美神戦隊アンナセイヴァー

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INTERMISSION-03

●第32話【追求】1/2

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 まだ半泣きの愛美を連れ、未来は、手近な喫茶店に入った。
 一番奥の壁際の席に座り適当に紅茶を二つ注文すると、未来は、バッグから取り出したタブレットを愛美に見せた。

「ここに、アンナローグから取り出した映像データが入っているわ。
 愛美、一緒に観てもらってもいい?」

「は、はい! お願いします!」

 アンナローグ視点の映像なので、そこには千鶴の姿が間違いなく映っている筈だ。
 アプリケーションを立ち上げ、ファイルを読み込む。
 これは、最後に彼女と逢った日のものだ。

「ここです! ねっ? さっきのお宅でしょう?」

「うん、確かに」

 愛美の言う通り、映像の視点は、上空から向坂家の二階へまっすぐ降りていく。
 二階の窓には雨戸は閉められておらず、普通のガラス窓が見えている。
 やがて、窓が開かれ、逆光に浮かび上がる少女の影が映った。

「――これが、ちづるさん」

 七~八歳くらいだろうか、見た目の幼さに反して、結構大人びた喋り方をすることもわかる。
 アンナローグと楽しそうに世間話をして、持ち寄ったビーズアクセサリーを見せ合っている様子が続く。
 それだけ見れば、とても平和で微笑ましい光景だ。

「可愛い娘ね、とても元気そうだわ。
 どう見ても普通に生きてるし、幽霊には思えないわね」

 未来は一瞬身震いすると、頭をワシワシと掻き毟った。
 
「未来さん、信じて頂けましたか?
 ちづるさんは、間違いなくあのおうちの二階の部屋におられるんです」

「わかったわ、愛美。
 これを観た以上、私も信じる」

「ありがとうございます!」

 店内に響く大きな声で、愛美が礼を述べる。
 幸い、今は客が他にいなかったから良かったものの、カウンターの店長が、不思議そうな顔でこちらを見つめていた。

「でもね、愛美。
 私は、あのお母さん達が嘘を言ってるようにも思えないの」

「えっ」

 少し冷めかけた紅茶を一口すすると、未来は少し眉をひそめつつ、続けた。

「ちづるさんは、生きている。
 でも、お母さんは亡くなっていると言ってるし、ご近所の方も同じことを言ったわ。
 普通なら、どちらかが嘘をついてなければ成立しない筈よ」

「そうです、でも、どうしてお母様とお向かいさんは、あんなことを?」

 涙を拭い、オレンジジュースを一口飲むと、愛美は落ち着こうとして深呼吸を始めた。

「この時点で、普通ではない何かが起きているのよ」

「それは、どういうことでしょう?」

「聞いて、愛美」

 未来は、この付近で起こった出来事を説明した。
 凱達が行った調査と分析結果に加え、今朝方伝えられたばかりの、アンナブレイザーが襲われた件について。
 それが、向坂家のあるあの小路という、とても狭い場所を巡る話であるということを。

 愛美の顔色が、みるみる変わっていく。

「どういう……ことなのでしょうか?」

「私は、この一連の話が無関係だとは思えないの。
 まずは、千鶴さんが本当に亡くなられているのか、その裏を取る必要があるわ」

「未来さん、これから、私はどうすれば?」

 不安そうに見つめる愛美に、未来は、目を閉じながら軽く頷いた。

「こういう時のために、諜報班がいるの。
 ――凱さんに、相談しましょう」

 未来は、そう言いながらウィンクした。




 美神戦隊アンナセイヴァー

 第32話 【追求】

 


 
 ここは、SVアークプレイスのミーティングルーム。
 午後になって、未来の依頼を受けた凱は、待ってましたとばかりにタブレットをテーブルの上に置いた。
 そこには、何かのレポートのようなものがびっしりと書き込まれている。

「えっ? 何ですかこれ?」

「何ですかって、調査結果」

「たった今、お願いしたばかりですよ?」

「どうせお前らが聞いてくるだろうと思って、予め調べといたんだよ」

 そう言いながら、凱は眠たそうに欠伸をする。
 未来はタブレットを受け取ると、早速資料に目を通し始めた。

「なんつってな。
 実際はさ、俺が調べたかった事と、未来が聞きたかったことが、たまたま一致しただけだがな」

「それでも充分凄いですよ、凱さん!」

 不意に褒められ、凱は、少しだけ顔を赤らめた。

 数分後、資料を熟読した未来は、信じられないといった顔つきになった。

「――これ、本当ですか?」

「ああ、間違いない」

「でも、この通りだとしたら……」

 凱の報告書の内容は、先日の事件現場周辺の各家庭に関する調査結果だった。
 基本的に、どの家庭にもこれといった問題や疑問点はなかったが、たった一軒だけ奇妙な家がある。

 それが、向坂という世帯。

 ここは、主・孝義をはじめ、妻、娘の三人家族で、晩婚の為か、両親と子供の年齢はかなり離れているようだ。
 娘の向坂千鶴は七歳で、通院・手術歴は確認出来たものの、死亡に関する情報は一切ない。
 小学校を休みがちで、先月からは一切登校していないという情報もあった。
 一部、かみ合わない情報があるとはいえ、ここまではそんなにおかしなものは見当たらないように思える。

 しかし一方、父親の孝義については、気になる点があった。

「一ヶ月前から、出社してない?」

「ああ、しかも無断欠勤で、家族からもその理由は説明されていない。
 加えて、同じ頃から父親の姿を見たという人がいない。
 入院しているとか、そういった情報も見当たらない」

「失踪、ですか?」

「普通に考えたら、そうなるよな」

 一ヶ月前だとすると、向坂家の向かいの住人が言っていた、“千鶴が亡くなったとされる時期”と一致する。
 しかし、これが父親の訃報の誤りとは、考え辛い気がしてならない。
 更に、向坂家で葬儀が行われたという話もない。

(いくらなんでも、ここまで話が食い違ってるなんて)

 未来は、眼鏡のブリッジに指をあてながら、眉間に皺を寄せた。

「この場合、情報内容はともかく、向坂家に何か起きているというのは確定だな」

「そうですね。
 しかし、それと今回の件の繋がりは」

「俺は、XENOが何かしらの形で、この向坂家に絡んでいるんじゃないかと思ってる」

 腕組みをしながら、凱は呟く。
 未来も、その考えには同意だった。

「もしかして、向坂のご主人がXENOで、今回の件の犯人?」

「それはまだなんとも言えないが、XENOは間違いなく、今もどこかに潜伏している。
 今の時点では、繋げて考えるのもおかしなことじゃないな」

「ですよね……」

「それで未来、俺からも聞きたいことがある。
 その、千鶴って子のことなんだが」

 凱の質問に、未来は、愛美にも見せたアンナローグの視覚映像をタブレットで表示した。
 画面には、一生懸命アンナローグに話しかける、幼い少女の姿が映っている。
 凱は、僅かに顔をしかめた。

「なるほど、確かに千鶴って子は存在しているんだな。
 と、いう事は、もう一つの可能性が生じることになるのか」

「もう一つの可能性?
 それって――」

 未来がそこまで呟いた瞬間、突然、凱のスマホが鳴動した。
 勇次からの連絡だ。

「ああ、なんだ、どうした?」

 いつものように、少し面倒くさそうな態度で出る。
 勇次の声は、対面の未来にも聞こえてくるくらいの大音量だった。

『今すぐ、地下迷宮ダンジョンに来てくれ。
 とんでもないことがわかった』

「え? 何があった?」

 表情を引き締める凱に、思わず身を乗り出す未来。
 勇次の次の言葉を待つ。

『アンナブレイザーを襲ったXENOの映像が解析された』

 二人は、同時に立ち上がった。



 十数分後、地下迷宮ダンジョンの視聴覚室にて、いつものメインメンバーの大半が集められた。
 愛美を除いて――

 天井から吊り下げられたプロジェクタ用の大きなスクリーンには、遥か上空から撮影された目白四丁目のあの付近が映されている。
 後から駆けつけた凱、未来、舞衣と恵以外のメンバーは、既に先の映像を観ているようだが、どことなく表情が暗い。 

「この映像は?」

「これは、情報衛星シェイドIIIによるものだ。
 アンナブレイザーの視覚映像では判別が困難だったが、彼女を監視していたアレが何かを掴んでいないかと思ってな。
 調べてみたら、ビンゴだったというわけだ」

 そう言いながら、勇次は人差し指を天井に向ける。
 それを見ていた恵は、釣られて天井を見上げ、「おお~」と呻いた。

 映像は進み、途中から解析映像に切り替わる。
 
「夜間なので非常に不鮮明なんだけど、3D映像分析で別角度からの視覚を擬似的に表してみたんだ」

 今川の説明に首を傾げる恵とありさに、勇次が更に補足する。

衛星シェイドIIIは地上分解度を0.5GSDまで高められる。
 これにより上空から写された複数の画像から、現場にあった物の形状や大きさを計算してだな――」

「ま、待て、勇次!
 益々判らなくなるから、そのまま進めてくれ!」

 戸惑う凱の制止につまらなそうな顔を向け、勇次はさらに映像を進める。
 スクリーンには、やや斜め上方から見下ろすような形で、アンナブレイザーと、その周辺の様子が映っている。
 腕組みをしながら佇んでいるブレイザーの真上に、煌々と輝く街灯の明かりが見える。
 だが、次の瞬間、

「「「「 ――えっ?! 」」」」

 未来をはじめ、後から来た全員が、目を剥いて驚きの声を上げた。

 アンナブレイザーの頭上、目測でおおよそ二メートル程の位置に、突然黒く巨大な物が、唐突に出現したのだ。
 それは横長の楕円形で、真っ黒な影の塊のように見える。
 この謎の物体は、そのまま垂直に落下していくが、途中で口と思われる器官を大きく展開する。
 しかし更に衝撃的なのは、その楕円形の影には“胴体”のようなものがあることだった。
 アンナブレイザーが咄嗟に身をかわそうと動き出した瞬間、楕円形の影は身体を伸ばしたのだ。
 まるで、空間に開けられた穴から上半身だけを覗かせたような――

 その後、アンナブレイザーに“腕”のようなものが振るい下ろされ、これがジャケットを引き裂いたようだ。
 しかし、身体を反転させて再び街灯の方に向き直るまでに、謎の影はスルスルと身体を引き戻し、完全に消えてしまった。
 この間、たった3秒未満の出来事である。

 一連の流れを見た後、しばしの沈黙が流れる。

「今のが、今回のXENO……?」

「ど、どこから出てきたのぉ?! あのおっきな影?」

「つか、何度見ても、こんなん良く避けられたなぁ我ながら、って思うわ」

 ため息混じりで呟くありさに、舞衣と恵は無言でウンウン頷いた。

「まさか、本当にテレポートしてきたっていうのかよ、おい」

「想像の斜め上を行きましたね。
 でも、これであの不思議な現場状況はおおよそ理解出来ました」

 それぞれの感想が述べられた後、勇次が咳払いをしながら話し出す。

「あまりにも非現実過ぎる状況だが、何かしらの能力で、今回のXENOは“空間を飛び越えての攻撃”が可能なタイプだと判断した方が、今は賢明のようだ。
 ならば、これを前提に対策を講じる必要があるな」

「でも、空間を飛び越えるような存在なんて、いったいどう対処すれば?」

 舞衣の不安の声に、今川が反応する。
 どこからともなく紙袋を取り出すと、中に手を突っ込みながらごそごそさせ始めた。

「これは完全な予想だけどさ。
 このXENOは、普段そんなに大きく動くようなことはしないと思うんだ」

「それは、何故でしょう?」

「単純に、物凄いエネルギーを使うからさ。
 アンナミスティックの“パワージグラット”ってあるだろ?
 あれも次元を飛び越えるものだけど、実際にはとんでもない量のエネルギーを消費してるんだ」

「へぇー、そうなの?
 それって、どのくらい?」

 舞衣とありさの素朴な疑問に、今川は片手をぱっと開いてみせる。

「大雑把に言えば、原子力発電所の半年フル稼働分に相当するくらい、かな?」

 今川の発言に、勇次も頷いて同意する。

「電量に換算すれば、だいたい19テラワット強程度だからな、そんなもんだろう」

 その回答に、未来を除く全員が、先程以上の驚愕の声を上げた。

「そ、そんなに?!」

「って! ええっ?! そんなに凄いものだったの? パワージグラットって?」

「そ、そんなとんでもないエネルギー、アンナミスティックの中に納まり切るわきゃないだろ?!」

「いやー、凱さん。
 何言ってんスか。アレのおかげで行けちゃうんですよ」

 そう言いながら、今川は指で「C」の形を作ってみせる。
 それを見た凱は、思わず口元を手で押さえた。

「“グレイスリング”って、そこまで無茶出来るのかよ!」

「出来るんですわ、これが。
 って、話逸れましたね。
 つまり、空間跳躍ってそれくらいエネルギーを大量に消費するんだよ。
 そのXENOが、どういう理屈でテレポートしてるのかわからないけど、絶対にかなりの体力を使ってるって話さ」

 今川が、お目当てのハンバーガーを取り出しながら説明する。
 
「はぇ~、アンナミスティックって、すっごくスゴイんだね~!」

 当の本人が、大口を開けて驚く。
 それを見て、ありさは思わず吹き出した。
 
「つまり、出来るだけ自分は動かないようにしつつ、一瞬で離れた所にいる獲物を捕らえるようにしている、と」

「だろうな。
 だから、あんな短時間の襲撃しか行わないのかもしれん」
 
 未来と勇次の会話に、舞衣が加わる。

「だとしたら、XENOは普段からあの付近に居るということでしょうか?」

「今川さんの想定通りだとしたなら、XENOの本体は、恐らく現場を直接目視確認でき――」

 そこで、未来の言葉が止まる。

「み、未来さん? どうされたのですか?」

「う、ううん、なんでもないわ」

 明らかに顔色が青ざめる未来を、舞衣が心配そうに覗き込む。
 それを横目で見た凱は、その場を早めに切り上げようと考えた。

「概要は理解した。
 じゃあ、ここからのアンナセイヴァーの対応は、こちらで考える。
 勇次達は、このとんでもねえXENOの被害を止める対策を検討してくれ」

「いきなり無茶振りするなあ、凱さん」

「そうは言うがな、凱。
 このままでは――」

 未来が、すがるような目で凱を見つめている。
 その気配を悟り、凱は勇次達の言葉を、手をかざして制止した。

「悪いな、難しい話はまた次の機会に頼む」

「う、うむ……」

「みんな、場所を変えよう。
 アークプレイスに戻るぜ」

 そう言うと、凱は四人の少女達の顔を見回した。 
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