美神戦隊アンナセイヴァー

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INTERMISSION-02

●第27話【戦隊】1/2

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「必要なのは、やっぱり合体武器だよっ!
 ぜーったい、なきゃおかしいって!!」

「し、しかしだな。過剰な重火器は我々の兵器構想には」

「だったら、専用のバイク!」

「ありさちゃん、免許持ってるの?」

「う、うぐっ」



 美神戦隊アンナセイヴァー

 第27話 【戦隊】




 地下迷宮ダンジョンの、研究班エリア。
 その一角から、喧々囂々の意見のやりとりが聞こえてくる。
 どうやら、ありさの主張に対して今川や勇次が対応しているようだ。

 何やら一方的に加熱しているようで、興奮したありさの声が何よりも先に耳に飛び込んでくる。
 やってきた舞衣と恵・愛美の三人は、そんな状況に顔を見合わせながら、首を傾げた。

「つまり何か」

「おうよ」

「XENOにトドメを刺すための合体兵器と」

「出来れば、レトロにバズーカとかいいよね」

「五人が専用で使用するバイクと」

「二人バイクで、三人は一台の車でもいいよ」

「巨大変形合体ロボ」

「そうそう。
 で、ちゃんと二~三体目も開発しといてね。二体目以降は単体変形だといいかも!」

「これらが、アンナセイヴァーの今後の活動に絶対必要だという事なんだな?」

「そうそう!
 あと、全員ブレスレットで別々に変身できるようになれば文句なしだけど、それは無理みたいだもんね。
 我慢しとくわ」

 ぷるぷると額に青筋立てて、勇次がありさを真正面から睨み付ける。

「あっきーさん、いったいどーしたの?」

 たまらず恵が今川に話しかけるが、彼は無言のまま「やれやれ」というポーズを取ってみせるだけだ。

 何やら沢山の書籍や資料を抱え込んできたらしく、ありさはそれを乱雑に、目の前のテーブルに広げつつ熱弁を繰り広げていたようだ。

「ち、超全集」

 その書籍の山を見て、舞衣がボソリと呟いた。

「ありささん、一生懸命ですね。
 どうしたんでしょう?」

 愛美の、何の気なしに漏れた言葉が耳に届いたか、勇次は眉をピクつかせて立ち上がった。

「石川ありさ! お前は、テレビの見過ぎだ!」

「えーっ」

「第一、そんなもんいちいち開発しとったら、予算がいくらあっても足りんわい!!」

「でもー、せっかく五人揃っているんだから、戦隊としてはそれくらいやらないと」

「どこのどいつらが“戦隊”だっ!」

 どんっ! と、強くテーブルを叩く。
 何冊かの超全集が、びっくりしたように跳ね上がった。
 舞衣は落ちかけた本を手に取ると、それを愛美や恵に差し出した。

「ふえーっ、何これ? 子供番組の奴?」

「スーパー戦隊」

「わーっ、カラフルで綺麗ですねーっ♪」

 愛美は、渡された『機動戦隊マグライジャー超全集 上巻』と書かれた本を、パラパラとめくる。
 怪人やらメカやらカラフルな写真が一杯掲載されており、恵や愛美は、思わず見入ってしまった。

「ちょっと、そこ!
 せっかく来たんだから、まったりしてないで加勢して!」

「ありささん、どうされたんですか?」

 舞衣の問いかけに、ありさはフンッ! と鼻息を荒げ、なぜか胸を張った。

「今、あたし達の新兵器について提案してたんよ」

「し、新兵器?」

「そー。仮にも“戦隊”を名乗ってるヒーローなんだから、それなりのものが欲しいじゃない」

「だから、誰が戦隊だっつーた」

 勇次のつっこみを、思い切り露骨に無視して、

「あの、私達は女なんですから、どちらかといえばヒロインでは」

「しゃあらっぷっ!」

 愛美に掌底をかざして待ったを掛けると、ありさはノンノンノンと指を振り、不気味に微笑んだ。
 その光景がどこか珍妙で、恵は思わず吹き出してしまった。

「心に正義があるのなら、それはすべてヒーローの証よ!」

「こ、心に正義?!」

「そうっ!」

 ガシッ! と、厚さ五センチはありそうな効果音文字を飛ばしながら愛美の両肩を掴むと、ありさは子供に語りかけるような口調で話し始める。
 肩の痛みを訴える事すら許さない勢いである。

「昔から言うだろう。
 “君の心に印はあるか”」

「は?」

「私達は、戦う為に選ばれた“ソルジャー”なのよ!」

「……えっと」

「おそれていてはダメだと、心に誰かのメッセージが伝わるの」

「な……?」

「そうでなければ、宇宙の青いエメラルド・地球に悪の手が伸びるのを阻止できないぞ!」

「いったい何と戦うつもりなんだよ、ありさちゃんは」

 完全に自己主張に没頭しているありさに、呆れ果てている今川。
 そして、もはや反論する気すら失せて座り込む勇次。
 なぜか舞衣と恵だけは、彼女達のやりとりをワクワクしながら見つめていた。

「と言うわけで! アンナセイヴァーに欠けているものをゆーじさんやあっきーに提案していたのさっ」

「それでこんなに資料を」

「ふえーっ、これ、みんなありさちゃんの物なの?」

 恵の無邪気な問いに、へっへーん♪ とVサインを返す。
 唯一話の趣旨が理解できない愛美は、小首を傾げながらもなんとなく面白そうなので、黙って聞き手に回る事にした。

「ありさちゃん、お取り込み中悪いんだけどさ」

 タイミングを縫って、今川が落ち着いた声を挟む。

「バイクなんて用意しても、体重が2トン近くもある実装後の君達が乗ったら、走るより先にスクラップだよ?」

 今川の言葉に、ありさが詰まる。

「それにバズーカだって、普段どこに待機させるの?
 重火器を転送兵器として使用して、誤爆した時のフォローはできるの?」

「うぐっ」

 益々詰まる。

「ロボットだって、デザインやギミック考察から始めたら、ものすごい時間がかかるし」

「今川、それはなんか違うだろ」

「第一、そんな巨大なモノを作る予算と施設はどーするの?
 それに下手すると、この地下迷宮(ダンジョン)の場所もバレちゃうじゃない」

「うぐぐぐっ! ど、どこか無人島を改造して」


「全額費用出してくれて、島の周辺住民から文句が出ないように根回しして、地盤や海に影響がないようにありさちゃんが作ってくれるんだったら、活用のしがいがあるかもね?」

 今川の理論責めに、反論の言葉を持たないありさは、沈黙せざるを得ないようだ。
 すごく残念そうに肩を落とすと、ありさはポチポチと、点在する(自称)資料をかき集め始めた。

「やっとあきらめてくれたみたいっすね」

「まったく……少しは現実的な発言をせんか、現実的な発言を」

「だあってぇ、イマイチ燃えないんだもん」

 悲しそうな視線を向けられ、勇次は一瞬言葉に詰まる。

「あ、でも、でも、ヒーロー物って、なんかこう……エイヤーってのがあるでしょ?」

 突然、恵が何やら腕を振り回し、オーバーアクションを絡めながら語り始める。

「何ですか、えいやーって?」

「えーっとね、なんかぁ、高い所で自己紹介したりしてなかった?」

「名乗り、ですか?」

 ぼそりと呟いた舞衣の言葉に、ありさの目が激しく輝いた。

「それだ――――っ!!
 メグ、舞衣、アンタらいい事言った! そう、名乗りだよっ!!」

「は、はい?」

「五人居て、新兵器にも巨大合体ロボットにも期待出来ないと言うなら、後に残された道はそれしかない!」

「期待するだけ無駄だっつーに」

 勇次の突っ込みも何のそのといった感じで、ありさは尚も一人でバーニングする。
 キッと表情を引き締め、ありさは愛美達の顔を、じっくりと見据えた。
 突然、舞衣を指さす。

「青、ブルー! 沈着冷静でキザ担当!」

「き、キザ? 私?」

 次に、恵を指し

「緑、グリーン! 意外と万能、たまに怪力、おちゃらけ担当!」

「はえ、おちゃらけ? メグが?」

「そしてっ! ピンク!! 紅一点、ヒロイン! 七変化!」

「七変化って何ですか?」

「ありさ、それはかなり偏見入ってないか?」

 愛美を指し示した指をそのまま自身に向けて、今度は少し胸を張りながら、なぜか誇らしげな口調で語り始めた。

「んでもって、赤……レッド! 情熱と勇気の戦士! しかもリーダー!」

「あれぇ、いつの間にありさちゃんがリーダーになったのぉ?」

「そ、そんな訳ないだろう!
 アンナセイヴァーのリーダーは、向ヶ丘だ」

 勇次の回答に、調子に乗りまくりの赤レッドは、チッチッチッと指を振った。

「ふっふっふーっ、不問! 愚問!
 あんな“デブでカレーでお笑い担当”のイエローがリーダーなんて、ガラじゃなぁい!」

 この場に居ないのを良い事に、好き勝手言いまくるありさを、一同はシラケた視線で眺めている。
 しかし、当の本人はそんな事お構いなしだ。


「黙って聞いてりゃ、誰が“デブでカレーでお笑い担当”ですってぇ?」

 エレベーターの方角から、低い声と凄まじい殺気が飛んでくる。
 思わず身じろぎする一同の前には、制服姿の未来が立ち尽くしていた。

「む、向ヶ丘? いつ来た?」

「緑の辺りからです。
 で、ありさ。誰の事言ってたの?」

「ふ、ふふ……な、なんの事?」

「私には、私の事を指してるように聞こえたんだけど?」

「ふ、ふ~ん。あ~らそぉ?
 被害もーそーじゃないのぉ?」

「それに、私そんなにカレー食べないわ。
 嫌いじゃないけど」

「とか何とか言いながら、ココイチでライス600グラムのチーズ入りカツカレーに福神漬けどっちゃり乗っけて食べてるタイプだろ? わかってんだから」

「な、な、な、何を根拠に?!」

 未来の迫力に押されながらも、無理矢理反抗的な口調でやり返すありさ。
 いつしか、二人の間では激しい稲妻スパークが飛び散っていた。 

「そうね、きっと気のせいだわね。
 まぁありさが、そんな子供っぽい事言うはずないものね。
 いくら身体が高校生とは思えないくらい“未発達”だからって、心は“一応”立派な大人ですものね」

 未来のメガネが、透過光で激しく輝く。
 その鋭い言葉に、今度はありさが過剰反応した。

「未発達って、どこを指して言ったんだ、てめぇ」

「あら、胸の事なんか言ってないわよ」

「言ってるだろーがあっ!!
 今、あたしの胸見て言ったろー!!
 自分がバスケットボール並だからって、いい気になるなぁっ!」

「だ、だ、だ、だ、誰がバスケットボオォォルですってぇ?! この洗濯板っっ!」

「せ、せ、洗濯板あ~~~っ?!?! 許せねぇ! ここで決着着けてやるっ!!」

 激しい閃光がありさを包み、激情の炎が渦巻いて、周囲を焼き焦がす。
 鋭いつむじ風が未来の周りに集い、周囲に群がるものすべてを凪払っていく。
 ……もし二人が実装していたとしたら、多分こんな光景が広がっていたに違いあるまい。

 変身せずとも、室内の大気を澱ませまくる二人を見て、他の全員がほぼ同じ事を考えていた。


「あの、ありささん。
 水を差すようで恐縮ですが」

 二人の千日戦争(サウザンドウォーズ)に割り込んだのは、意外にも舞衣だった。

「な、何だぁ?!」

「まずバイクの件ですが、五人全員のバイクって、もう三十年くらいないと思うのですが。
 ゴーバスターズやドンブラザーズみたいに、レッド専用でしたら話は別ですけど」

「……へっ?」

「あと、イエローの方が太っていてカレーばかり食べているというパターンは、シリーズ最初期にたった一度しかなかったんですけど」

「へっ?!」

 舞衣の言葉に、ありさが硬直する。
 対峙していた未来も、突然の展開に、思わず目を丸くした。

「次の方は甘党であんみつでしたし、それ以降カレー好きな方はいましたが、だいたい皆さんスマートになっていきましたし、女性も沢山いらっしゃいますよ」

「ぬうっ。そ、そりゃそうだけど」

 舞衣の、あまり抑揚のない言葉にありさが押されている。

「ですから、イエロー役の方にそういうイメージを抱くのは、偏見だと思います」

 反論の言葉を失って、たじたじになるありさ。
 舞衣の後ろでは、珍しく未来が右腕を掲げて喜んでいた。

「ガオレンジャーの初期では、イエローが事実上のリーダーでしたし」

「ぬっ、ぬぬぬぬっ!!」

「それに」

「ま、まだあるの?!」

「私、未来さんのユニットは“オレンジ”だと思うんです。
 バトルコサックやトッキュウ6号、ジュウオウバード、サソリオレンジくらいしかいない非常にレアなカラーですから、パターンに当てはめるのは無理があるかと」

「ぐわっ!」

 ありさは、背後によろめいて倒れた。
 予想外の論客の登場に、さすがの未来も、言葉を失う。   

「ね、ねぇ、舞衣って。
 実は……オタク?」

「きゃあああっ!」

「あははは♪ お姉ちゃん、小さい時から良くで観てたもんね、そういうの」

 恵の、フォローにならない言葉が追い打ちをかける。
 頭を抱えて屈み込む舞衣を見て、未来と恵は思わず顔を見合わせた。

「結構長いつきあいだと思っていたけど、まだまだみんなの知らない一面ってあるもんだね~」

 ふと、今川が感想にも似た言葉を漏らす。
 だが勇次だけは、なぜか緊張感漂う表情を崩さない。
 元々こわばった顔をさらにこわばらせ、ボソリと、それこそすぐ側に立っていなければわからないような声で、勇次は呟いた。

「二代目キレンジャーの好物なんて、知っている奴ほとんどいないだろ」
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