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お前と約束はしていない!
しおりを挟む生まれたときから病気持ちで、従弟は入退院を繰りかえし生きてきた。
三つ上と年も家も近かった俺は、週二三、病院に通い、話したり、遊び相手に。
母に「仲良くしてあげてね」と頼まれたのもあるけど、一人っ子で兄弟がほしかった俺にしたら、弟ができたようで満更でなく、欠かさず病院通いをして十年。
小学校高学年からは一人で病院に訪ねて、その日、看護師もいなく病室で二人きり。
いつも物静かながら、一段と口が重いのに「どうした?」と聞くと、検査結果がよくなかったとのこと。
励ます間もなく、遠い目をして呟いた。
「このまま、病院に入ったりでたり、学校にいけないまま、まともに社会にでれないまま、大人になるなら、もういっそ」
皆まで告げずとも、死に魅入られたその思いは察しられて、でも「そんなこと云うな!」とたしなめたり「大丈夫だって」と気休めを口にしなかった。
一呼吸して、あえて空気を読んでないように、にこやかに応じたもので。
「お前が大人になったら、俺にできることは、なんでも叶えてやる!絶対にな!」
「針千本飲ます」と指切りをした従弟は、生気をとりもどしたように顔を輝かせたものを、翌日、渡米した。
日本では非合法な治療を、アメリカでは受けれるとのことで、従弟の母、おばさんが、それに望みを懸けたという。
旦那や親せきに反対されていたので、ひそかに資金集めし、突発的に決行したわけだ。
そのあと、従弟とおばさんから連絡はなく、二人の行方も病気の経過も知れないまま。
「できたら治療がうまくいって帰国してほしいな」と日々、願いつつ、俺は俺で日本の日常生活を送り七年。
かつての約束を果たすべく、事前連絡なしに、大学に押しかけた彼は、空いた部屋に俺をつれこみ「結婚しろ」と壁ドンして迫った。
華奢で気弱、儚げな雰囲気だった少年が、まあ、見違えたように長身で筋肉質な雄々しいさまになったもので、いや、でも、おかしい。
従弟は正真正銘の日本人のはずが。
筋肉隆々な腕で、俺を壁に張りつかせる肉食獣のような彼は、金髪に青い目。
見も知らない、この外国人曰く、アメリカの病院で知りあった従弟に一目惚れしたと。
が、従弟は俺に恋焦がれていて、日本でした約束についても打ち明け「結婚してもらうんだ」と頬を赤らめ、語ったのだとか。
ただ、残念ながら、従弟の治療はままならず、体調を崩し、憔悴していくばかり。
先が長くないと悟った従弟は、アメリカ人の彼に頼みごとをした。
もう、従兄との約束を果たせないだろうけど、どうしても諦めきれない。
自分が死んで、この世にいなくなったとしても、従兄が他の人と結婚をして、子供をつくって、健全な家庭を築くのが耐えられない。
「せめて、男となら、まだ我慢ができる。
だから、どうか、従兄が女の人と結婚するのを阻むため、きみが関係を持って、つなぎとめてくれないか。
ってな」
「いや!従弟は不憫だし、その思いは分からんでもないが、とりあえず、お前じゃないから!
赤の他人すぎるお前と約束した覚えないから!
七年ぶりに、まさかの求婚するにしろ、従弟がするべきで、お前誰だよ!ってなるだろうが!
なんだ!?従弟の代わりに俺に針千本飲ませるか!?」
「しかたないだろ、彼は亡くなってしまったんだから。
そんな、お呼びじゃないみたいに、クレームされても」
「ああ、そうね!
音信不通のおばさんの代わりに、従弟のこと知らせてくれて、そのことは、ほんと、ありがたいけどね!
にしたって、従弟の最期の願いを叶えるにしたって、正体や事情明かさないで、近寄ったほうがよかったんじゃね?
ていうか、従弟も残酷じゃね?
自分に惚れている奴に、自分が惚れている人と恋をしてほしいって頼むなんてな!
そうだ!お前にとっちゃあ、憎たらしい俺と、恋仲になれんのか!?
ええ!?」
「最愛の人の頼みなら、なんでもやれるさ。
お前が憎くても、恋仲になって、女と結婚も子供も作らせないようにしてやる」
「おおい!そこは、せめて、従弟の話を聞くうちに、俺のことも愛するようになったとか、リップサービスしろよ!
この馬鹿正直なアメリカ人が!
変に自信満々だが、俺には彼女がいるし、円満だからな!」
頭に血を上らせつつ、馬鹿正直さも過ぎれば怖くて、負け犬の遠吠えみたく「ざまあみろ!」と喚いてしまう。
見透かしてか「問題ない」と不敵に笑い、耳元に囁いてきた。
「俺が愛さなくても、お前が俺を愛するようになればいいんだろ?」
「ふ」と笑いを含んだ息を吹きかけられ、背筋に震えが走る。
悔しいかな、口説き落されそうな予兆を覚えるに、なんだかんだ、ひたすら従弟に愛をささげようとする、病的な一途さに、もう惹かれているのかもしれなかった。
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