そして何も言わなくなった【改稿版】

浦登みっひ

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三日目(2)

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「嬰莉……嬰莉!」

 呼び掛けても微動だにしない友人の異変に気付いた霞夜は、素早く嬰莉の死体の傍に駆け寄ると、手を当てて呼吸と脈拍を確認した。しかし、わざわざ脈をとるまでもなく、嬰莉の死体は既に冷たくなり、死後硬直が始まっていた。固くなった嬰莉の腕に触れ、その肌の冷たさに気付いた霞夜は、悲し気に目を伏せて首を横に振る。それ以上の説明は必要なかった。

「そんな……そんな、どうして!」

 仄香はそう叫ぶと、崩れ落ちるようにしてその場にへたり込んだ。仄香の絶叫は屋敷の隅々にまで響き渡り、その大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 嬰莉が死んだ。
 自分達がぐっすりと呑気に眠っていた、そのすぐそばで、嬰莉が死んでいる。いや、ただ死んでいるのではない。この死体の状況を見れば、彼女が何者かの手によって殺されたことは明らかだ。死体の衣服は脱がされ、あるいは力づくで破られている。
 考え得る限りで最悪の可能性は、誰かが嬰莉に性的暴行を加えた後、無残にもその命を奪ったというケース――つまり、強姦殺人である。
 しかし、瞬時にその可能性にまで思い至ることができたのは、この場では恐らく霞夜だけだっただろう。あまりの衝撃に全員が暫し呆然としていたが、屋敷の管理人であり、この場では最年長でもある錦野が、現状を確認するため嬰莉の部屋の入口を跨いだ。

「な、亡くなって……いるのですか……」

 それはこの非常事態における屋敷の管理人としてごく自然な行動だったと言える。しかし、霞夜はそれを許さなかった。

「男は来ないで!」

 毅然と言い放った霞夜の剣幕に気圧され、錦野はその場でピタリと立ち止まる。

「見ての通り、嬰莉は何者かに殺された可能性があります……いえ、可能性どころじゃない。これはきっと殺人事件です。厳正な捜査を行うためには、現場をなるべくそのままの状態で保存しておく必要があるはず。可哀想だけど、警察が来るまでは、嬰莉をこのままここに寝かせておくしかありません」
「……は、はい、確かに、仰る通りですな」

 慌てて廊下に出た錦野に、霞夜は睨み付けるような厳しい眼差しを投げながら頷き返した。続いて霞夜は、廊下で嬰莉の遺体から目を背けていた望の背中に声をかける。

「望は綸をどこか落ち着ける場所に連れて行ってあげて。錦野さんは、この部屋の鍵を持って来ていただけますか。私たちは、この部屋を扉の前で見張っています。犯人がまだこの部屋に潜んでいる可能性もありますからね――仄香、大丈夫?」
「うぅ、うん……」

 優しく労わるような霞夜の言葉に、仄香は手の甲で涙を拭いながら小さく頷いた。
 こんな状況にあっても全く狼狽えた様子を見せない霞夜の冷静さに錦野は驚いた様子だったが、霞夜の判断と指示は的確で、異論を差し挟む余地はどこにもない。錦野は霞夜の指示通り、嬰莉の部屋の鍵を取りに階段を降りて行った。慌てているせいか、巨体の錦野の振動はドシンドシンと地鳴りのように大きく響いた。
 望は、未だに立ち上がれないでいる綸の肩を抱き起こすようにしてどうにか立たせ、一緒に寄り添いながら扉の前を離れて行く。三人が部屋の前から去ったのを確認した霞夜は、おもむろに立ち上がり、廊下に出て嬰莉の部屋の扉をそっと閉めた。そして、次の瞬間――。

「はぁっ……」

 嬰莉の部屋の扉に凭れながら、霞夜は深いため息をつき、突然両手で顔を覆った。それから、霞夜が幽かに肩を震わせながら嗚咽を漏らし始めるまで、さほど時間はかからなかった。
 気丈に振る舞ってはいたが、彼女も友人を失った一人の女子高生。特に霞夜と嬰莉は、正反対の性格を持ちながら、否、正反対だからこそ、息の合った漫才コンビのような仲の良さを見せていた。無残に凌辱された親友の亡骸を目の当たりにして、ショックを受けないはずがないのだ。

「霞夜ちゃん……」

 仄香が声を掛けると、霞夜は絞り出すような涙声で言った。

「どうして……どうしてこんなことに……嬰莉が……皆で過ごせる最後の夏休みだと思って……ここまで来たのに……」

 いつも冷静な霞夜が初めて見せる涙。それにつられたように、自責の念にかられる仄香の瞳からも、再び大粒の涙が溢れ始める。

「ごめんね、ごめんね霞夜ちゃん……私が皆をうちに呼んだりしなければ……」
「違うよ……仄香は何も悪くない。悪いのは嬰莉にこんな酷いことをした奴だよ。絶対に許さない……」

 仄香は、次第に震えが大きくなってゆく霞夜の体を包み込むように抱き、背中を優しく撫でながら、ごめんね、ごめんね、と何度も謝罪し続けた。
 数分後、錦野が嬰莉の部屋の鍵を持って戻ってくると、霞夜はようやく仄香の胸から顔を上げた。メイクはすっかり崩れ、涙で潤むその両目には、嬰莉を殺した犯人に対する激しい憎しみが宿っていた。涙の跡に沿って流れた黒いアイラインが、その眼差しに更に凄みを加えている。

「錦野さん、その鍵で嬰莉の部屋を施錠してください。そして、警察が来るまで、この部屋には誰も入れないように」
「は、はい……わかりました」

 錦野は霞夜の指示に従い、嬰莉の部屋にガチャリと鍵をかけた。その錦野の背中に、霞夜は険しい表情で質問を投げかける。

「錦野さん、この部屋の鍵は、昨夜の間ずっとあなたが管理していたんですよね?」

 険のある霞夜の口調に、錦野は体をビクリと震わせながら霞夜の方を振り返り、怯えたような目で頷いた。

「え、ええ……もちろんです」
「他に鍵はありますか? 或いは、どこかで合鍵を作られている可能性は?」
「いえ、部屋の鍵は、私が管理しているマスターキーと、皆さんにお渡しした鍵の二つだけです。それに、私が乙軒島に来てからは、合鍵を作るような機会はなかったと思います。考えられるとすれば、前の管理人さんですが……」
「錦野さんの前の管理人は、女の人だったよ。それに、どっちにしても、私たちに黙って合鍵を作ったりはしてないはずだけど……」

 仄香が錦野の発言を補足すると、霞夜は探るような目で錦野を見据える。

「錦野さん、申し訳ありませんが、そのマスターキーは、警察が来るまでの間、私に預けていただけませんか? 私が言っていることの意味がわかりますね?」

 嬰莉の死体に残されていた凌辱の痕跡、そして綸が目撃した錦野の行為。霞夜は元々錦野に対して強い嫌悪感を抱いていたわけではないようだったが、このような事件が起こってしまった以上、男である錦野にマスターキーを持たせておくわけにはいかない。
 錦野は昨日の昼間、下半身を弄っている姿を綸に目撃されていたことは知らないはずだが、客観的に考えても、この状況下でマスターキーを男に管理させることの危険性は明らかだ。説明されるまでもなく事情を察した錦野は、大人しく霞夜にマスターキーを手渡した。

「では、このマスターキーは、警察が乙軒島に来るまでの間、一時的に私が管理させていただきます。電話もインターネットも使えず、外部との連絡手段があの小型ボートしかないのなら、台風が通過して天候が回復するまで、ここは私たちだけで何とかするしかありません。警察に連絡を取るにも数日はかかると見たほうがいいでしょう。その前に、私たちにできる範囲で状況を把握しておきたいですね。まだこの島の中に、嬰莉を殺した犯人がいるかもしれないのだから。私はこれから、この周辺を探索したいと考えています。錦野さん、ご同行頂けますね?」

 錦野は、親子ほど年の離れた霞夜に場を仕切られているこの状況にも何ら不満を見せることなく、神妙な面持ちで頷いた。

「ええ、もちろん。私も、旦那様からこの屋敷の管理を仰せつかった身として、このような痛ましい事件が起こってしまったことに責任を感じております」
「では、お願いします。まずは、屋敷内の見回りですね。外はこの暴風雨ですから、犯人はまだ屋敷の中のどこかに潜んでいるかもしれない。錦野さん、犯人が潜伏できそうな場所に心当たりはありませんか?」

 霞夜が尋ねると、錦野は顎をさすりながら首を傾げた。

「……さて、どうでしょうな……このお屋敷はこれだけ大きいですから、隠れられる場所も多いように思われるかもしれませんが、実際は一つ一つの部屋が広いだけで、部屋数自体はさほど多くないのですよ。皆さんがいらしてから二階の部屋もほとんど埋まっておりますし、一階のリビングやダイニングの辺りは私が朝から頻繁に出入りしておりましたから、どうでしょう……二階の遊戯室か、屋根裏部屋か、物置か、或いは……」
「或いは?」
「或いは、地下室でしょうか。前にも申しました通り、この屋敷の地下室にはディーゼルの自家発電装置がありまして、同じ部屋に、太陽光発電のパワーコンディショナーも設置してあります。今朝、朝食の支度を始める前に一度様子を見に行ったのですが、なにしろ暗い部屋ですので、隅々まで確認できたかというと、少々心許ないですな」

 地下室。
 その平凡な三文字の単語が、殺人事件という言葉と組み合わせるだけで、たちまち蠱惑的な響きを持つのは何故だろう。それも、普段人目に触れることのない自家発電施設。いかにも何かがありそうな気配がする。霞夜は強い興味を示し、双眸をギラギラと輝かせた。

「地下室ですか……では、まずそこに案内していただけますか?」


!i!i!i!i!i!i!i!i!i!


 一階の間取りは、大半のスペースが中央の広いリビングに占められている。リビングの南、玄関から見て左側に台所とダイニング、洗面所とトイレ、洗濯機などがあり、リビングの西側は管理人である錦野の居室と物置。ちなみに、錦野の居室は客室と同じようにバスとトイレが完備されており、内装は質素ではあるものの、広さは客室とほぼ変わらない。
 地下室に入る前に、念のため一階のトイレとダイニング、そして錦野の居室も確認してみたが、いずれも不審な人影は見当たらなかった。リビングは当然無人である。
 屋敷の地下室は、錦野の居室の隣にある広い物置の真下に位置している。物置ほど広くはないものの、この地下室には、ディーゼル発電機、太陽光発電のパワーコンディショナー、そして大型の蓄電池と、オール電化には欠かせない、しかし非常に場所を取る大型の設備が収められている。地下室に降りるためには物置から床下の階段を使わなければならない。

 物置に入ってみると、広さの割には収納されているものが少ないという印象を受けた。
 最も多いのは家庭菜園用品。土や肥料、スコップなどの小物から、植木鉢から手押し車、ビニールハウスの部品と思わしき細い鉄パイプとビニールまで、船着き場のログハウスに収まりきらなかったものがこちらに置かれているという印象だ。また、別の一角にはモップやデッキブラシなどの清掃用具もあり、浮世離れしたこの屋敷の中で、ある意味最も生活感のある場所だと言える。
 しかし、そんな物置の中で最も目を引いたのは、部屋の一隅を占める大型の機械だった。幅は少なく見積もっても五メートル、高さも二メートルは超えており、鉄骨のフレームの中に、無数の管やバルブ、操作盤が並んでいる。
 霞夜の視線に気付いた錦野が説明を始めた。

「あれは、海水淡水化装置ですな。海からここまでホースで水を汲み上げて来て、あの装置で飲料水や生活用水として使えるようにしているわけです。淡水化装置を設置している物置なんて、日本中探してもここしかないかもしれませんな……。生活用水はここから屋敷内に供給されていますが、お湯に関しては、淡水化装置で浄水した水を、あそこにあるエコキュートで温めて使っています」

 と錦野が指し示した先には、これまた高さ二メートルほどの、白い直方体の装置が立っていた。

「あれも、一般の家庭用と比べると大容量の特注品だそうで……東京で暮らしていた頃は電気も水もごく当たり前に使えるものだと思っていましたが、乙軒島で暮らすようになって、今更ながらライフラインが安定して使えることの有難味を感じました。普通に暮らすだけで、これだけ多くの設備が必要になるのですからな……。通用口を出てすぐのところにエコキュートの室外機もありますが、エアコンの室外機とさほど大きさは変わりませんので、人が隠れることは不可能だと思われます。すぐご覧になりますか?」

 霞夜は少し考えたものの、首を横に振った。

「……いえ、結構です。外を見て回るときに、一緒に確認しましょう。ところで、あのエコキュートの中は、どういった構造になっているのですか?」

 鉄骨のフレームだけでカバーがなく中が丸見えになっている淡水化装置とは違い、高さ二メートル、幅も四メートルはありそうなエコキュートのタンクは、白い外装パネルに覆われているため、内部がどうなっているのか視認することができない。大きさだけで考えれば人が隠れるのに適したサイズであり、霞夜はその点が気になったようだが、錦野は即座にそれを否定した。

「あの中はほとんどタンクですよ。人が隠れられるような隙間はありません。そのタンクだって、人の脚より細い配水管が繋がっているだけですから、配水管を通ってタンクに出入りするなんてことは不可能です。何より、お湯が問題なく使えているのですから、このエコキュートに何か手を加えられているとは考えられませんな」
「……そうですか。そうですよね……ところで、この物置の通用口は、いつも施錠してあるのですか?」
「ええ、もちろんです。通用口の鍵は、さっきお渡ししたマスターキーの鍵束の中にあります。昨日の午後に出入りして以降使っていないので、今もしっかり施錠されているはずですよ。確かめてみますか?」

 霞夜は答える代わりにそのまま通用口へ歩いていき、ドアノブを掴んで、何度かガチャガチャと鳴らしてみた。
 しかし、ノブが回ることはなく、押しても引いてもドアは動かない。霞夜は小さく頷きながら言った。

「鍵がかかっていますね……ここから誰かが出入りしたということはなさそうです。では、錦野さん、次は地下室を見せていただけますか?」
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