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寝台の上で、二人
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「まさかオレが王子なの知ってからも態度変わんないとは思わなかったな……」
「へ?」
一人では広すぎるオレの寝台をさも自分の物のように寝転び寛ぐウルのことを眺めながら、机の上の書物を片付け両腕を大きく天井へと伸ばした。
「お勉強は終わりました?」
「終わんねぇ~。全然頭入んねぇよ」
「あはは、大変だ」
教育係だけでなくウィリスにも政治や財政、各国の歴史に関する書物を山のように渡されたから毎晩目を通しているけれど、今まで勉強なんてしたことなかったから全く頭には入ってこなかった。
剣術や戦術は実際に体を動かしながら学べるから嫌いではなかったけれど、座学の方は本当にダメだ。
大きな溜め息を吐いたオレの背中に、楽器が響くようなウルの笑い声が飛んでくる。
振り返らなくても、ウルがオレにどんな顔を向けているのかを想像するのは簡単だった。
「俺も勉強は苦手ですよ。俺達、仲間ですね!」
「そんな仲間嬉しくねーよ」
呆れた笑い声が溢れたオレにも、気にする様子はなくウルは楽しそうに笑っていた。
今までずっと一人きりだった広くて冷たい部屋が、ウルのお陰で温かいものに変わっていくのを感じている。
ウィリスには心配をされたものの、オレがウルを部屋に呼ぶのは独りが寂しいから意外の理由はない。
隣の国の王がうつつを抜かしていたと言われている道化師を部屋に呼んでいるのだから噂になるのは仕方がないが、オレとウルの間に心配するようなことは何もないんだ。
振り返れば、寝台に寝転んだウルが早く来ないかと足をバタバタさせながら期待の籠った眼差しを向けている。
仕方ないなと立ち上がり、寝台の上に寝転べばウルはオレの首へと両腕を回して抱き付いてきた。
「ユリーは本当にあったかいですね」
「一国の王子で暖を取るのなんてお前くらいしかいないよ」
折角の広い寝台の、真ん中で小さくなって体を寄せ合うなんて随分と贅沢な真似をしている。
一人きりの夜とは全然違う。オレはウルの背中を両腕で抱え込むように包み込んだ。
「……ユリー、ほんとに俺は何にもしなくていいんですか?」
「だから、そういう意味で部屋に呼んだんじゃないってずっと言ってんだろ」
まだ少し納得いかない様子でオレの胸に体を寄せたウルの頭を、少し乱暴に撫でてやった。
「……その気になったらいつでも言って。一生懸命ご奉仕しちゃうから」
「だから、しねーって」
前の国でウルがどういう扱いを受けていたのかは、噂程度に知っていた。本人の口からはとてもじゃないけど聞けなかったが。
ウルのことを国に連れ帰った時は隣国の王が執心だったというのも正直半信半疑だったけれど、王の前でその芸の腕を披露した時には思わず魅入ってしまった。
隣国の王が惚れ込むのも、わからなくはないと思えるほどに。
この国でも王に随分と気に入られ、そのまま城専属の芸人として城に召し抱えられることになったウル。
芸の腕もだけれど、本人の愛嬌と人の懐にすんなりと入り込む警戒のされなさを特に王は気に入ったようだった。
それだけじゃなく、王はウルから隣国の情報を引き出したい狙いもあった。
ウルは素直に口を割った。その言葉は全て真実で、ウルのお陰で戦の後処理も予定よりかなり早く完了することが出来た。
その辺りも、王の気に入るところだったんだろう。
ウルの態度も寝返りや報復を思わせるものでなかったため、戦後の処理が落ち着いた後もすんなりとこの国に溶け込んでしまった。
けれど、ウルがこれまで隣の国の王にどんな扱いを受けていたのか噂が城内に広がるのはオレが思っていたよりも早かったようで、同じことをウルにしようと考える奴らが現れるのも今思い返せば自然なことだったように思う。
ウルの外見はどこからどう見ても男性だったけれど、少年の可愛らしさが残る顔立ちが性別など些細なこととした。
何の後ろ楯もない芸人という立場は、虐げるには丁度良かったのだろう。
「オレは他のやつらみたいなことをお前にしたくはないんだよ」
ウルの立場の弱さを、最初からオレがもっと理解していてやるべきだったんだ。
「へ?」
一人では広すぎるオレの寝台をさも自分の物のように寝転び寛ぐウルのことを眺めながら、机の上の書物を片付け両腕を大きく天井へと伸ばした。
「お勉強は終わりました?」
「終わんねぇ~。全然頭入んねぇよ」
「あはは、大変だ」
教育係だけでなくウィリスにも政治や財政、各国の歴史に関する書物を山のように渡されたから毎晩目を通しているけれど、今まで勉強なんてしたことなかったから全く頭には入ってこなかった。
剣術や戦術は実際に体を動かしながら学べるから嫌いではなかったけれど、座学の方は本当にダメだ。
大きな溜め息を吐いたオレの背中に、楽器が響くようなウルの笑い声が飛んでくる。
振り返らなくても、ウルがオレにどんな顔を向けているのかを想像するのは簡単だった。
「俺も勉強は苦手ですよ。俺達、仲間ですね!」
「そんな仲間嬉しくねーよ」
呆れた笑い声が溢れたオレにも、気にする様子はなくウルは楽しそうに笑っていた。
今までずっと一人きりだった広くて冷たい部屋が、ウルのお陰で温かいものに変わっていくのを感じている。
ウィリスには心配をされたものの、オレがウルを部屋に呼ぶのは独りが寂しいから意外の理由はない。
隣の国の王がうつつを抜かしていたと言われている道化師を部屋に呼んでいるのだから噂になるのは仕方がないが、オレとウルの間に心配するようなことは何もないんだ。
振り返れば、寝台に寝転んだウルが早く来ないかと足をバタバタさせながら期待の籠った眼差しを向けている。
仕方ないなと立ち上がり、寝台の上に寝転べばウルはオレの首へと両腕を回して抱き付いてきた。
「ユリーは本当にあったかいですね」
「一国の王子で暖を取るのなんてお前くらいしかいないよ」
折角の広い寝台の、真ん中で小さくなって体を寄せ合うなんて随分と贅沢な真似をしている。
一人きりの夜とは全然違う。オレはウルの背中を両腕で抱え込むように包み込んだ。
「……ユリー、ほんとに俺は何にもしなくていいんですか?」
「だから、そういう意味で部屋に呼んだんじゃないってずっと言ってんだろ」
まだ少し納得いかない様子でオレの胸に体を寄せたウルの頭を、少し乱暴に撫でてやった。
「……その気になったらいつでも言って。一生懸命ご奉仕しちゃうから」
「だから、しねーって」
前の国でウルがどういう扱いを受けていたのかは、噂程度に知っていた。本人の口からはとてもじゃないけど聞けなかったが。
ウルのことを国に連れ帰った時は隣国の王が執心だったというのも正直半信半疑だったけれど、王の前でその芸の腕を披露した時には思わず魅入ってしまった。
隣国の王が惚れ込むのも、わからなくはないと思えるほどに。
この国でも王に随分と気に入られ、そのまま城専属の芸人として城に召し抱えられることになったウル。
芸の腕もだけれど、本人の愛嬌と人の懐にすんなりと入り込む警戒のされなさを特に王は気に入ったようだった。
それだけじゃなく、王はウルから隣国の情報を引き出したい狙いもあった。
ウルは素直に口を割った。その言葉は全て真実で、ウルのお陰で戦の後処理も予定よりかなり早く完了することが出来た。
その辺りも、王の気に入るところだったんだろう。
ウルの態度も寝返りや報復を思わせるものでなかったため、戦後の処理が落ち着いた後もすんなりとこの国に溶け込んでしまった。
けれど、ウルがこれまで隣の国の王にどんな扱いを受けていたのか噂が城内に広がるのはオレが思っていたよりも早かったようで、同じことをウルにしようと考える奴らが現れるのも今思い返せば自然なことだったように思う。
ウルの外見はどこからどう見ても男性だったけれど、少年の可愛らしさが残る顔立ちが性別など些細なこととした。
何の後ろ楯もない芸人という立場は、虐げるには丁度良かったのだろう。
「オレは他のやつらみたいなことをお前にしたくはないんだよ」
ウルの立場の弱さを、最初からオレがもっと理解していてやるべきだったんだ。
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