セーラー服を着させないで

ルルオカ

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俺がセーラー服アレルギーなのを察してくれている義男が、すすんで着たがることはないはずだ。
ベランダでも、学園祭の件を、打ち明けていなかったし。

ただ、俺の父親が「おっしゃ!」とはりきったのと、義男の両親が「女装なんて」と偏見も糞もなく、「女装、バッチコイ!」とはしゃいだのに抗えなかったものと見える。

義男の両親は、父親が有名な演出家、母親が売れっ子脚本家だ。

高校時代から、セーラー服姿の父親と親しくしていた猛者、その上、仕事柄、芸術肌な人たちだけに、俺の父親と同じデザインのセーラー服を息子に着せるのに、一ミリも抵抗はないらしい。

また、俺の父親と違い、義男の両親は、家に仕事を持ちこむタイプだった。
どうも、自分の仕事の分野に、息子を引きずりこみたいらしく、一時期は、義男を俳優にさせようと躍起になっていたこともある。

本人が望むならかまわないものを、目立つことも、自分を偽ったり見栄を張るのも得意でない義男が「父さんや母さんの期待に応えられない、どうしよう」と肩を落とすとなれば、かまわないわけにはいかなかった。

俺が間に入って、義男の両親を宥めすかし、誤魔化し、目を逸らさせ、最終手段として「俺から義男との時間を奪うな」と睨みを利かして、どうにか諦めてもらった。

中学生の説得に渋々応じるほど、大人げなく猪突猛進な二人に「世界的デザイナーのオーダーメードのセーラー服を着られるチャンスなんだよ!」と迫られ、義男一人で太刀打ちできるわけがない。
と、分かり過ぎているので「どうして、義男、断り切れなかったんだ!」と不平を垂れはしなかった。

自己主張したがらない義男だって、譲れないときは待ったをかけたり、「NO」を突きつけたりする(耳を貸さない親でもないし)。
俺のために、義男はそうしたかったのだろうが、断らなかったのも、また俺のために、なのだ。

「セーラー服を着たくない」「将来、セーラー服を着たいと、思いたくない」と父親に告げたことはないし、その思いを知られたくなかった。
そのことも、察しているらしい義男は、小学校のころ家に同級生が押しかけてきたとき、口止めしたわけでもないのを、二組の両親、どちらにも、報告しなかった。

時折「学校でイジメられているのでないか?」と探りをいれられたとして、「そんな噂、俺、聞かないよ」ととぼけていたもので。

ただ、さすがに今回は「どうして、セーラー服を着たがらないのか」と迫られて、嘘が得意でないとあり、しばらっくれることができなかったのだろう。
正面突破をはかり「ヒロちゃんが困るから」と訴えたとしても、「どうして困るの?」と問い詰められて、ジ・エンド。

嘘を吐くにしろ、正直に打ち明けるにしろ、断りようがなかった。
セーラー服姿の父親を前にして「セーラー服を着たくない」などと、真っ向から拒めるわけもなし。

断れなかった義男には、何の落ち度もない。
あくまで俺の都合なのだから、俺がどうにかすべきだ。

が、嘘下手な義男と違い、嘘も方便と口が回る俺でも「どうして、義男にセーラー服を着させたくないのか」と問われての頓智は浮かばない。

隣家なだけに、義男のセーラー服姿を、どうしても身近に意識しないでいられず、そのまま果たして、学園祭が終わるまで、耐えられるのだろうか。

折角、修行僧のように、精進する日々を重ねていたのが、すべて水の泡となって、思春期の捻じれを起こしてしまうのではないか。

セーラー服姿の男に勃起するのを避けるためには、こうなったら、もう高校生だし、親離れの一歩として、長年秘めていた思いを、打ち明けるべきなのか。

とにかく、説得するにしろ何にしろ、無言が長いほど不利になると思い、口を切ろうとしたところ、「ああ、そういうことか」とセーラー服姿の父親が、物々しく肯いてみせた。

まさか見抜かれたかと、肝が冷えたのもつかの間、「ヒロは、ヨシくんのことが好きなんだな」と告げられる。
ん?と、俺がぴんときていないのを、置きざりにして「そりゃあ、そうだよなあ」としみじみと語ってくる。

「ムチムチでぴちぴちなセーラー服姿、しかもスカートの裾を掴んで、おろおろしている恥じらいぶりが加わったら、たまらないもんな。
俺と違って、ヨシ君、可愛すぎるって。

男がやらしー目で見たり、涎を垂らして寄ってくるんじゃないかって、心配にもなるだろうよ。
分かる。分かるよ」

「ああー」と母親と、義男の両親も腑に落ちたとばかり声を上げている。

セーラー服姿の父親と結婚した母親、マブダチの義男の両親だから、俺が同性愛者だろうと、義男が同性に好かれようと屁でもないのだろう。

両夫婦から、疑いの目を逸らせたのはいいとして、父親の解釈は間違っている。

デリケートなことだから、嘘も方便をモットーとする俺とて、その誤解に便乗するのは躊躇われたのだが、「だったら、お、俺、もう女装しないよ」と思いがけず、義男が口を挟んできた。
相変わらず、内股になって、スカートの裾を引っ張りつつ。

「ヒロちゃんが困るようなことは、したくないから」

「でも、学園祭はどうするの」とすぐに母親に追及され、「や、休むよ。あ、え、その、急に、ね、熱がでたって、ことにして・・・」と言葉を詰まらせながら、突っぱねもした。

小学校は皆勤賞で、高校も一日もまだ休んだことがない義男が仮病予告をした。

生真面目な義男らしくなく、意地になったものだが、両夫婦は勘繰ることなく「愛の力だね」と冗談でなさそうに涙ぐみ「俺は野暮なことをしたもんだ」と父親は引き下がってくれた。

俺でさえ、嘘を通すのを憚ったところ、義男が援護射撃してきたのは意外だった。

まあ、人一倍責任感の強い、義男のことだ。

この件について、責任を負う義理はないとはいえ、セーラー服を拒めなかったのを気に病んで、居ても立ってもいられなかったのかもしれない。

もちろん、俺の父親の放言を真に受けたわけでなく、俺に助け舟をだしたつもりなのだろう。
本当、シェパードのような風格がありながら、ハチ公のように、不器用ながら義理堅いのだ。

そうして、義男は人情から俺を救ってくれたのだと、てっきり思っていたのだが、そうではなかったらしい。

思い返せば、義男と恋愛どうのこうのと、ほとんど語ったことはなかった(俺は避けたかったし、義男は合わせてくれていたのだろう)。

そのくせ、義男が清き正しき交際を経て、誰もけちのつけようがない晴れがましい結婚をし、誰もが羨む慈しみ溢れる家庭を築くのを、俺は望んでいた。

が、義男も望んでいるとは限らなかったし、そもそも、思い寄せる相手がいるのか、異性愛者なのか同性愛者なのかさえ、知らなかったわけで。

その自覚がなかった俺は、父親の誤解を、義男がさらに誤解するとは思いもしなかったし、たとえ本気にしたとして、俺の思いに応えるわけがないと、疑ってもいなかった。





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