丘の上の嘆き岩

森羅秋

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魚の事情

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 「それは」と、魚は迷う仕草をみせたが

 「いや、その前に礼を言わせて貰おう。助けてもらい感謝する。あのままでは他の獣の餌になっていた。そうすれば一戦、交えるしかなかったであろう」

 陸の獣と戦うんだ? 戦えるの? とフェールは思ったが何も言わなかった。

 「最初にお主を疑って申し訳なかった。私は極力、人を傷つけたくない性分である。暴れれば気持ち悪がり、怖がって逃げるのを期待していた。醜態を演じていた私を保護してくれたこと、心から感謝する」

 凛とした言葉を放ち、深々と頭を下げる魚は気品に溢れた大人の男性のようだった。
 フェールはパチパチと瞬きを繰り返す。
 妙な気持ちになって、頬が少し赤くなった。

 「……」

 魚が口を閉じる。
 純粋な善意をもつ少女に誠意をみせなければ。と思うが、人間に話せる内容は殆どない。
 
 散々迷った挙句、出した結論は。

 「名を申し遅れた、私は王に仕えるセルジオと申す」

 善意には誠意をみせるべき、と魚ことセルジオは、こちらの経緯をある程度隠して、話すことにした。

 「私は王の旅の護衛をしているのだが、とある事件で王を護ろうとして油断し……竜巻に巻き込まれ飛ばされてしまった。そして飛ばされ辿り着いたのが、この地だった」

 フェールは瞬きを数回行った。

 何を言ってるんだろうこの魚さん、と思ったが、話す姿は至って真面目で、嘘を言っているようには思えない。
 魚なりに事情があるのだと、簡単に解釈をして頷く。

 「えーと、そして、その時に私に見つかったと」

 「その通り。ちょうど着地して一息ついたところだった」

 魚は尾びれを動かそうとして止めた。

 「巻き込まれたときにヒレを折ってしまった様で、上手く空を泳げないのだ。その為、これからどうするべきか途
方に暮れていた」

 「………魚って空を飛べるの?」

 「一部の者に限られるが飛べる」

 「本当に?」

 「本当だ」

 魚は水を泳ぐ、エラ呼吸の水生生物が一般常識だ。
 その概念が覆され、フェールが驚いて聞き返すと、セルジオはキッパリと力強く答えた。
 目の前の魚が肺呼吸をしているのだ、疑う余地はない。

 「そうなんだ」と、フェールは感心しながら小さく呟く。

 「空を泳げて喋れる魚もいるんだね」

 「その通りだ」

 キッパリ断言したセルジオは次の瞬間に「ううう」と涙を零し、

 「怪我のため、これでは王の元へ戻れぬ。失態な上になんと惨めっっ……」

 動けない我が身を呪った。

 その姿を見て、とても元気そうだなとフェールは思った。

 魚はジッタンバッタンとクッションの上で暴れる。感情が高ぶると体も動くようだ。

 「このままでは陰険で毒吐きのマークになんと言われるか。あああ! 全く悔しくて泡を吹きそうだ!!」

 「マークって?」

 「私と共に王の守護を務める者だ。それが……そいつは物凄く性格が悪く、人の失敗をネチネチネチネチと言う鬼のような奴で、悔しいことに私と常に一緒だ!! 切りたくても切れない腐れ縁なのだ!!! 王もあんなのと一緒で、さぞ心苦しい毎日を送っていることだろう……おいたわしや王。うう、この怪我がなければ、今すぐ王の元へ戻れるのに。こんなところで私は何をしているんだ」

 悔しいのか、怖いのか、よくわからない感情がセルジオを襲い、涙となって流れていく。

 「セルジオさん」

 ポロポロと涙を流すセルジオをそっと抱き上げ、フェールは自分の膝の上に置いた。
 そして意を決したように魚に言う。

 「だったら、お医者様に見てもらおうよ!」

 「その手があったか!!!」
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