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怪談に怯えるあまり俺を誘惑するお前に笑えない
しおりを挟む高校の修学旅行にて。
色気のない男連中が部屋に集まり、定番の怪談を。
彼女なし、女友達との約束もなしの俺も、もちろん参加したが、幼なじみの洋介がついてきたのは意外。
幼いころ、お化け屋敷で失神したというトラウマがあり、以降、そういう類に一切、関わらなかったから。
曰く「いいいい加減、克服しないと、男として情けないし!」らしい。
そう啖呵をきったくせに怪談がはじまると泣き叫んで大騒ぎ。
「静かにしないと追いだすぞ」と注意されて、今は俺にしがみつき、俺の腕を噛んで我慢。
肌に爪を立てられるし、腕を噛まれるたびに痛みが走ったが、洋介のさせたいまま、たまに頭を撫でたり。
ふだんから、べたべたする俺らだけに、まわりは気にせず、次次と怪談をお披露目。
話し終えたら「も、もうだめだ!」と洋介が奇声をあげて。
「な、なあ、俺を抱いてくれよ!」
みっともなく俺に泣きつくのに笑いが起きたものを「昔は俺が怯えるたびに抱いてくれただろ!」とつづくと、皆は息を飲み、一段と場の空気が冷えてしまい。
当の俺といえば、洋介をじっと見て、おもむろにスマホを手に。
スピーカーにして、皆に聞かせたのは「おー、どーしたー?」と電話をかけた洋介の声。
「今、お前なにしているんだ?」
「なにって?もー!なんだ妬いてんのかあ?
こっそり旅館をぬけだして、彼女とデート中だよ!
ん?なに?もう足が痛くて歩けないから抱っこしてくれ?
もーわがままさんなんだからあー」
「じゃ、そういうことで俺忙しいから」と通話が切られる。
リア充への怒りが、皆の顔を歪ませたのもつかの間「え?じゃあ・・・」と俺に集まる視線。
「きゃははは!」ともう一人の洋介は顔を近づけ囁いたもので。
「彼女が抱っこして、だって。
かわいそーだねえ」
耳にくすくすと笑う余韻をのこして消失。
悲鳴こそあげなかったが、皆は顔を見あわせて「解散するか」「うん」「俺、おまえの部屋で寝ていい?」「いいよ」とそそくさと退室。
一人になった俺は、自室だったからそのままベッドインしたものを、余計なことを思いだして眠れず。
そう、昔、洋介はことあるごとに、俺に「抱っこ」を求めた。
お化け屋敷のときは、はぐれて抱っこできなかったから失神を・・・。
「でも、もう、抱っこを求められる側になったんだな」と思いかけ、頭をふる。
いらぬことを考えると、また、つけいられるだろうし。
まあ、すこしだけ、憑りつかれてもいいかもと思わないでもなかったが。
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