鉄筋青春ロマンス

ルルオカ

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鉄筋青春ロマンス

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母親は早くに離婚をして、幼い俺と暮らしていた。

仕事が長続きしない母親の稼ぎは少なく、生活は苦しかったけど、叔父が助けてくれたこともあって、そんなに辛い思いをした記憶はない。
母親が新興宗教にのめりこむまでは、だ。

新興宗教の信者として活動するようになった母はいよいよ働かなくなり、俺の面倒もろくに見なくなった。

二三日置きに通ってきていた叔父とは口論が絶えなくなり、ついには叔父から逃げるように引越しまでする始末。

叔父が通ってこなくなったことで、母親の宗教活動に歯止めがかからなくなった。
働かなければ家事もせず、家をゴミだらけにして俺を部屋に閉じこめ、挙句に宗教の施設に入り浸り帰ってこなくなってしまった。

ゴミで埋め尽くされる部屋に閉じこめられたまま、どれだけの時間をどうやって過ごしのか、そのときの記憶は曖昧だ。

気がついたら病院のベッドに寝かされていて、叔父が布団に顔を埋めて寝ていた。
目覚めたとたんに号泣をしたもので、俺の手を両手で握りしめたまま「すまない」「すまない」と延々と言いつづけた。

退院後は実家に戻らずに、叔父の家に連れていかれそのまま暮らすことになった。

叔父や児童保護局の人が言うには母親は生きているらしいものの、どこにいて何をしているのか詳細は教えてくれなかった。

気を使ったつもりなのだろうけど、幼心ながらに察せられたものだ。

母親は俺を育てるのを拒否したのだろうと。
俺は母親に捨てられたのだ。

母親と離れ離れになったことが辛く悲しくなかったわけではない。

が、叔父のボクシングジム兼家での生活は忙しく、加えて引き取られてしばらくは叔父がつきっきりで構ってくれたので、思ったより母親を思い出し落ちこむことはなかった。

生まれたときから俺の面倒を見て、おしめも替えていたという叔父だから母親代わりになれたのだろう。

それにしても叔父の子育てぶりは熱心だった。
一通りの世話をしてくれたのはもちろん、小学校に上がるまでは一日中ほとんど傍にいてくれたし、一人で留守番ができる年になっても、必ず一緒に食事を取るなど二人で居る時間を作るようにしてくれる。

さらにはいい年をして結婚もしていない。

縁がないというわけではないと思う。
噂では俺が叔父と暮らす前から交際している女性がいたらしい。

俺が叔父と暮らしはじめて、少ししてから別れたという話だ。
理由は分からないけど、その後、叔父が女性と交際していないところを見ると、俺のせいではないかと考えてしまうというもの。

女性関係を絶ってまで叔父が面倒を見てくれることに、年を重ねるにつれ、だんだんと心苦しくなっていった。
そして、ある程度世間を知り、自分の頭で物事を考えられるようになった年頃になって気づいた。

叔父はおそらく、母親に監禁されていた俺をすぐに助けられなかったことを後悔しているのだと。

俺たちが急に引越しをして居場所を知らせもしなかったのだから、すぐに見つけられなかったとして叔父のせいではない。

が、叔父はそう思わずに自分を責めて、二度と俺をあんな目に合わせまいと心に決めたのだろう。
罪悪感と使命感が叔父を過保護に突っ走らせているわけだ。

叔父は俺の命の恩人だ。
息子でもないのに、なんなら息子以上に愛情をかけてもらっていることも、とてもありがたく思っている。

できれば恩返しをしたかったけど、バイトをすることも断固として許さない叔父なので、せめて他で負担をかけないように普段から心がけていた。

ただでさえ罪悪感と使命感で締めつけられているのだ。
思い悩み、苦しみ落ちこむ俺の姿を見たら、また叔父は必要以上に自分を責めることになる。

いや、自分を責めるだけならいい。

現状を知れば一線を越えかねない。
命の恩人を犯罪者にするわけにはいかない。

叔父からは絶対に隠し通す。そう心に誓ったとはいえ、三日目にしてメンタルも体力も底をつきそうだった。

といって疲れた顔や暗い表情を叔父に見せたくはなく、玄関の扉の前でため息を吐きつくす。
吐きつくした後は浅く息を吸ってしばし目を瞑り、明るい表情を作ってから「ただいま」と扉を開けた。

すぐに「おかえりー」と返ってきて、エプロンをつけた叔父が台所から顔を覗かせた。

俺の感情の機微や心の揺れには敏感な叔父だ。

昨日は騙せたものを今日はどうかと、内心ひやひやしたものだけど、叔父は疑ってこないどころか、「友達がきているよ」と浮き立ったように言ってきた。

つい「え」と素の反応をしてしまったとはいえ、嬉しそうな叔父は気にすることなく「お前の部屋で待ってる。よかったら一緒にご飯食べていってもらいなよ」と言って台所に顔を引っこめた。

ジムの仲間ならともかく、夕食時に友人が訪ねてきたのははじめてだ。

叔父は喜んでいたものの、どうにも嫌な予感がして靴を見れば、汚くくたびれた俺のスニーカー、擦れた傷だらけの叔父のサンダルと並んで、磨き上げられた高級そうな革靴があった。

目に入ったとたん「っ!」と叫びを上げそうになったけど、唇を噛んで堪えて重い足取りで自室に向かった。

襖を開けると、座卓の前に制服姿の男が座っていた。
隣町にある名門の私立高校の制服を着た爽やかなイケメンで、たしか名前は金森。

名門校に通っているだけあって育ちが良く、父親は市長を務めているのだとか。
噂によれば、成績優秀でスポーツ万能、品行方正で教師の受けも良く、もちろん女子にもてはやされているという抜け目のない優等生だった。

「やあ、お帰り」と笑いかけて軽く手を上げる仕草も如才ない。
俺はとても笑い返すことができず「出て行け!」と怒鳴りつけたいのを耐えるのに精一杯だった。

口が利けない代わりに敵意全開で睨みつけたものを「今日も疲れただろう。まあ、座りなよ」と金森は憎たらしいほどにこやかにふるまう。

自室で金森とくつろぐなんて、とんでもない。

叔父にばれたら困るとはいえ、ばれる前にお引取りを願おうと思い、俺は金森の言うことを聞かず立ったまま、襖も閉めなかった。

俺の反抗的な態度に金森は笑顔を歪めることなく、無理強いもしてこないで「君の叔父さんは、いい人だな」と話題を変えた。
ように思わせて、俺には脅しているように聞こえ、奥歯を噛みしめたらなら襖を静かに閉め、座卓を挟んで金森の向かいに座った。

まともに顔をつき合わせたくなくて座卓を見つめる。
あきらかに目を逸らしているのに、金森は注意をしてこず、他に言葉をかけてくるでもない。

おそらく余裕綽々に笑顔を絶やさず、こちらから切り出すのを待っている。

金森の思う壺になるのは嫌だったけど、同じ食卓につく前に決着をつけねばと「なんで」とだけ言った。
後の言葉はつづかなかったものを「なんでって」と金森には伝わり、笑われる。

「家に近づかないなんて約束はしていないじゃないか。
それに、君が大好きなおじさんに本当にばらしていないか、家にこないことには確かめようがないだろ」

正論を言っているようで、結局のところ、金森の訪問は嫌がらせでしかない。
日が落ちるまで逃げ切って帰宅し、ほっと一息つきたいところを邪魔するのが目的だ。

苛立ったり、疲弊した姿を見せるほど金森は喜ぶのだろう。
だとしたら、なるべく無表情、無反応を通せば、飽きるかもしれない。

その可能性に賭けて、俺は反論も返事もしなかった。

ほう、と感心したように見てきた金森は「それにしても」と部屋を見渡し、今度こそ話題を変えた。

「君は、エロ本どころか、グラビアの雑誌さえも持っていないんだな。
パソコンやタブレットも部屋にはないし。

じゃあ携帯派?
興味あるなあ、携帯を見せてよ」

どうせ金森は俺の交友関係など、すべて把握している。
逆らえないというよりは、見せても問題はないと判断をして携帯を差しだした。

金森が携帯を開け、黙ってボタンを押すことしばし「なんだ」とつまらなそうに言い、携帯が座卓に放った。

「ネットは使えないし、画像や動画のファイルフォルダも空っぽじゃないか。
アドレス帳に女の名前もない」

大した収穫がなく興味を失くしたかと思いきや「そういえば、噂で聞いたんだけど」と携帯を取ろうとした俺の手を掴んだ。

「下ネタが苦手なんだって?
下ネタの話題になると必ず逃げるって聞いた。

それに保健体育の授業には出なかったとか。
どこまでが本当なの?」

息が額にかかるほど、金森の顔は傍にあるらしい。

まさか、この状態で下ネタやエロ話を聞かされるのかと思い、慌てて掴まれた手を解こうとしたけど、次の瞬間、指先まで凍ったように動けなくなった。

股間に何かが這う感触がしたのだ。

自分で触っていないのなら、その正体は明らかだ。
金森の足。

足の指先で布越しに形をなぞるようにしてから、親指と他の指で挟んで揉むようにして、足の裏で軽く踏みつけてくる。

うっかり反応することを恐れはしなかったけど、金森を殴り倒し逃げだしたいのには違いなかった。
とはいえ、弱みを握られている身で殴るのはご法度。

足を退けたり避けようとしても、行為をエスカレートさせる可能性が高い。

なので、何とか声を上げず身動きしないでやり過ごそうとしたものを、全身に冷や汗が噴出し悪寒がやまなく、異物感が喉にこみ上げてくる。

嘔吐するまで耐えられるか。
厳しいところだったけど、限界すれすれで金森は足を遠ざけてくれた。

詰めていた息を吐いてうな垂れれば「本当なんだ」と言われる。
視界にあるのは携帯を掴む俺の手を掴む、金森の白い手。触れる掌から、俺の冷えた体温と震えが伝わっているのだろう。

性的なアプローチに、あきらかに相手が寒気と嫌悪感を覚えているようなら、普通は手を引くところ。

金森は手を放さず、顔も近づけたままでいて、俺の額に熱っぽい息を吐きかけている。
先とは違う嫌悪感がして手を退けようとすれば、骨を軋ませるように強く掴み、額に唇が擦れんばかりの距離で囁いてきた。

「君は、本当におもしろいな」




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