丘の上の嘆き岩

森羅秋

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手を打つ必要がある

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 「あああああ。しまったなぁ」

 どうやら体の要の部分にまで傷を負っていたらしく、その影響で力の源である秘宝が飛び出してしまったようだ。
 すぐに処置をすれば飛び散ることはなかったのだが、久々の事でうっかりしていたのは否めない
 
 あれらがなければ、凄く困る。
 あれは生命エネルギーだ。

 ラルは使命どころか、日常生活をすることさえ出来なくなった。

 「どうしよう。回収しに行くのもこの姿では……」

 自身の手を見つめる。大きく骨ぼったいごつごつした皺皺の手だ。

 「王ーーー!! ご無事ですかーー!!」

 途方にくれていると、青年が息を切らせてやってきた。
 ゆったりしたローブを盛大にはためかせ、金色に輝く剣を持ち、全速力で駆け寄ってくる。
 目が細いが精悍な顔つきが焦りと不安に染まっていた。
 
 側近であり自らの片腕である青年が、今、追い付いた。
 神の守護として群を抜いた才能を持つ彼の力であっても、幻獣を抑え込むことが出来なかった。

 本当に、11番目の力になっていたかもしれない。とラルは思う。

 でもすぐ否定する。
 奇跡が起こればというレベルだからだ。
 
 駆け寄ってきた青年に呼びかけるラル。

 「グラン。不味い事になった」

 「王! 光が流れましたが、何か起こりま…………そのお姿は!?」

 グランはこれ以上ないほど口を大きくあけてラルを凝視した。
 
 立派な衣服はボロボロで、胸に穴が空いているばかりか、幼い少年だったラルの姿は70歳くらいの老人になっていた。

 グランはショックで顔を青ざめ、その場にへなへなと崩れ落ちる。

 「私が、護る役目を、担っていた。のに……まもれて、ない。なんたる失態を……」

 しわしわの爺になった当の本人よりもダメージが大きいようなので、ラルは慌てて弁解をした。

 「いや、実はね。獣を封印できたんだけど、ちょっとミスって秘宝が世界中に飛び散っちゃったみたいなんだ」

 「なななな! なんと!? それでお身体は…………あなが! 胸に、穴が!! 傷が!! 主様、ラル様の肌に傷がっていうか貫通してるううううう!!!?」

 グランは慌てて駆け寄り、ラルの穴があいた部分に手を添えた。穴は肉体を深々と傷つけているばかりか、ラルの最も重要な、要の部分に傷を負ったと気づいた。

 顔面蒼白になるグランに対して、ラルは軽い口調で

 「生存に問題はないけどね」

 しれっと答えるが、グランはガタガタガタと震え始める。

 「自分の不始末です!!!!」

 グランは半狂乱のように叫び、二メートル強という大柄の体で、か細くなった老人を抱きしめ泣き叫ぶ。

 「おいたわしやーーっ! ラルさまあああああああ!!!」

 「グラン、苦しい。やめて。傷広がる」

 「も、申し訳御座いません!!」

 慌てて離れると、グランは直ぐにラルに深々と頭を下げる。
 ラルはやれやれと苦笑いを浮かべた。

 「グランの言うとおり、このままだとちょっと困るから、僕はこれから秘宝を捜しに人間世界に行こうと思う」

 「なりません! 王は人間界を全く知らないでしょう! 不安です! 心配です! 私が回収しに向かいますから。どうか、安静にしてください。ご自分の体を労わって下さい」

 涙目で訴えられたが、ラルは困ったようにため息を吐いた。

 「けどねぇ、僕の今の力じゃ、何にも役に立たないし。グランには別のことを頼みたいんだ。凄く、重要な事」

 「な、なんでございましょう!」

 「僕の留守中に10の力の均衡を保っていて欲しい。これは僕の次に位の高い、グランにしか頼めないんだ。やって、くれるかな? 世界の……僕のために」

 「王のために」

 「そう」

 「私にしか、できない。王の勅命」

 青年はじ~んと感動し、感嘆の息を吐く。

 「そ、そこまで私を信用してくださるとは。わかりました!」

 グランはドンと胸を張って高々に答える。

 「このグラン、そのお役目を心してやらせて頂きます! 命に代えましても、必ずややり遂げます!!!」

 深々と敬礼をしつつラルに頭を下げる。

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