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ガラスの球体
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手をさしのばせばそれだけで手に入る。
夢はそれほど近くに存在していた。
否、俺自身がそこまで来た。
・・・苦労はするものだ。
だれも味方がいないなら尚更それは必要で、幸福ではいられない日々がつづいたからこそ今の自分が継続する。もちろん、すべてを手に入れた訳ではないから油断はできない。それに、それほどたやすく手に入るとするならば、俺はその夢を捨てるはず。
確実なものには何の興味も感じないのだから。
希望。
ほんのささいな欠片でいい、
俺を支えてくれるものであるならば、と握りしめた手の平を、すりぬけていくいちじんの風・・・
これは俺の言葉ではない。
誰かがつくりだして俺がたまたま知ったよくある格言、そんなもの。だが俺は、手を握るたび、握りしめるたび、こう思う。
太陽はいつも近くにあるものなのだ。
と、
「そうまでしてあんたは・・・わかんないなぁ、あたしには。大事なものって、こんなに簡単にすてられるかなぁ?」
「簡単じゃないよ」
「嘘つき」
「なにも失わないのに手にはいる夢なんて、夢じゃない。俺が追っているのは夢なんだ」「それが何なのかは、まだ言えない?」
「安っぽく人に打ち明けられる夢なんて」
「・・・夢じゃないのよね」
「ああ」
「それじゃァさ、これから。これから何処へいくつもりなの? それくらい教えてよ」
「だめだ、いえない」
「ど・う・し・て」
「君という記憶にすがりたくもないんだ。俺には、大きな夢がある」
「夢にすがる自分は許せるのね」
「すがっているだけじゃないから、夢は、他人ができそうもないような、言葉にも出したくないような、あたたかな感触をあたえてくれる。それが俺のチカラになるんだ」
「そう・・・
そっか、あたし、ずっと言わなかったけど、むかしはダンサーにあこがれてたんだ。こういう気持ちが夢につながるんだろうな、きっと、あたしにはないものだけど」
「いや、君にも昔はあったんだよ。ただ、ありきたりの現実におりあいつけて、そのままずっと忘れてしまった。それだけさ」
「シビアだね。なんだかあたしらナーバスだ
よ。嫌になっちゃう・・・」
・・・たった一人の肉親はその妹だけだった。
人見知りがはげしく、人あたりのいい女ではないから、禄に働かない俺の分まで働いて、生活費なんかを工面しているのは有り難いが平和ではないだろ。君に迷惑をかけることに肩身の狭い想いをしてる訳じゃないけれど、やっぱり不自然に思うんだ。
君にとって、俺の存在が重荷にでもなれば俺は自分に許せないものを感じるから、君との血縁すらも俺には不要の甘えになる。
だから俺は、行かなきゃならない。
「・・・さっさといきなよ。もう二度と戻ってなんか来んなよバカ。あたしはね、今ある現実の方が大切なんだから」
それが彼女と別れるきわの最後の科白、あまり湿っぽくならないように、なんて無理だった。心はぽっかり風穴あいた。
でも、それでもいいと思ったんだ。
『・・・そうだね』
何も心配はいらないだろう、何も心配はいらないよ。
君は独りで立てるから。
・・・しかし、手をさしのばせば、それは弾けて消えていった。
・・・おもしろい。
自分を極限にまで高めても、到達できない場所はある。夢も半端に狂い死ぬ、そんな人生だってある。
俺は左手を握りしめ、足を大地に踏みしめた。
あてはないさ。
でも、これが始まりなんだ。
俺は、世界に旅立った。
夢はそれほど近くに存在していた。
否、俺自身がそこまで来た。
・・・苦労はするものだ。
だれも味方がいないなら尚更それは必要で、幸福ではいられない日々がつづいたからこそ今の自分が継続する。もちろん、すべてを手に入れた訳ではないから油断はできない。それに、それほどたやすく手に入るとするならば、俺はその夢を捨てるはず。
確実なものには何の興味も感じないのだから。
希望。
ほんのささいな欠片でいい、
俺を支えてくれるものであるならば、と握りしめた手の平を、すりぬけていくいちじんの風・・・
これは俺の言葉ではない。
誰かがつくりだして俺がたまたま知ったよくある格言、そんなもの。だが俺は、手を握るたび、握りしめるたび、こう思う。
太陽はいつも近くにあるものなのだ。
と、
「そうまでしてあんたは・・・わかんないなぁ、あたしには。大事なものって、こんなに簡単にすてられるかなぁ?」
「簡単じゃないよ」
「嘘つき」
「なにも失わないのに手にはいる夢なんて、夢じゃない。俺が追っているのは夢なんだ」「それが何なのかは、まだ言えない?」
「安っぽく人に打ち明けられる夢なんて」
「・・・夢じゃないのよね」
「ああ」
「それじゃァさ、これから。これから何処へいくつもりなの? それくらい教えてよ」
「だめだ、いえない」
「ど・う・し・て」
「君という記憶にすがりたくもないんだ。俺には、大きな夢がある」
「夢にすがる自分は許せるのね」
「すがっているだけじゃないから、夢は、他人ができそうもないような、言葉にも出したくないような、あたたかな感触をあたえてくれる。それが俺のチカラになるんだ」
「そう・・・
そっか、あたし、ずっと言わなかったけど、むかしはダンサーにあこがれてたんだ。こういう気持ちが夢につながるんだろうな、きっと、あたしにはないものだけど」
「いや、君にも昔はあったんだよ。ただ、ありきたりの現実におりあいつけて、そのままずっと忘れてしまった。それだけさ」
「シビアだね。なんだかあたしらナーバスだ
よ。嫌になっちゃう・・・」
・・・たった一人の肉親はその妹だけだった。
人見知りがはげしく、人あたりのいい女ではないから、禄に働かない俺の分まで働いて、生活費なんかを工面しているのは有り難いが平和ではないだろ。君に迷惑をかけることに肩身の狭い想いをしてる訳じゃないけれど、やっぱり不自然に思うんだ。
君にとって、俺の存在が重荷にでもなれば俺は自分に許せないものを感じるから、君との血縁すらも俺には不要の甘えになる。
だから俺は、行かなきゃならない。
「・・・さっさといきなよ。もう二度と戻ってなんか来んなよバカ。あたしはね、今ある現実の方が大切なんだから」
それが彼女と別れるきわの最後の科白、あまり湿っぽくならないように、なんて無理だった。心はぽっかり風穴あいた。
でも、それでもいいと思ったんだ。
『・・・そうだね』
何も心配はいらないだろう、何も心配はいらないよ。
君は独りで立てるから。
・・・しかし、手をさしのばせば、それは弾けて消えていった。
・・・おもしろい。
自分を極限にまで高めても、到達できない場所はある。夢も半端に狂い死ぬ、そんな人生だってある。
俺は左手を握りしめ、足を大地に踏みしめた。
あてはないさ。
でも、これが始まりなんだ。
俺は、世界に旅立った。
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