美神戦隊アンナセイヴァー

敷金

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INTERMISSION-04

 第36話【食神】2/4

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 一方、その頃――

「うわわぁ~、すごい人だねぇ」

「た、確かにすごいですね。
 何かあったんでしょうか?」

 店の入り口の凄まじい客数に驚いた二人の少女は、背伸びをして店内を覗いてみようと試みる。
 しかし、自分達の背ではまったく何もわからない。
 久しぶりに訪れた彼女達にとって、この人ゴミはちょっとした驚異だった。

 ふと見ると、大食いチャレンジの告知看板が覗いている。
 くりくりとした瞳をぱちくりさせながら、ポニーテールの少女は、そこに記されたルール書きに見入った。

「ああ、これだよ! 誰か挑戦してるんじゃないかな?」

 すると、近くにいた青年が話しかけてきた。

「今ね、中で大食い自慢のチーム同士で対決やってんだよ!
 もう勝負は着いているみたいだけどね」

「へーっ、そうなんですか……って、チーム?!」

 少女の片割れは、その言葉に、夕べの友人とのやりとりを突然思い出した。

「ね、お姉ちゃん! まさか」

「き、昨日、愛美さんが話していたのは、これの事?!」

 少女達は、顔を向けて軽く頷くと、無理矢理人ごみの中へ潜り込んでいった。

  

 45分経過。
 威張田チーム 合計69ポイント。
 ありさチーム 合計39ポイント。
 勝負は、完全に決していた。

「残念だったわねー、やっぱり、その道のプロには勝てなかったという事なのかしら」

 店長が、すでに悶絶状態となったありさ達のテーブルから皿を下げつつ呟く。

「あ、あんたが勝負をたきつけたんでしょうが~」

「せ、せめて40ポイントは超えたかった……」

「ガハハハ、ではお前達、今日一日だけ人間としての自由をやろう。
 明日からは我等の肉奴隷よ!」

 あれだけ食ったのにまだ全然ゆとりの威張田兄弟が、揃って腕組みをしながら見下ろしている。

「と、ところでありささん、ニクドレーって、なんですか?」

「な、何よ愛美……。
 そんなのも知らないの?」

「は、はい……うっぷ」

「未来、せ、せ、説明してやって……」

「な、なんで私が……?」

 突然振られた未来は、しばらくの沈黙の後、蚊の鳴くような声でレクチャーを始める。

「それはね……。
 どこか訳のわからない洋館でメイド服着せられて、なんでも言う通りに奉仕させられる人間の事よ」

「そ、それでは……私は元々ニクドレーだったのですか?」

「い、いや……そうじゃないでしょ」


「いい? それじゃあ、ここで勝負を締め――」

 そう店長が言いかけた時、



「待ってーッ!」




 突然、どこかから大きな制止の声が響いた。

「むうっ、何奴ぢゃ?」

 マンナッカーが入り口の方に視線を向けると、そこには、やっと人だかりを乗り越えてきた少女二人の姿があった。
 清楚な服装に豊満な肉体を包んだ姿と、生足全開のショートジーンズを履いた肉体美は、三兄弟の邪な肉欲を一気にかき立てた。

「ぬぬっ、巨乳再び!」

「むむううっ、へ、ヘソ出しぃ! ホットパンツぅ!
 た、たまらんっ!!!」

「思わずマニアックっ!」

「突然欲望を口に出しなさんな、このエロ兄弟。
 って、あ、あんた達は!」

 驚く店長を尻目にありさ達に駆け寄った二人は、彼女達の惨状を眺めて眉をしかめ、そして男達の方を睨みつける。

 相模舞衣、相模恵。
 駆けつけたのは、蒼い魔女と緑の戦士だった。

「ま、愛美さん、ありささん、未来さんまで」

「ひどい、どうしてこんな事を?!」

「ぐへへ、なんだ?
 お前達も肉奴隷になりてぇっていうのか、ぜえいっ!」

「おい、今のセリフは無理があるだろう」

 新たな美少女二人の登場に、勝利に酔いしれる男達のド失礼な言葉が炸裂する。
 そのあまりの侮辱に、二人は、怒りと恥ずかしさにぷるぷると身を振るわせた。

「な、なんて破廉恥な!」

「この人達が、愛美ちゃん達をこんな目に?!」

 三人の筋肉と、二人の美乳が真正面から激突の火花を散らそうとしている中、店長・瞳だけは、一筋の冷や汗を垂らしながら、この状況に別な意味で感嘆の念を示していた。

「まさか、この子達があんたらの知り合いだったなんてねー。
 世の中狭いわ」

「瞳さん!
 私達が、ありさちゃん達のチームに助っ人として参加するよ!」

 恵が、珍しくギラついた視線を向け、はっきりと言い放つ。
 その言葉と態度に、場の人々はさらなる動揺の声を上げた!

「め、メグちゃん。
 それはいいけど、とても勝負にならないわよ?!」

「大丈夫!
 ルール読んだけど、要は一人ひとりのノルマがクリアできてればいーんだよね?」

「いや、そうじゃなくて、ね」

「おいおいお嬢チャン。
 気は確かか?!
 その上で、俺達のポイントを今から抜かないとならないんだぜ?」

「ましてや、そこで沈没している者達がこなせなかった分まで上乗せされる。
 もはや並の人間には果たせぬ事道理よ」

 威張田達の挑発が浴びせられるが、舞衣も恵も、まるでそれが聞こえていないかのように、平然とした態度で席につく。
 手前のテーブルの上の皿をどけ、隣で突っ伏している三人を軽く一瞥する。

 そして舞衣が、「ビシィッ!」という効果音付きで、威張田三兄弟を激しく指さした。

「私達、今から勝ちます!
 あなた達に!!」

 高らかな宣言が、店内に響き渡る。

「こ、こいつら正気か?!」

「我々は、全員各自23ポイント稼いでおる。
 対して奴等はこれまで平均13。
 あの二人は、今から30ポイント以上稼いだ上に、自分たちのノルマをこなさなければ我々に勝てないのだが」

「むふふ、しかし我々はまだ食べられる、ぜえいっ!」

「確かに!
 五人総肉奴隷化の野望は、ひるむ事はない!」

「兄者達、提案なのだがな。
 あの二人は、我々共用の玩具として」

 なんだか勝手に盛り上がっている三人を完全に無視して、舞衣と恵は、店長に目配せを施す。
 それを見た店長の顔はなぜか青ざめ、思わず数歩後ずさってしまった。

「あ、あんた達、まさかアレを?!」

「はい、いつもの“お忍び”で。
 その代わり、本気、出します」

「よろしくお願いしまーす♪」

 元気な返事とは裏腹に、あからさまな店長の動揺はギャラリーにも伝染する。
 何だかよくわからないが、舞衣と恵のあまりに自信たっぷりの態度は、かえって周りに戦慄を振り撒き始めているようだった。
 ふと、どこかから声が上がった。

「あ、もしかして、“チャンプ”?!」

 その言葉は、一瞬静まり返った店内に響き渡る。
  
「チャンプ?!」
「あ、あの伝説の?! どこだ、どこにいるんだ?!」
「俺、まだ実物を一度も見た事ねーんだ!」
「実在したのかよ! チャンプって?!」


「ち、ちゃんぷ?
 み、ミキ、ちゃんぷって何?」

「“ちゃんぷ”って言ったら……野菜ののった、な、長崎名物の……麺類」

「嗚呼、アレの事かぁ」

「ニガウリがおいしいんですよ……こ、今度作ってさしあげますね…けぷ」

「それ、ちゃんぷるじゃなかったっけ」

 すでに脳の支配権をラードに奪われた者達は、眼前に展開する事態を正確に捉える事すらも出来なくなっていた。

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