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人のシアワセを憎み人のフシアワセを笑う
しおりを挟む恵まれた人がシアワセを噛みしめるのを見ると、胸糞悪くなる。たとえば、ファミレスの家族づれ。
夫婦に幼い子供二人。恵比須顔の旦那が、ゆっくり妻が食事ができるよう、幼い子供二人の世話をしつつ、夫婦でなごやかに談笑。両親が穏やかでいるから、子供も安らかな面持ちでいて、健やかに育っていそう。
「お父さんが子育てに協力的で、ほほえましいなあ」と友人は感心したものを、聞こえよがしに舌打ちしないでいられなかった。だって、俺は家族と外食したことがない。「おいしい?」と母に微笑まれたことも、父に至っては同じ食卓についたこともない。
俺が異常なのではない。そもそも、この世に絵にかいたようなシアワセな家族はいないのだ。そう見えるとしたら、そう偽装して見せかけているだけ。
負け惜しみのような考え方だが、的外れでもなかった。近所に住んでいた、その家族は、ファミレスで見かけた半年後に、夫の不倫が発覚して一家離散。「シアワセそうだったのに、どうして」と友人が同情するのに対し、痛快に笑ったもので。
「お前、人のシアワセを憎んで、人のフシアワセを笑うなんて、いい性格しているよ」
蔑みながらも、哀れむように見た友人だが、人のことは云えないだろう。すこし前、オリンピックの金メダリストが、薬物で逮捕されたとき「すっげー尊敬していたのに残念ー」と嘆きつつ、しつこく鼻息荒く、このネタに食いついていたのだから。頬を紅潮させ、目を爛々とさせ、どこか浮き浮きとして。
誰しも、人のシアワセを憎み、人のフシアワセを笑う。俺は自覚をしている、数少ない人間なのだ。人は俺を「心が狭い劣ったヤツ」と見なすだろうが、自覚もできていないヤツのほうが、よほど下等。
俺は見下される立場でなく、俺が見下す立場にある。周りに俺と対等なヤツはいない。一生、分かり合えるヤツを見つけられないかもしれない。と、思っていたのが。
高校で、カヌーのインターハイ出場を決めた男子生徒の激励会をしたとき。日本体表入りの呼び声が高いとあって、マスコミが押しかけるは、野次馬も体育館の窓から覗くは「やべー」「やべー」と生徒が浮き足立つは、お祭り騒ぎに神輿に担がれた主役は鼻の下を伸ばして、へらへら。
「地獄に落ちろ」と内心、罵って、爪を噛んでいたら、隣から「ぶふっ」と噴きだすのが聞こえた。振りむけば、中々、爽やかな男前が、中々、あくどい笑みを浮かべ「閻魔みたいな顔してんな」と。
彼は御美原(おみはら)。父は大手IT会社社長、母は専業主婦。なんて恵まれた家庭に育った、人望があり、女にもモてる秀才の男前と、俺にとって天敵のようなヤツ。
が、初見でぴんときたように、その本性は俺と同類だった。親馬鹿で愛妻家の父に、献身的で愛情深い母、純粋で賢い親思いのいい子と、世間では非の打ち所がない家庭ともてやはされているが、御美原は嘲って曰く「繕っているだけで、とっくに家庭は崩壊している」とのこと。
紛うことなき、フシアワセなヤツであり、シアワセに見せかけるのが、どれほど虚しく馬鹿らしいか、身に染みて分かっているヤツ。そう、やっと話の通じる存在を、俺は見つけたわけで。
シアワセなヤツに中指をおっ立て、フシアワセなヤツに祝福するよう手を叩く俺を、御美原は呆れることも、嫌悪することも、たしなめることもない。「いっそすがすがしいよ」「生き生きしてんなあ」と可笑しがって、友人とじゃれるように、他愛ない反応をしてくれ「お前、頭おかしいじゃないか?」と突き放すようにし、自分と俺との間に線引きをしなかった。
対等な存在と居られるようになり、あらためて前は、ひどく孤独だったことを痛感。「悪魔みたいだな」「病院いったら?」と否定的な感想や意見を述べられるのを「この下等生物が」と歯牙にもかけていないつもりだったが、そんな、たかが下等生物の暴言に、いちいいち傷ついていのだろう。御美原と接していると、その深い傷が塞がって、痛みが引いていくように思えたもので。
初めて声をかけられて、一か月経ったころには、俺の人生において、御美原はなくてならなく、かけがえない存在となっていた。人生の伴侶のような。死ぬまで異性の理解者を得られる確率が低いとなれば、同性なれどかまわず、そういう思いを抱きもして。
御美原の豪邸に招かれたとき。お盆を持ってきた御美原がつまずいたのに、咄嗟に体を支えようとしたも間に合わず、二人してベッドに転倒。御美原も御美原で、俺にお茶を浴びせまいと、変に腰をひねったから、俺が覆いかぶさる形に。
至近距離でお互い口を利かず、顔をそらさず、見つめ合うことしばし。喉を鳴らして顔を寄せたら、やんわりと唇に手を当てられた。抵抗しているようでも、ムードを壊すほどでもなかったので「なに」と目で問いかけたら「お前はシアワセなヤツが許せないんだよな」と今更の質問。
「許せないというのなら、どうする?」
「どうするって・・・べつに」
「だよな。今はまだ、腹ん中で恨み節を吐くくらいだ。でも、もっと根性がひん曲がって大人になったら、実力行使でシアワセな人をフシアワセにしようとする」
「親せきが母さんにしたみたいに」と声を低くしたのに、目を見開く間もなく、かるく頭突きをされ、額をくっつけたまま囁かれて。
「お前はシアワセな人が許せないかもしれないけど、シアワセな人を憎むヤツが許せない人も、この世にはいるんだからな」
「ど」いうことだと問いかけようとしたのを「お邪魔するよ。正樹、紹介したい友達って」と遮られた。見やれば、写真で見たことがある御美原の父親。
ぽかんとする父親と目が合ったとたん「父さん!」と突きとばされ尻餅。顔を上げたところで口を挟む余地なく「急に押し倒されて、股間まさぐられて、怖かった!」と犯罪人にしたてられた。
裏切られたことより、はじめから騙されていたと知り、茫然自失。震えて泣く息子を、自分も泣きそうにしつつ、ひたと抱きしめ、今は敵意剥きだしに睨みつけているに、世の評判どおり父親は親馬鹿な愛妻家であり、御美原は正真正銘のシアワセなヤツなのだろう。
「自分にとって唯一の仲間」と思いこませて、まんまと手のひら返し。敵ながらあっぱれなもので、ぶっちゃけ、身の程を思い知らされた。
自分が人を恨むだけ恨んでおきながら、人から恨まれないことはない。はずが、フシアワセな自分には恨む権利があり、シアワセな人間にはないと、奢っていた。
といって、御美原に怒りも憎悪も抱かないのは、反省したからだけではない。結局は、惚れたが負け。シアワセな人にフシアワセにさせられるなんて最低最悪の結末だが、彼にとどめを刺されるのなら本望だった。
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