美神戦隊アンナセイヴァー

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INTERMISSION-02

 第28話【廃墟】4/4

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 更に、一時間が経過した。

 マンションの敷地を出て、侵入防止柵の外で待機していた四人は、時折アンナローグが発する残光の動きを見止めながら、ただぼんやりと立ち尽くしていた。


「ローグ、ずいぶん時間かけてるよねー」

「うむむ、あたし達がこんなていたらくだもんなあ。
 ホラ見てみろよ、あいつ最上階まで戻って、また調べ直してくれてるよ」

「ああ本当だ。あんな所で光ってる」

 いつの間にか、アンナローグの光はスタート地点の六階廊下端の部屋の辺りに来ている。
 ふと気がつくと、アンナウィザードが、ひどく真っ青な顔をしている。


「あれ? ウィザード、どうしたの?」

 アンナミスティックに肩を叩かれ、思わず驚愕の表情を浮かべる。

「ひ!! あ、ああ、メグ……ちゃ……ミスティック」

「? どうしたの? いったい」

「ええ、そ、それが……」

 奥歯に物が挟まったような、煮え切らない返事が気にかかる。
 アンナミスティックは、真正面からアンナウィザードの頬を押さえ、顔を覗きこんだ。

「ねーねー、いったい何を見たの?」

「え、なんだよ、ウィザード何かあったのか?」

「報告して、ウィザード」

 後の二人も、興味深そうに尋ねてくる。
 やがて、観念したのか、ウィザードはぼそぼそと語り始めた。

「あの、最上階の光なんですけど」

「うん、アレがどうしたの?」

「ちょっと思う事がありまして、その……光を、ズームして見たんです」

「ふんふん、それで?」

「あの光、光だけ……です。
 実体がありません」

「へ?」

「ですから、アレはアンナローグじゃないんです!
 ただ、光だけがフラフラ飛んでいるだけなんです!」

「え?! う、うそっ!
 そんなバカな!」

 慌てて振り返ったアンナミスティックの視線の向こうには、もう光は見えていなかった。
 だが、最上階の端の辺りから、誰かがしきりに手を振っている。

「なんだあ、やっぱりローグじゃない。
 ホラ、あそこでこっちに手を振って――」

「みなさーん、お待たせしましたーっ!!」

 ミスティックの言葉を遮るように、マンションの方から、アンナローグが飛来した。

「え゛?!」

「遅くなってすみませんでした。
 先にご報告いたしますが、XENOとおぼしき者はどこにも居ませんでしたよ」

 そう言いながら、笑顔でミスティックを見つめる。
 だが、ミスティックの目線はまだ最上階に向けられたままだ。

「ローグ――じゃあ、アレ、誰?」

 その言葉に、全員が一斉に目を向ける。
 最上階でこちらに向かって手を振っていた筈の人物は、いつのまにか手の動きを変えていた。


 ――手招きになっている。

 


「う、うわあぁぁぁ――――っっっっ!!!」

「きゃああぁぁぁ――――っっっっ!!!」

「えっ? えっ? どうしたんですか? 皆さん変ですよ?」

「ろ、ろ、ろ、ローグっ! あんた、アレが見えないの、アレがあっ!!」

「ああ、あの方ですか。
 先ほどマンションの事を色々伺って参りました。
 それで遅くなってしまったんですよ。
 地下の機械室の事とか、管理人室の事とか……大丈夫、悪い方ではありませんから」

「って、さっきから、なんであんたそんな事知ってるわけよ?!」

「ん? だって、普通にお話しただけですよ?
 別に不思議な事では」

「あ、あんたひょっとして、今までずっと」


「はい、こちらに最初に来た時から、ずっとわかっていましたよ。
 このマンションの皆さんは、私達が来た事を快く思われていなかったので、事情を説明しておいたんです。
 そしたら、皆さん興味を示してくださったようです」


 アンナパラディンが、口から泡を吹いて失神した。
 アンナウィザードも、眩暈を覚えてふらふらとその場に跪く。
 残ったアンナブレイザーとミスティックは、ただ抱き合いながらガタガタ震え、怯えた目でローグを見つめていた。

「も、も、も、もっと早く、そういう事……言おうよ、ローグぅ~」

「ええ、ですから、さっき“大勢いらっしゃる”と申し上げたのです」

「た、助けて―――っ!!! も、もういやだあぁぁぁっっっ!!」

 二人の叫び声を遮って、突然、強い光がマンションの反対側から接近してきた。
 エンジンの音が聞こえる。
 どうやら車のようだ。


「おーい、お前ら、いつまで実装してんだよ。早く解除して乗れよ」

「が、凱さん?!」

「凱さんだーっ!! た、助かったあぁぁ」

 四人は安心感のせいか、遂にヘナヘナと崩れ落ちてしまった。




「で、結局、くたびれ損のなんとやらだったわけか。ハハハ」

 移動用のワゴン車のハンドルを操りながら、凱は、五人の報告を聞いていた。

「笑い事じゃないです! 本当に、酷い目にあったんですから!」

「も、もう絶対行かない、あんな所絶対行かない、行かないったら行かない。ガクガクブルブル……」

 先ほどから、ぶつぶつと独り言を呟いている未来をかばうように寄り添いつつ、舞衣が、半泣きで喚く。
 恵とありさも、ぴったりくっつきながら身体を震わせているが、愛美だけは、いつもと変わらない態度を維持していた。

「まあ、何があったかは、明日あらためて聞くとして。
 あのマンションの事調べておいたけど、ありゃ九十年代頭くらいに解体が決まったのに、権利問題とかでずっと放置されている物件らしいぜ。
 どうも、呪いがどうとか自殺がどうとかっていうのは、後から誰かが吹聴したデマらしいぞ」

 さすが諜報班リーダーと一瞬感心したものの、何か疑問が残る。
 では、そんな所にどうして、あんなに色々とおかしな者がいたのだろう?

 ――だが、その解答は、最後まで得られる事はなかった。


「そ、そういえばお兄ちゃん、どうしてここに来たの?」

 沈黙を破り、恵が尋ねる。

「どうしてって、なんで?」

「だって、メグ達が探索終わったら連絡する予定だったでしょ?
 でも、誰も電話してないよ」

 恵の言葉に、凱以外の全員がハッとする。
 言われてみれば、妙にタイミングが良かったような気がする。
 だが当の凱は、逆に複雑な面持ちで聞き返してきた。

「何言ってんだか。携帯で連絡しただろ」

「えっ? してないってば」

「だってさ、二十分くらい前に、携帯鳴ったんだぜ。
 出てもほとんど何も聞こえなかったけど、てっきりお前らが呼び出したんだと思って」

 恵が、他の四人の方を向くが、全員が無言で首を振る。
 確かに、その頃は誰も連絡する事に気が回らなかった筈だ。


「で、最後にボソッと“キテ”とか言うからさ。それで迎えに来たんだぞ」

 その十数秒後、車内は、四人娘の悲鳴と泣き声で満たされる事になった。



 更に数日後、五人は神社に出向いてお祓いを受け、更に、今川との凄まじい心霊論を交し合う事になるのだが、それはまた別のお話。

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