PULLUSTERRIER《プルステリア》

杏仁みかん

文字の大きさ
14 / 92
Section2:赤の異端者

13:赤の異端者 - 5

しおりを挟む
 もし、神というものが本当に存在するのだとしたら。
 「あれ」はやはり、罰すべき行為だったのだろう。今起きている事態は当然の報いなのだと言える。

 水面みなもに映る私の顔は、ヒトと認めるには少々複雑で、滑稽なものだった。
 ツインテールのように左右に垂れ下がった大きな扇状の二つの耳。クセのある細かい赤毛のショートヘアー。黒くて丸い鼻。髪と同じ色の毛を生やした前腕と脛。弾力のある肉球のついた掌、太い指先に鋭い爪を携えた大きな手。お尻の上から生え、無意識に動くふさふさとした尻尾――。

 事態を把握するのに時間はかからなかった。ボタンを押す直前、こうなってしまう可能性も心のどこかで一瞬考えたりもしたからだ。

 最愛のアニマはもう、ここにはいない。ここがチュートリアルマップだからというわけでもなく、いないということが確実に「判る」。
 彼女ゾーイエリカになってしまったのだろうか。それとも、エリカ彼女ゾーイになってしまったのだろうか――その答えも直ぐに「解る」。

 何かを思い出そうとすると、それだけで二つの記憶が同時に流れ込んでくる。まるで、三面鏡を見ているように、頭の左右それぞれに違う記憶が浮かび上がり、中央で客観的な結果が導き出されるのだ。

 つまり、私という存在はエリカ・ハミルトンでもあり、同時に、アイリッシュ・セッターのゾーイでもあった。

 原因は判らない。共に同じカプセルに入り、ボタンを押したことで二つの魂が一つに合わさったのか。或いは、転送中に一時だけ見えたサーバーダウンによって引き起こされた事故とも考えられる。
 いずれにせよ、それは災難……いや、奇跡と呼んで等しい現象だった。

 初めは幾分か驚き、戸惑いもした。が、気持ちを整理していくうちに、むしろ悪いことではない、と思うようになった。何故なら、エリカはゾーイを愛し、ゾーイはエリカを愛していたからだ。それは、記憶が共有化された今だからこそ、理解出来る。

 だから、孤独ひとつになって良かった。

 私達のアニマは、ここに在る。それは何とも形容しがたい、不思議な気分だった。
 我が身を抱けば互いの温もりを感じ、歩き出せば互いの呼吸を同時に感じられるのだ。

 心の中でゾーイが尋ねる。

 ――あれはなに?

 エリカは答える。

 ――あれは私達。水面に映った私達。

 ゾーイは笑う。

 ――おかしいね。

 エリカも笑う。

 ――変だよね。

 まるで生まれた時からずっとそうしていたように、姉妹のようにして身を寄せ合う、二人にして一つの存在。
 動きたい。とにかく、この身体で大地を蹴り、思いっきり大自然の中を走り回りたい、と思った。

 チュートリアルを軽く聞き流して、外へと繋がる門へ向かう。
 人はこの姿を見てどう思うだろう。怖いと感じるだろうか。可笑しいと思うだろうか。

 いや、どちらでも構わない。私は、アニマポートで声を上げたその時から異端者なのだ。世間からはみ出すことには慣れてしまっている。怖いものなんてない。
 それに、独りでもないし、孤独に耐える心配もない。私達は常にここにいる。

「さあ、行こう!」

 私という存在は、私達に言い聞かせる。

 ――私は、エリカ・ゾーイ・ハミルトン。
 この「生まれたての大地プルステラ」に生まれた、「生まれたての獣人プルスセリアン」だ。

 私は、私達の意志だけで生きていく。
 それが、獣であり人でもある私の、新しい生き様となるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。 しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。 帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。 帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

蒼き炎の神鋼機兵(ドラグナー)

しかのこうへい
ファンタジー
クーリッヒ・ウー・ヴァンの物語を知るものは幸せである…。ある日、突然目覚めた16歳の少年、ライヴ。しかし、その意識には現代日本人としてのパーソナリティが存在していて…。昔懐かしダン◯インのような世界観でお送りする、大河長編SFファンタジー。 なお、更新は時間がある時に行っております。不定期となりますが、その旨どうかご理解の程よろしくお願い申し上げます。

桔梗の花咲く庭

岡智 みみか
歴史・時代
家の都合が優先される結婚において、理想なんてものは、あるわけないと分かってた。そんなものに夢見たことはない。だから恋などするものではないと、自分に言い聞かせてきた。叶う恋などないのなら、しなければいい。

空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』 高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》 彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。 それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。 そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。 その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。 持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。 その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。 魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。 ※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。 ※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。 ※2022/10/25 完結まで投稿しました。

子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜

珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。 2匹の怪獣さんの母です。12歳の娘と6歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。 毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)

金20時更新「人生は彼女の物語のなかに」生真面目JKの魂が異世界の絶世の美人王女の肉体に?!運命の恋?逆ハーレム?それどころじゃありません!

なずみ智子
ファンタジー
いろんな意味でヤバすぎる絶世の美人王女の肉体にて人生続行中です。 4月。高校受験に失敗した15才の少女・河瀬レイナは、現在の状況を受け入れられず、滑り止めの高校の環境にもになじむことができずに、欝々とした日々を送っていた。 そんなある日、レイナは登校中に暴走車に轢かれ、死亡してしまった。 だが、滅んだのはレイナの肉体だけであったのだ。 異世界のとある王国の王族に忠誠を誓う女性魔導士アンバーの手により、彼女のその魂だけが、絶世の美貌と魅惑的な肉体を持つ王女・マリアの肉体へといざなわれてしまった。 あたりに漂う底冷えするような冷気。そして、彼女を襲うかつてない恐怖と混乱。 そのうえ、”自分”の傍らに転がされていた、血まみれの男の他殺体を見たレイナは気を失ってしまう。 その後、アンバーとマリア王女の兄であるジョセフ王子により、マリア王女の肉体に入ったまま、レイナは城の一角にある部屋に閉じ込められてしまったのだが……  ※お約束のイケメンはまあまあの数は出てきますが、主要人物たちの大半(主人公も含め)が恋愛第一主義でないため、恋愛要素とハーレム要素はかなり低めです。 ※第4章までの本編は1話あたり10,000文字前後ですが、第5章からの本編は1話あたりの文字数を減らしました。※ ※※※本作品は「カクヨム」にても公開中です※※※

処理中です...