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幻獣ヤミガメ
しおりを挟む黒い深い霧を走って丘の上に辿り着いたフェールは、周囲をキョロキョロと見渡すが、辺りは殆ど見えなかった。
「どうしよう。この先に岩があるはずだけど」
目を凝らして足元を確認してトボトボ歩く。
「やれやれ。本当にセルジオは何をやっているのか」
頭上からマークの声が聞こえて、フェールは上を見上げる。鳥が滑空して肩に止まった。衝撃でトトトと前に転げそうになる。
「ここで止まってください。これ以上進むと池に落ちますよ?」
「マークさん! ど、どうしてここに!?」
フェールはマークに驚いたが、鳥は冷静に受け答えする。
「ご安心ください。もうすぐ王が戻ってきます」
「オーさんも来てるの!?」
「それよりも、貴女は何故此処に?」
「嘆き岩の声が気になって。危険がないか調べようと思って。ほら。危険があったら町に知らせないと皆困るでしょ?」
「それで霧の中を突っ切ってきたと? 全く、好奇心旺盛なのは素晴らしいことですが、危ない真似はおよしなさい。このような場合は町へ降りて領主か警備の者に知らせるのが先決です。子供が出来ることなんてたかが知れています。子供が出来る事は命を大事にする事です。よくよく肝に命じなさい」
「はい……」
マークから軽い説教を受け、フェールはしょぼんと項垂れる。
「フェール! いた!」
三分後、セルジオがフェールに追いついた。無事を確認してホッとすると、肩に止まっているマークの横へ移動する。
「雑魚が」とマークに毒づかれたが、セルジオは素直に謝った。
「すまない。助かったマーク。ところでこれは一体? 何が起こっている?」
「王のお考えだ」
「王の……あ!」
この光景に見覚えがある。そう思った瞬間、答えが閃いてセルジオは声をあげた。
「あああ! そうか! あの岩は、そうだったのか!? 黒かったから分からなかった!!」
セルジオの様子に、マークは怪訝な顔をする。
「知っているのか? セルジオ」
「ああ! この場所が海の上だと仮定すると、月の出ない新月、そして辺りを覆い尽くす部分的な霧となれば」
「幻獣ヤミガメが孵化をする日。もしくは、産卵日だよね」
セルジオの言葉を遮って、ラルが答えた。
少しずつ霧が晴れ少年の姿が見えてくる。その腕の中に小型犬くらいの真っ黒い亀が収まっていた。
「「王!」」
鳥と魚は一目散に少年に向かった。
ラルは二人にアクアブルーの宝石を見せ、満足そうに微笑む。
「ほーらほら、海の秘宝発見。この場所に落ちてたみたい。それで、ここが海と同じ環境になっていて、母親のヤミガメが間違えて卵を産んじゃったんだね」
「なるほど。これでは海周囲をいくら探しても見つからなかったわけですな」
マークがラルの肩にとまり、亀を見下ろす。
「さてと、送ろうか」
ラルの言葉を聞いて、セルジオがスッと前に出る。
「僭越ながら申し上げます。これは私の役目の一つでもあります。どうかお任せください」
「任せた」
許可を得て、セルジオが本来の青年の姿に戻り、ひょいっと亀を抱き上げる。
「大海原よ。新しく生まれしヤミガメの子に祝福を。理を与え、相応しき場所へ導き給え」
セルジオの体が淡く光る。その光がヤミガメ全体を包むと、ふわっとヤミガメが浮き、そのまま上空に昇り、すぐに姿が見えなくなった。
「幻獣は生息地へ戻しました。これで安心です」
深々とお辞儀をするとセルジオはまた魚の姿に戻った。
「おめでとうございます王。秘宝回収は完了しました。このまま神界へお戻りください」
肩から降りたマークが、地面に降り立ち深々とお辞儀をする。セルジオも地面に降り立ち深々とお辞儀をした。
「だね。期間ギリギリセーフ」
役目を終えた三つの秘宝が消え、辺りは元の光景へと戻る。
つい先ほどまであった岩も池も、まるで全てが幻だったように跡形もなく消えており、その代りに、青々とした草原と花畑が広がっていた。
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