた壁、折れかけた柱、踏み砕かれた床板に、無数の傷が入った家具。
その犯人は、言わずともかな。
しかして、つい先ほど中に逃げ込んだ筈のXENOの姿は、全く見当たらない。
「暗い筈なのに良く見えます。どうしてでしょう?」
不思議そうに周囲を見回すアンナローグに、何故かピースをしながらアンナミスティックが答える。
「それはね、暗視機能があるからだよ」
「暗視機能?」
「そうです。この“マーカー”が、外部の映像を映し出してくれるのです」
そう言いながら、アンナウィザードは自分の額をこつんと指差した。
前から気になっていたが、三人の額には、エメラルドグリーンに輝く不思議な器官が付いている。
アンナローグは、自分のマーカーを指先で撫でてみた。
「こ、これって、そんなすごいものなんですか!」
「そうだよー、ここがアンナユニットの本当の目みたいなもんだからね!」
「へえぇ~」
「それより、XENOを」
「はーい!」
「承知しました」
再び、三人はXENOを探し始める。
一階にはいないようで、裏口のドアが大きく破壊されていることから、外へ脱出した可能性も見えて来た。
その時、天井の方から、ガサッという大きな音が響き、全員の意識が向く。
「二階に逃げたのかな」
アンナミスティックの言葉に頷くと、皆は早速階段を目指すことにした。
二階に辿り着くと、そこには広いリビングのような空間が広がっていた。
一階に比べれば荒らされ具合は低いものの、それでも様々な場所が破壊され、床には無造作にガラクタや倒された家具やその破片が散らばっている。
中途半端に残された生活感が、かつてここを利用していた住人の様子を連想させるが、今はそれどころじゃない。
――ジャイアントセンチピードの姿が、見えないのだ。
この建物は、個人の別荘か別宅のようで、広いとは云っても所詮は個人宅の粋を出ていない。
そんな中に、長さ十メートル前後にも及ぶXENOが忍び込んだのだ。
完全に身を隠すことなど、不可能な筈だ。
のも関わらず、ジャイアントセンチピードは忽然と姿を消している。
「もしかして、二階に居ると思わせて、外に逃げたのでは?」
アンナローグの言葉に頷きはしたものの、アンナウィザードは、すぐに違和感に気付いた。
「床が――」
「えっ?」
アンナミスティックとローグは、慌てて床に注目した。
AIが自動的にサーモグラフィーモードを切り替えたようで、先ほどまでは見えなかった「床の状況」を映し出してくれる。
そこには、赤い光の線が無数に描かれており、床のおおよそ70%以上が赤く染まって見えた。
そしてそれは壁にも走っており――
「上っ?!」
アンナミスティックが叫んだ瞬間、天井が音を立てて崩れ落ちた。
それと同時に、大量のジャイアントセンチピードも降り注いだ。
その数は――数え切れない!
「うわあぁぁぁぁ!?!?!」
「ひえぇぇぇぇぇぇ?!?!」
「――!」
大量の巨大ムカデが、一瞬でリビングを埋め尽くす!
一体辺りの長さと体積が大きいため、彼らは次々に重なり合う。
あまりにもおぞましい惨状に、悲鳴を上げる二人と、かろうじて冷静さを保っている一人。
間髪入れずに飛び上がったアンナウィザードは、飛来したウィザードロッドの柄の部分に飛び乗った。
「ろ、ローグ! 一旦、浮かんで!」
「は、はい!」
多数のジャイアントセンチピードは、次々に二人に覆い被さり、行動を邪魔しようとする。
だが、振り切るのは意外にも簡単で、拍子抜けするほどあっさりと飛び上がることが出来た。
フォトンドライブの力で浮上した三人は、床を完全に埋めつくし、更に天井まで身体を伸ばそうと蠢くジャイアントセンチピードの群れを見下ろし、眉間にしわを寄せた。
「な、何匹いるの――って! 二十体ぃ?!」
アンナミスティックが自分のAIに解答をもらったようで、一人で驚いている。
「ひえっ?!」
「で、出来る限り分裂したみたいですね……」
「どうしましょう?! きりがないですよ、これでは」
「これがまた分裂したら、もっともっと増えて、うわぁ、益々きりがなくなっちゃうよぉ!」
浮かんでる三人に対し、ジャイアントセンチピード達は、懸命に上体を上げて掴みかかろうとするが、僅かに届かない。
しかも、不思議なことに壁を這って登ろうとする者も居ない。
それに、先程までの個体が見せたような、荒ぶるようなパワーが感じられない。
そのどこか奇妙な様子を見て、アンナローグは、ふと疑問を覚えた。
「このムカデ達、もしかして、かなり弱っていませんか?」
「え?」
「さっき飛び上がる時もそうでしたが、外で闘った時と違って、簡単に振り切れたような気がして」
「言われてみれば、すぐに飛べたね」
「……ひょっとしたら」
アンナウィザードは、その言葉に何かを思い、しばらく沈黙した。
そして、
「映像分析しました」
と呟き、説明を始めた。
「本体のXENOが、仮に天井裏で限界まで分裂したのだとしたら、その分エネルギーを消耗して各個のパワーが弱まっているのかもしれないですね」
「あ、そっか! 自分のエネルギーを使って分裂してるから、そうなるんだね」
「? ? ? え、え~と……」
すぐに納得するミスティックと、イマイチ意味が理解出来ないローグ。
だがその時、アンナローグの頭の上に電球が浮かび、パリンと割れた。
「あっ! いいことを思いつきました!」
「えっ? 何ナニ?」
「この建物、丸ごと燃やしてしまったらどうでしょう?」
人差し指を立てながら、アンナローグは得意げに提案した。
「え? え?」
「あ、あの、ローグ……それは、いくらなんでも……」
ドン引きする二人に、アンナローグは、何故か強気な態度で続けた。
「でも! この世界で何を壊しても、現実の世界には影響ないのでしょう?
だったら、それが一番効率がいいと思うんです!」
「そ、そうかもしれないけど~」
困った顔で、姉の方をチラ見するアンナミスティック。
だが、その表情は次の瞬間、驚愕のそれに変貌することになる。
「言われてみれば、確かにそうでしたね」
「え?」
「わかりました、その方法で参りましょう!」
「ええぇぇ?! わかっちゃうのぉ?!」
「みんな、急いで外へ」
「ちょ、お姉ちゃん! マジでぇ?!」
「ミスティック、急ぎましょう!」
「ひゃあぁぁ!」
言うが早いか、二人はアンナミスティックの手を引き、そのまま二階の窓を突き破って脱出した。
すかさず、アンナウィザードが科学魔法を唱える。
“Execute science magic number M-032 "GOD-THUNDER" from UNIT-LIBRARY.”
突然、漆黒の雲が頭上に発生し、稲光をまとわせながらゆっくり降下し始めた。
人差し指と中指を揃えて伸ばすと、アンナウィザードは、右手を真っ直ぐに天へ伸ばす。
次の瞬間、指先が激しくスパークし、細い電光が黒雲へと伸びて行った。
「ゴッド・サンダー!」
本詠唱と共に、巨大な落雷が、一直線に廃墟に落下した。
大気を振るわせる凄まじい衝撃音と破壊音、そして大地を揺さぶる衝撃!
目も眩むような真っ白な閃光が、一瞬のうちに廃墟とその周囲を焼き払う。
気象兵器・ゴッドサンダー。
その余りにも壮絶過ぎる破壊力は、想像を超える範囲で周囲を焼き尽くし、そこに建物があった事すらも判別出来ない程に、何もかもを消し去った。
まるでクレーターのようにへこんだ敷地の端では、黒いタウンエースが炎上している。
「ひ、ひえぇぇぇぇ……!」
「え~ん! ウィザードぉ! 雷怖いってばぁ!
使う前に、ちゃんと教えてよぉっ! ぷんぷん!」
「ご、ごめんなさい、つい……」
胸の谷間へカートリッジを戻しながら、ウィザードが平謝りする。
だがそんな二人をよそに、アンナローグはある事に気付いた。
「ちょっと、待ってください!
なんか、おかしいと思いませんか?」
「え?」
「何かありましたか?」
不思議そうに尋ねる二人に、ローグは真顔で説明する。
「私も今、映像を分析してみたんです。
あのXENOは、身体の節が全部で二十一あったんです。
さっき外で闘った個体も、建物の中に居たものも、全部同じ数です」
「うん、それで?」
アンナミスティックが相槌を打つ傍らで、アンナウィザードだけは、ハッとした顔をした。
「ですが、さっき中に居たXENOは、二十体でしたよね?
もし、本体のXENOが限界まで分裂していたなら……一体、数が合わなくないですか?」
その言葉に、アンナミスティックがようやく顔色を変えた。
「ああっ!」
「あのXENOは、はじめから逃走する目的で、あのような策を弄したのではないでしょうか?」
「ローグ、よく気付きましたね! さすがです!」
ようやく事態を把握した二人は、頷き合うと、再び眼下に注意を向けた。
「――あっ! アレは!」
ものの数十秒も経たないうちに、アンナローグが叫ぶ。
「えっ、どこどこ?」
「さっきの場所から、北の方です!
木の隙間から、動いている影が見えました!」
「え、よ、良く見つけましたね……」
目を凝らすが、アンナウィザードとミスティックには、全く判別が出来ない。
しかし、アンナローグからの通信で位置情報を得たのか、二人のAIがポイントを特定した。
かなりの速度で、現場から逃走しようろしているようだ。
「どどど、どうしよう?!」
「ここは、私にお任せください!」
そう言うと、アンナローグはアサルトダガーをクルクルと回し、順手に持ち替える。
意識を集中すると、モニタの画面が切り替わり、ズームされる。
木々や葉の隙間を縫うように、素早く移動する細長い影を捕捉した。
アンナウィザードの言っていた通り、力が弱まっているのか、なんとなく動きが鈍い気がする。
アンナローグは、ジャイアントセンチピードの向かう先に目を向ける。
と同時に、画面が切り替わりベクタースキャンのような表示になった。
地形の凹凸、木々の生えている位置などがピンポイントで表示される。
そこから、ローグはXENOの移動経路を推測した。
アサルトダガーの刃を展開させて、光の粒子をまとわせると、それを暗闇の森に向けて投げつけた。
「たぁ―――っ!」
アサルトダガーの放つ光が、一直線に筋を描き、闇の中を飛翔していく。
数秒後、遥か彼方の森の中で、ひときわ激しく閃光が広がった。
「え! め、命中したの?!」
「尻尾の、端っこが弱点でしたよね?」
「うん、そうだけど」
「そこを狙いました! 命中していると思うので、確認します!」
そう言うが早いか、アンナローグは瞬速で暗闇の森の中へと飛んで行ってしまう。
ポカーンとその様子を見つめていた姉妹は、思わず無言で見つめ合った。
“命中”を知らせる通信が二人に届いたのは、その数分後だった。
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