丘の上の嘆き岩

森羅秋

文字の大きさ
上 下
9 / 39

少年と鳥

しおりを挟む
 宵闇が世界を覆い、満天の星空の下、茂る林に突如一陣の風が吹いた。

 木々が風に煽られざわざわと騒めくと、スッと一人の少年が大地に降り立つ。10代後半で漆黒のローブを纏った背丈の低い少年がいる。淡い白色が全身の輪郭を浮き彫りにさせている。

 少年は真っ白い髪を手で梳かしながら、金色の目を動かして辺りを確認した。
 辺りは闇に包まれているので、急に現れても目撃者はいないだろうが、念のためである。

 少年の肩に赤紫の尾の長い鳥が止まっている。ケツァールの姿によく似た鳥は巨体で、身長は30センチ、尾を含むと60センチはあるだろう。赤紫の体が夜の色に全く融け込まなかった。

 少年の肩を離れ近くの太い枝に止まると、その枝が小ぶりに見えた。

 「王よ。この方角でよろしいのですか?」

 丁寧かつ威嚇するような、低く響くような若い男の声が、鳥から発せられた。
 少年こと、王はキョロキョロと見回しながら、困ったように頭を掻く。

 「うーん、間違ってはないと思うけど……追いつかないね」

 竜巻に攫われたお供を探している。追いかけてもまだ発見できない。
 どこにいるんだろう? なにかトラブルがあったのか? と段々不安になってくる。

 「そこまで心配なさるな。全てはあれの自業自得でございます」

 ドキッパリ言い放った鳥に王は大汗を浮かべた。少し間を空けて苦笑いを浮かべる。

 「自業自得、かぁ」

 違うような気もするけど。と思ったが、口には出さなかった。倍になって淡々と説明がくることが目に見えるからだ。
 鳥は至って冷静に進言する。

 「はい。あれがほんの少し脇見をし、竜巻に巻き込まれたのは王の責ではございませぬ」

 前回、風の宝石を得るために竜巻を止めようとしたのだが、その時に急に風向きが変わり、運悪く彼が巻き込まれて飛んで行ってしまったのだ。
 慌ててコントロールをしたが、すでに遥か彼方まで飛ばされた後だった。
 最後の宝石探索及び回収を後回しにして、彼を探し回り現在に至る。

 「流石にあれは僕の責とは思ってないけど」

 風圧を庇ってもらったことに間違いないが、魚の姿でいたことが飛んだ原因であると王は思っている。

 「それで良いのです。寧ろ、宝石回収後に捜索してもよろしいかと」

 当然のように胸を張る鳥を呆れた様に見つめながら、王はカリカリと頭を掻いた。

 「こっちに。マーク」

 自分の腕を差し出し、そこに止まるように促す。
 マークがサッと腕にとまると、王は彼の目を見ながら心配そうに眉を下げた。

 「でも、怪我をして動けない可能性がある。放っておけない。まずは彼を見つけよう」

 「なんと!!! 流石は王、大変慈愛の深い方だ!!!」

 マークは感激したように翼を一度広げ、閉じた。

 「あんな間抜けのためにここまで優しくなされるとは。お仕えできて光栄です!!」

 翼で顔を隠し、涙する鳥。

 「間抜けって言いすぎなんじゃ?」

 鳥が長い嘴を広げた。

 「当然の言葉です! 自分から竜巻に突っ込んだのですよ!! 同じ眷属としては恥曝しとしか言いようがありません! ああ! 情けないっっ! 王にこんな回り道をさせるなんて!! 発見次第、セルジオにはお仕置きが必要です! ガツンとやってやりますよガツンとね!!!」

 「まぁまぁまぁまぁまぁ」

 王は苦笑いを浮かべつつ宥めると、マークは感情を抑え、考えるように黙り。とりつくようにコホンと一つ咳払いした。

 「まぁ、怪我といってもヒレの一本や二本を折ったくらいですな。大事には云ったって無いでしょう」

 「そのくらいだと良いんだけど……。理を構成する宝石だから、マークやセルジオには人間よりも威力が高いだろう? だから心配してるの。二人はグランから借りた大事な部下なんだから。五体満足で帰してあげなきゃ」

 「な、ななななんと!? 大変光栄でございます!!! 私は感激しすぎて涙がとまりません!!」

 マークは大粒の涙を流した。
 彼らの感情表現は兎に角大きい。それを知っているので、王はさらっと流す。

 「うん。大げさ。とりあえず、町を探してくれる?」

 「かしこまりました!!!」

 マークは空高く舞い上がった。涙の雫が宙を舞う。
しおりを挟む

処理中です...