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背水の陣
七
しおりを挟む薬を飲んで布団に横になっていた翡翠と合流し、ある部屋までやってきた。しっかりと締められた襖に牡丹がそっと手をかざすと、不思議な文字が襖におもむろにびっしりと浮かび上がり、やがてそっと開いた。
庄右衛門が呆気に取られていると、部屋の奥に雪丸がぽつんと座り込んでいるのが見えた。
赤い袴に髪を低いところで一つ結びをしていて、いかにも神社の巫女といった姿だった。藤色の袴で男装をした勇ましい姿とは異なり、しおらしく女の子らしい様子がなんだか可笑しくなってきて、雪丸が無事だったという安堵も加わり庄右衛門はつい吹き出してしまった。
雪丸がぱっと顔を上げ、牡丹や翡翠、庄右衛門の姿を見とめると驚いたような表情をした。
「庄右衛門!目を覚ましたの?体は大丈夫⁉︎」
「お陰様でな」
庄右衛門が咳払いで誤魔化しながら返事をすると、
「よかった……」
と雪丸は心底安心したように脱力した。
しかし、牡丹と翡翠、庄右衛門が部屋に入って襖を閉めると、いくらか緊張したように座り直した。
「……母さん、みんなでここに来てどうしたのですか?庄右衛門なんかまだ怪我が酷いのに……」
雪丸がおずおずと声をかけると、翡翠も牡丹の顔を伺う。
「お雪、庄右衛門殿と共に、この閏間神社を狙う人ならざるものの退治をしなさい。庄右衛門殿には今しがた説明をして、承諾をいただきました」
牡丹が淡々と言うと、雪丸と翡翠は驚いたような顔をした。
しかし、翡翠の顔は次第に納得したような表情に変わっていった。反対に、雪丸は苦々しい顔をしだした。
「それは、母さんが昔から話していた、叔父さんに取り憑いているらしい化け物のことですか?」
「そうです」
牡丹が答えると、雪丸は不服を露わにする。そして庄右衛門をジロっと見た。
「庄右衛門はどうして母さんの話なんか信じたの?叔父さんに人ならざるものが取り憑いてるとか言われたんでしょ?そんなわけないのに」
「そうなのか。雪丸はどうしてそう思うんだ?」
庄右衛門は特に反論せず聞いてみた。
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