第七特別猟兵部隊 屍人狩り

江呂川蘭子

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第七特別猟兵部隊 屍人狩り

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 父の四十九日に妻と一緒に実家に行こうと、駅までの長い坂道を徒歩で移動する。
 今年の夏もうだるような暑さが続いていた。妻は日傘をさして夏の日差しを遮ろうとしている。その努力を嘲笑うかのように鳴きつづける蝉に彼女は不平をもらす。
 俺は親兄弟との関係がうまくいかず妻も朝から気乗りしない様子で溜まりに溜まった洗濯物を片付けながら少し憂鬱な顔をしていた。
「ねぇ、なんか買っていった方が良いんじゃない」妻がクルクルと日傘を回しながら言った。
「何を買って行ったってアイツら文句を言ってくるから要らなくない?」俺は母と姉が不服そうに妻をなじる様子が目に浮かんだ。
「でも、なけりゃ無いで。言われるの私なのよ」妻は既に早く帰りたいという面持ちだった。俺たちは結婚して五年目だった。妻を気に入っていたのは父だけだった。母も姉も妻の派手な容姿が気に入らない様子で、もとからそりの合わない息子の連れ合いなので尚更だった。長い坂道の向こうのアスファルトが熱気で景色を歪めていた。高齢の女性が小型犬を散歩させている。俺は焼けたアスファルトを歩かせられる犬の気持ちがわかる気がする。俺だって飼い主の勝手で首輪に繋がれ炎天下を引きずり回される犬のようなものだ。
「あら、可愛いワンちゃん。貴方の顔を見てたわよ」妻が少し離れて行った小型犬の後ろ姿を見て笑う。小型犬は振り向いて俺に尻尾を振った。どうも俺は昔から犬には好かれる。何故かは知らないが歩いていると散歩中の見知らぬ多くの犬たちが、俺を見て、あの!お方は!という顔で口をあんぐりと開くのだ。
「ああ、俺の前世は犬の王様だからね」と俺が言うと、妻はおもしろそうに笑う。古い屋敷を取り壊して作られた。簡単なフェンスと砂利が敷かれただけの駐車場を横目に見て、普段から抜け道に使っている神社の大きな鳥居をくぐり境内を抜けた。そこは駅前につづく商店街への近道なのだ。商店街を歩くと営業中の店舗から漏れ出るエアコンの冷気が心地よい。
「ふう。缶ビールでも飲もうか?」俺は妻に言った。妻は嬉しそうにこくりと頷き折りたたみ式の日傘をバッグにしまいこむ。
 駅前のスーパーマーケットの中は真冬のような温度で少しレジにならんでいるだけで汗が冷えて寒いと思うほどだった。店員たちはみな肉付きがよく妻の倍以上の体重はあった。なるほどと思い冷凍庫のように室内の温度が低い理由を容易に想像することができた。
 缶ビールの支払いを済まして出口に向かう。自動ドアが開くと俺たちを夏の熱気が襲う。俺と妻はよく冷えた缶ビールのリップルを一本づつプシュっと勢いよくあける。俺はぐびぐびと一気にビールを飲みほす。
「あら、もうのんじゃったの?」と妻は言い。彼女も呆れ顔でちびちびと缶ビールを飲んだ。
 商店街を抜けると駅にあるエスカレーターに乗って二階のホームへ向かう。俺は妻の残ったビールをいただき、また空にする。
「もう、それ私のなのに」と妻はむくれたように笑った。
「仕方ないな。もう一本買おう」俺は改札の横にあるコンビニエンスストアでロング缶のビールを一本買う。
「タッちゃんは飲んでばかりなんだから、私たち未だ二十四歳なのに、なんだか熟年夫婦みたいね」と妻は俺から缶ビールをとりあげるとプルトップを摘み上げてゴクゴクとビールを飲んだ。缶ビールを持ったまま改札を抜けてホームに行く。上手い具合に電車がやってきた。電車の中は冷房があまり効いておらずガッカリした。俺たちは乗客のまばらな普通電車のシートに座ると、一本のビールを二人でまわし飲んだ。
「なんか、マイちゃんと出会った時のこと思い出した」と妻が鞄からチーズクラッカーを取りだすのを見て言う。
「私、あのころチーズクラッカーなんか持ってたかしら?」と舞は言った。
「いやマイちゃん昔っから鞄にスタンガンをいれて持ち歩いてたなと思っただけ」と俺はそう言ってながれる車窓からの景色を眺め、ぼんやりと当時を思い出す。
 
 舞と出会ったのは高校三年で彼女と同じクラスになったときだった。彼女が俺の名前が山下龍郎と知って、面白半分というか無理矢理にカラオケに連れて行かれ山下達郎の曲を歌わされたのだった。当時の彼女は少し影のある美しい少女だった。未だに何故か知らないのだが、彼女は周りから異常なぐらい恐れられていた。
 俺は彼女と付き合いだしてから、周りとは違う意味で、舞の正体を知り背筋が凍る思いをしたのだった。
 
 瑚井留舞やたらと落ち着いた女子で、俺がクラスで彼女のことを聞くと、彼女を以前から知っている他の生徒たちが蜘蛛の子を散らすように居なくなるほど怖がられようで、それではと意を決して俺から舞に話しかけたの始まりだった。理由は至って単純なことで彼女は顔面偏差値が高くて、その顔と短いスカートから伸びた長い脚。それと時おりチラリと見える下着。そしてその中身に非常に興味を持ったからだ。
「おはよう。俺ヤマシタタツロウっていいます。君の名前が読めなくってさぁ。それで気になった」俺は短いスカートの中身を気にしながら聞いた。
「おはようございます。ヤマタツ君なんだ。あぁ私の苗字ね!コイルって読むのコイルマイです。よろしくお願いします」と素敵な笑顔で笑ってくれたのだが、その日は2時限目の途中で彼女は急に帰ってしまった。
 先生は理由を知っているようで他の生徒たちに、彼女は家の事情で帰ったと言っていた。
 だが周りの生徒たちの反応からすると、それは嘘なのではないだろうかと感じた。
 舞は欠席が目立った。来てもすぐに帰ることが多かったが、いじめられていようにも見えなかった。
 その日は珍しく授業が全部終わるまで舞が学校にいたので、
「珍しいねコイルさんが、こんな時間まで教室にいるの」と俺が舞に話しかけるとクラス中が凍りついた。
「ほぉ!ヤマシタタツロウさん。カラオケ行きましょ」と舞は嬉しそうに言う。
「いつにしようか?他の友達も誘おうか」俺がそういうと皆が慌てふためき教室を出て行った。俺は、あのとき変なヤツらだなァと思ったが、変なのはむしろ俺だったのだ……
「今から行こうよ。山下達郎の『夏への扉』を歌ってよ」と美しい顔で舞は言い。ミニスカートの太腿を見せつけるように立ちあがり俺の手を引っ張った。当時の俺は『夏への扉』という曲を知らなかった。その時はカラオケで舞が歌ってくれた。俺はマイちゃん歌も上手くって最高!だがそれよりも時々、下着がチラチラと見えたのが一番よかった。
 そして『夏への扉』はハインラインという有名なSF小説家の作品を曲にしたもので、センス・オブ・ワンダーというバンドのバージョンも素敵だと教えてくれた。それが舞の父親からの受け売りだと聞いた事を俺は今でもはっきりと覚えている。だが、当時の俺にはそんなことよりも短いスカートからのびた長い脚と時おりちらちとスカートのすき間からのぞく下着のほうが重要度がたかく、付き合えば舞を自分のものに出来るのではと短絡的に考え、その場で俺は舞に交際を申し込んだのだ。すると、
「私は、アートマンでありブラフマンである!貴方は私と一体になりたいのであれば、貴方もまたアートマンでありブラフマンを理解し、真の私を理解しなければならない。それは貴方にとって並大抵のことではないが、私を受け容れる器となり、また私に呑み込まれ私を器と認め、ひとつの存在となるまで永遠のカルマを繰り返す覚悟があるのなら、私は貴方を受け止める。覚悟はあるか?」と舞は頬を赤く染めて突然神がかったことを言いはじめた。
「覚悟はある!」俺は後日大変な約束をした事を知ることとなる。俺は一時の欲望に負けて、自分が考えた事もない程の業を背をうことになるのだが、いま考えると其れこそが俺のカルマだったのだと思える。
 
 カラオケからでると舞の自転車の後ろに乗って彼女の匂いを嗅ぎまくって股間を天を突くドリルのように熱くさせていた。
「着いたわ。会って欲しい人がいるの」到着し舞が指し示したのは小さな町工場だった。周りを見回すと随分と山の上まで来ていた。舞は電動自転車とはいえ、かなり遠くまで俺を連れてきていた。
「ちょっと、ここで待ってて!話して来るから」そう言って舞はすたすたと工場の中に入って行った。そこの建物に掲げられた少し錆びた大きなブリキの看板には『コイル電機工業』と書いてあった。しばらくして舞が露出度の高い私服に着替えて出て来た。
「中に入って」舞が手招きした時の笑顔を俺は、いまでもハッキリと覚えている。あまり胸は大きくないが透き通るように白い美しい肌だと思い浮かれていたのだった。
 工場の中の事務所らしき場所に通された。そこには舞と四十代後半ぐらいの男性がいた。舞はその男性を自分の父親だと紹介してくれた。
「やっと私のブラフマンに巡り会えました。お父様この後のこと任せてください。彼はまだ目覚めてはおりませんが、おそらく二年以内には目覚めると私は思います」舞は父親に俺のことを言っているようだ。舞が少しモジモジしているように思えた。
「目覚めなかったらどうする?」父親が舞に少し笑いながら聞く。
「その時は、舞がこの手で処分致します」なぜか舞が顔を真っ赤にして俺を睨みつけている。
「キミ!この書類にサインして」と少し不機嫌そうに俺をみる父親から雇用契約書と婚姻届を渡される。
「え!えっ!ええっ」と俺は焦った。
「覚悟を見せて!はやく」と舞は威嚇しているせいなのか更に顔を赤らめながら睨んで詰め寄ってきた。俺は恐ろしくなり震えながら、なぜか婚姻届と雇用契約書にサインして父親に渡す。
「龍郎くん、キミ養子でイイよね?」と舞の父親が言うので、舞の顔は見ないで俺は何度も首を縦にふる。
「じゃ湖井留龍郎くん、あとはよろしく頼むね。親御さんにもよろしく言っといて。わからない事は舞に聞けば良いから。最後に生半可な気持ちでやってたら、スグに生命を落とすことになるから頑張ってね。舞はああ見えても腕利きの猟兵だ。キミに実力があれば頼りになる相棒さ!」そういうと父親と名乗った男は出て行った。俺はその日から一度も彼を見たことがない。
「どういう事なんだ」俺が呆けていると、
「明日からみっちり仕込んであげるから、今日は寝なさい貴方の部屋はそこの奥よ。念の為言って置く。逃げたら、即殺す。頑張れば生命はのびる」舞はそう言って俺に顔を見せず自分の部屋に戻って行った。あのとき舞は楽しそうに部屋で『夏への扉』を歌っているのがもれ聞こえた。
 
 あれから五年以上経った。
「あれ?いまでもアレがスタンガンだと思っているの?」舞はお供えの栗まんじゅうを買うと、お釣りを財布の小銭入れにしまった。
「あれはただの鉄クズよ。タッちゃんがパチンコ玉にエネルギーチャージして投げつけるのと一緒よ」と舞は笑いながら人差し指の先からチロチロとプラズマを光らせてみせた。

 駅から五分ほど歩き、歯科医の近くにある俺が産まれ育った家に着く。
 俺の表向きの生業はコイル電機工業という町工場の社長ということになっている。高校三年のときに半ば強制的に今の本業となった第七特別猟兵部隊に入隊させられる際に、舞の家の養子になった事で俺の両親は相当怒っていた。俺の父は舞の外見の良さで簡単に許してくれたのだが、母の山下ジュリエット紅蓮子と嫁いだ姉の尾仏谷バイオレットサンデー静香がいつまでも、ネチネチと舞に小言を言い続けている。
 姉の尾仏谷バイオレットサンデー静香の嫌がらせには、俺も相当辟易させられたが、半年ほど前に本気で舞を怒らせてしまい頭に落雷を落とされてからは、霊が見えるとか宇宙人の攻撃だとか、もうすぐパンダの子供を産むとか妄言と虚言を言い続けるようになり、尾仏谷家から追い出され実家で自宅療養中なのだ。父の通夜の時も、姉は般若心経がオーディオから聞こえてくると、般若心経にあわせて裸踊りを始めたので、俺と母とで姉を部屋に閉じ込めて部屋から出ないようにしなければならなかった。舞は姉が部屋から出ようとする度に人差し指からプラズマを放電させてから、姉のこめかみにその指を押し当て、狂った姉がギョッと叫び飛び跳ねるのを見て笑っていた。
 少ししてから坊さんがスクーターでやってきて、お暑うございますなとかなんとか言っているので、俺と舞と姉が仏壇の前で正座し数珠を握る。母は坊さんにお茶と菓子を出す。坊さんの読経がはじまる。姉には、かなりキツい薬を飲ませているので踊る心配はないので安心せよと母が言っていた。姉は正座こそしているが目は虚ろで締りのない口からときどきヨダレを垂らしている。これはこれでどうなのかと考えさせられた。坊さんが帰ると四人で仕出し屋が持ってきた和食を食べる。姉は陰膳も食べようとして母に注意されている。母も姉に落雷が落ちてから舞には用心しているようにみえる。夢にも直接に舞が姉に落雷を落としたなどとは思っていないにしても、舞を相当怒らせた直後に姉に落雷が落ちたのだから、舞に何か得体の知れない力があるのかも知れないと思うのも当然かもしれない。
 俺と舞は帰るまえに、相続は放棄したので父の遺産は二人でわけるように言うと、母はありがとうと泣きだした。珍しく舞の手を握り孫の顔を見たいなどと言った。
 俺はまた来ると言って産まれ育った家をあとにした。俺と舞は危険な任務が多いのでいつ帰らぬ人になるかもしれないのだ。時代劇風に言うならば死して屍拾うものなしなのだ。人知れず活動する隠密部隊なのだから仕方がない。第七特別猟兵部隊と言うと、聞こえは良いが第一から第九まであった部隊が、今や俺たち第七の二名と再編成された第一部隊だけだ。
 第一部隊の隊長は舞の父親のようだが、あとは新人ばかりで俺よりも頼りにならない隊員の多いような部隊だと舞から聞いた。俺たちの部隊は屍人狩りとかゾンビハンターと呼ばれる異能者の脱走兵やスパイ駆除から、異星人の保護やらと上がやりたがらない仕事を人知れず掃除するスイーパーだ。
 そういえば昔、俺がコイル電機工業で訓練を受け出した頃のことなのだが、スイーパーに引っ掛けて冗談のつもりで舞を街のお掃除おばさんと呼んだら、笑いながら緩めのプラズマ弾で俺の睾丸を狙い撃ちされた。あまりの痛さに一時間近く泣きながら震えていた。晩飯を食べる時に、
「言葉は、ただしく使わないとね。私は以前拷問の担当をしてたこともあるが、さっきなんと言ったかもう一度聞きたい。お掃除のあとのところだ」と舞に言われ、ここでおばさんと言ったら、またやられると思い。
「お姉さん」と弱々しく言ったのだがまた痛めつけられて気を失うまでやられた。頻繁にやられるうちに耐性ができて多少で気を失うこともなくなった。
「よし特訓はこれで終わりだ」と舞が言った時に、いつかこいつに仕返ししてやると誓った。それからは毎朝四時に起きて走り込み筋トレと一人で基礎体力をあげ、そのあと舞に従い精神と脳の活性化で生み出される人体発電訓練に取り組み、いまでも全体の能力ではとても敵わないが、舞のような人体コイルに一年でなることが出来た。それからは舞について行って、実戦で能力を磨いて行ったのだが、舞の任務に対する執着心が恐ろしすぎた。ターゲットと認識すれば相手が幼い子供であろうが余命いくばくもないない老人であろうと容赦なく時には見せしめの為と言って、横で俺が吐いてしまうような残忍なことまで平気でするのだ。
 あの高校三年のときに舞のミニスカートにだまされていなければ俺は、ごく当たり前の人生を送り、ごく当たり前の結婚をして、おそらくダーリンと呼ばれていただろう。たとえダーリンと呼ばれていなかったとしてもだ。 こんなに酷い人生ではなかっただろう。

 久しぶりに何の任務もなく妻の舞は、山に篭もってブラフマンとしての瞑想に入るが、一緒に行かないかと誘ってきた。しかも珍しくミニスカートを履いて俺を誘って来た。舞の身体などこの五年で毛穴まで見尽くした俺が、そんな手に引っかかるものか。絶対になにかをたくらんでいるのは、まず間違いないので最近お腹が痛いので一週間ほどゆっくりしたいと嘘をついたら、いつになく心配そうな顔で、ゆっくりしていなさいと優しい顔で言って、ひとり荷物を担いで出て行ったので、俺はご機嫌で街に繰り出した。
 ツイている時は良いことが続くもので、俺は久しぶりにスニーカーを購入し店をでたら、そこには、俺のタイプにど真ん中の、可愛いくて色気のある女の子がいたので声をかけてみたら、なんと高校二年のときの同級生でランチをご馳走したら、彼女は高校のとき俺のことが好きだったと言うので、チャンスと思い誘ってみたところ簡単にホテルで楽しい時間を過ごせたのだ。最高だぜッ!
「山下くん高三のとき突然いなくなったから心配したんだよ」と蛸山ウルルちゃんが、素っ裸で、もう一回と誘ってきた。
「うん、俺もいろいろあってさぁ……」と言葉をにごした。
「なんか噂だけどコイルさんって怖い女の子いたじゃん。あの子に拉致されているって噂だったよ。でも元気そうでよかったよ」ウルルちゃんがふくよかな胸をくっつけて来る。最高だぜッ!
「まァ大丈夫!大丈夫」と俺は意味のないことを言って誤魔化す。
「だって高一のときさ!コイルさんがヤクザの片目を素手でくり抜いて笑ってるの見たって子がいてさぁ。皆んな近寄らなかったのに山下くんたらコイルさんをカラオケに誘ってて次の日から学校来なくなったって聞いたからさぁ」そう言ってウルルちゃんが、俺のうえに乗ったときゴロゴロと雷の鳴る音がした。俺は非常に嫌な予感がした。雷がホテルの廊下で鳴っているからだ。次の瞬間ホテルの分厚いドアが吹っ飛んだ。
 そしてカツカツとミニスカートを履いた妻の舞が入って来た。
「ウチの主人がお世話になっています。妻のコイルマイです」とベッドの横まで来て満面の笑を浮かべながら蛸山ウルルちゃんに話かける。
「きゃあああ!ごめんなさい!ごめんなさい!山下くんから誘って来たの!結婚してるなんて言ってくれなかったから……ごめんなさい!ごめんなさい!殺さないでください」とウルルちゃんは必死に舞に許しを乞う。
「お前、私がわからないとでも思ったのか?」舞の眼中にはウルルちゃんはなく、ただ俺を威嚇し睨みつけながら、そう言ってシーツを跳ね除けた。そして俺の睾丸を握りかなり強くプラズマを放電した。
 ぎゃああああ!ぐおおおおおひぃいいぃと俺は悲鳴をあげてのたうち回った。舞はかなり怒っているようで執拗にプラズマを放ち続けた。目の前が真っ白になり意識がとんだ。

 目が覚めると俺は丸太小屋の中に裸のまま転がされていた。
「改心するなら、許してやってもいい」と目のまえに妻の舞がいた。自分がどこにいて、どれくらいのあいだ気を失っていたかもわからなかった。だが舞の血走った眼をみると、かなりの時間、彼女は俺が目を覚ました時に恐怖をあたえてやろうと睨み続けていたように思えた。あまりにも恐ろしいので俺は目をつぶり、もう一度気絶しているふりをしようとしたら、
「死にたいのか?睾丸と性器をむしり取られたいのか?私の奴隷になりたいのか?今すぐ答えよ」と舞が優しい声で俺の耳もとで囁くので、俺はガバッと起き上がって、
「お願いです。奴隷にしてください」と言った。
「ほう、良い心がけだ」と舞は言った。そして全身を蹴られる。痛いと言うと嬉しそうに笑ってさらに蹴り続ける。許しをこうのだが、
「お前には誠意の欠片もない」と舞は、そう言いながら俺が泣き叫んでも許してくれなかった。
「ウルルちゃんは、良かったのか?私にはまったく奉仕しないのはどういうこと?」と笑いながら、口の中に指を入れられプラズマのスパークをだし続け、俺がおもちゃのようにピクピク痙攣しているのを見て気がすむと、
「まだ生きているのか!見どころがあるので、家畜以下で嬉しいですといいながら毛穴でカップヌードルを食え」と絶対に無理な要求を言いながら、いままでで一番酷い屈辱的なことをされた挙げ句、そのことについて感謝せよと言われ。その通りにしたにもかかわらずバリカンで全身の毛を剃られ、その姿を写真に撮られて、さらに人間の尊厳を踏みにじるような行為をされる。
 最後は泣き叫ぶ俺に猫と交尾をせよと命令し、出来なければ殺すと言いながら俺の尻に指を突っ込み、
「ここは、まだ鍛えてなかったな」と言いながらゲラゲラと笑うので俺はもう諦めて、
「もう殺してください……」と言いながら呆けていたら、
「よし許してやる。だが次はないぞ。コレからお前の名前はクソ家畜のプラスくんだから忘れるな。金輪際まともに扱ってもらえると思うなよ」と言われ舞がコップに自分の唾を溜めて、そのコップを差し出される。そして美味しそうな顔で、それを全部飲めと言われた。
「飲めないなら、右手か右脚をむしり取ってやる」と怖い顔で笑う。先ほど許してやると言ったくせにいっこうに許してくれないので、
「美味しいです。もっとください」と俺は舞の唾液を飲んだあとで震えながら、そう言ってしまう。屈辱のあまりに涙が止まらなくなったが、腹の中でコイツよりも強くなって復讐してやると心に誓った。

 それから山での修行は過酷を極めるものだった。本当にこれが修行なのかと思える様なことばかりで俺の心は完全に折られてしまった。それは延々と続く舞からの虐待としか思えなかった。
 もう俺には泣く気力さえもなかった。なぜ俺はここまで残忍なことをされるのだろうかと少し思い。いっそ殺された方がましだと、ばかり考えていたら、心に舞の意識が流れ込んできた。
 彼女は俺をいたぶり辱め傷つけることを心から楽しんでいるのだ。俺が怯えたり泣き叫んだりするのを見て可愛いと思っているのだ。そうこれこそが舞の最大の愛なのだ。その証拠に俺は身体のどの部分切断されていないし。
 そうか!はじめてコイル電機工業に拉致されたときアートマンでありブラフマンとかなんとかインド哲学みたいなことを言っていたが、あれはたんに俺のことを好きだと言いたかっただけだったのか!だから頬を赤らめていたのだ。そう言えば舞は俺の心が読めるようで、いつまでたっても心を開かない俺に対して、自分をもっと思わせる為に、恐怖で舞という存在を俺の中で溢れさせようとしていたのではないか?舞は、はじめて出会った時から、俺のことが好きだったのではないのか?そうだ。そうだったなら全部辻褄が合う。
「おしいな!アートマンとは、この世界の根源であり。アートマンとブラフマンは同じであるが人は、それぞれがブラフマンであり、根底で人も宇宙も繋がっているのよ。でもはじめてタッちゃんにアートマンの話をした時には全ての宇宙からも隔離されたタッちゃんと私だけのアートマンで二人だけのアートマンとブラフマンになり、タッちゃんを独占するということ。私は自分がこんなに嫉妬深いとタッちゃんに出会って、はじめて気づいたのよ」と言って舞は頬を赤らめた。俺は舞の本質を見ていなかったのだと気付かされた。そして
「わかったのなら許してあげる」と舞は笑いながら俺にプラズマを撃ってくるので、おれはとっさに身構える。
「ん?」舞のプラズマ光弾は確かに俺に命中した。しかし、今迄とちがい当たるというより俺の身体のなかに吸収されエネルギーになったように感じた。痛みも感じなければ今までのような衝撃も感じない。
「やっと出来た!」舞の声が直接脳に話しかけて来た。
「何が?」俺も口に出さずに舞の脳に言葉を送る。舞が、俺にも舞に向けてプラズマ光弾を撃てと、心に直接話しかけて来た。
 二人だけで通話ができるテレパシーのようなものだから気にするなと、いつになく嬉しそうな妻の声が俺のなかで心地好く響く。いままでのあの舞に対して感じていた嫌悪感は、いったいなんだったのだろう?あれは俺と舞との魂の不響和音だったのかも知れない。そうだ俺は舞を理解しようとすらしていなかった。そして俺は彼女を怖い忌わしいモノのような位置づけで一線を引き、自分の殻に篭もり真実を知ろうともしなかった。舞は不器用にひたすらに俺に己を曝け出して、俺の中の殻を打ち壊そうと躍起になっていたのだ。
 彼女はいま俺の醜く硬い殻を跡形もなく砕け散らせた。そして俺はやっと舞の心を受けとめ、すべてを理解した。
 俺たちはお互いに向けプラズマ光弾を撃ち続ける。お互いの光弾をお互いが吸い込み、二人を周りプラズマの輪が出来る。グルグルと周りその光は一旦大きくなるがやがて見えなくなるのだが俺たち二人をプラズマのリンクが繋いでいることが解る。心がひとつに繋がった魂の融合が、二人の記憶を繋ぐ。舞の過去が俺のなかに流れ込み、また俺の過去も舞に流れ込んでいった。俺たちは出会った瞬間から相思相愛だったのだ。俺は舞にとってはじめて恋した男だったのだ。だが舞の特殊な能力と猟兵という仕事。そして彼女の、頑なで無垢な心を今迄わかってやれなかった、俺の思いやりの無さが壁を作っていたのだ。
 だが、いま俺たち二人は永久機関を完成させたことを感じていた。そうだ舞が目論んでいたのは、二人だけのインナーアートマン?エゴアートマン?そしてインナーブラフマン?エゴブラフマン?まァそういうモノだ。
 アートマンとブラフマンはあくまでも例えとしての言葉でしかなかったのだ。しかし其れは言い得て妙だと合点がいった。
「じゃ次の計画に進もうか!」俺たち二人はお互いの愛を歌うかのように同時に同じ言葉をくちにした。そこには迷いも疑いもなかった。
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