丘の上の嘆き岩

森羅秋

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卵の救出

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 足音が消えたら、マークは呆れながらラルを見上げた。

 「途中で起こされると寝起きが悪い。とは、初耳です」

 「これから抜け出すんだから、途中で来てもらっても困る」

 ラルはガタンと窓を開けて身を乗り出す。
 一階なので脱出は簡単だった。

 窓が開いた瞬間、マークは夜空へ飛び上がる。梟のように少しの光で周りがクリアに見える。異変がない事を確かめてからラルに出ても大丈夫と告げる。

 少年と鳥はうめき声が響く丘の上へと駆け出した。

 「正直、寝ると言って驚きました。王はすでに睡眠は必要ないというのに」

 「いい口実かなって思ったし。ああ、これは嘘になるか。あははは。僕、人間に嘘ついちゃった!」

 楽しそうに笑うラルを見下ろしながら、マークはため息交じりで答える。

 「嘘も方便といいます。問題ありません。これから秘宝を採りに向かわれるのでしょ?」

 「うん。多少手助けをしないといけないけど」

 マークは「?」と浮かべる。

 「手助け? 一体なんの?」

 「嘆き岩の手助け」

 「手助け???」

 マークにとっては反発する秘宝と一戦交えるイメージしかない。

 今までがそうだった。回収しようとした秘宝が暴走して、周囲の和が乱れて大災害及び大混乱が起こる。その影響を一番受ける位置にあるのが、あの教会だ。

 王の力が万全に近い状態ならば、被害は最小限に済むだろうが、万が一の事を考えて、セルジオをフェールの元へ残したのだと思っていたのだが、彼の思惑は別にありそうだ。

 「王。どういう意味かお尋ねしても宜しいでしょうか?」

 「実際に行ったらわかるよ。最後の最後で楽できそう。ラッキー」

 ラルはニコニコと笑うだけで、答えなかった。




 少年と鳥は嘆き岩へと到着した。

 緑色の鮮やかな深緑が黒く染まり、岩は夜空に溶け込み輪郭を失って辺り一面真っ暗だ。ネコのツメのような三日月が辛うじて岩を囲む池に映っている。

 ラルは池のすぐ近くまで行くと歩みを止め、杖を召喚する。
 身の丈よりも遥かに高い杖を振りかざし、三種類の秘宝を浮び上がらせた。

 マークは黙ってラルの動きを見つめる。

 「まずは闇で周りの光を取り除く」

 黒い宝石が輝き、辺りを更に闇へと誘う。
 池に映っていた三日月が消えた。
 濃くて黒い霧がラルと岩と池の姿が覆い隠くし、マークは王の姿を目視出来なくなった。一瞬、焦ったマークだが、すぐにラルの声が聞こえて安堵する。

 「そして、火と水を使って、霧の環境を作る」

 赤い宝石と青い宝石が同時に輝くと、火と水がお互いの体をぶつけ合い、濃い霧を作りだした。

 「あとは、衰弱しきったヤミガメの赤ちゃんに癒しの力を送る」

 「ん? ヤミガメ?」と、マークが呟く。

 「そうだよー」と返事をしながら、ラルは池の中へ足を進めた。

 膝下まで服が濡れるが気にせず岩に着くと、そっと手を添えた。手から淡い光が出てくると、その光が岩全体に広がり、包まれる。


 ウゴゴググオゴ!!


 岩は歓喜に打ち震えた。

 「王!? 大丈夫でしょうか!!」

 マークは王が目視できず不安を感じていた中、嘆き岩から震える様な叫び声が聞こえ、焦りが沸き起こる。思わず叫ぶと

 「心配ないよ。もうすぐだから」

 すぐに返事が返ってきた。

 パリパリと殻を割る音が耳に入る。その音がしばし続き無音になると。
 今度はズルズルと何かが抜けだす音が聞こえた。
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