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第1話 冒険者に…なれませんでした
「残り時間、あと五分でーす」
受付のお姉さんの間延びした声が、死刑宣告に聞こえた。
冒険者ギルドの試験会場。俺の手元にある羊皮紙はいまだに白紙だ。
異世界転移して一時間。最強チートで無双するはずが、なぜか俺は冷や汗を垂らしながら机にかじりついている。
とにかく、もう時間がない。改めて問題用紙に目を通す。
問1
『魔力欠乏症の初期症状と対処法を述べよ』
——知るかボケ。俺は「気合で耐える」と書き殴った。
問2
『野営時に気をつけるべきことを三つ挙げよ』
——熊よけの鈴……くらいしか思いつかん。
問3
『魔力回路の基礎理論について説明せよ』
——マジでなに言ってんだこいつ。
俺はこの世界に来てまだ初日なんだよ! わっかるわけないじゃんね!?
そもそも、なんで俺がこんな目にあってるかっていうと——
◇ ◇ ◇
話は一時間ほど前。
気がついたら俺は、異世界にいた。
多分死んだっぽいが……ま、いいか!
日本に未練とかないし、剣と魔法の世界への憧れは少なからずあったからな。
強い魔物をバッタバッタと倒して「英雄様ァ…!」とか言われてチヤホヤされて、終いにゃお姫様にも惚れられちゃったりして——ウヘヘ、たまんねぇな。
みたいな妄想を膨らませながら、俺はギルドの扉を開け放った。
「新たな伝説の、はじまりだ」とかイカしたキメ台詞まで吐いて。こういうのは最初が肝心だからね!
結果、ギルド内の冒険者たちには盛大にスルーされたわけだが……まあ、それはいい。問題はその後だ。
気になるステータス鑑定の結果は「普通」。レベル1の平均値。ギルド内がざわついて「伝説の勇者の再来か!?」となる予定だったのだが、受付のお姉さんに「強くも弱くもないですねぇ」と一蹴された。世知辛いよね。
ただ、俺には切り札がある。
固有スキル『時間停止』
はっきりとは思い出せないが、転移前に神っぽい奴から「とりあえずチートなのがいい」って選んで貰ったスキルだ。
『時間停止』だぞ? 字面最強じゃんね!? 能力バトルものでもラスボス級が使うやつだ。
だから、これさえあればどんな敵でも余裕だろうと高を括っていたワケだが——
「では、次は筆記試験です」
「……は?」
魔物退治以前の問題でした。
◇ ◇ ◇
「試験の結果が出ました」
答案用紙を回収した受付のお姉さんが、変わらぬ笑顔で戻ってくる。
カウンターにいた時は落ち着いた感じのかわいい雰囲気だった。
ご存知の通り、こういう清楚系、俺けっこう好きなんですよね! たはは。——などと浮ついていたのだが、試験後の今となってはその屈託のない笑顔も恐ろしい。
「タナカ・ユウヤ様、百点満点中……二点ですね」
「に、二点……?」
「はい。ギルド創設以来の最低点となります」
最低点。ギルド創設以来の。
つまり俺、このギルドの歴史上一番バカってことじゃねぇか。まあNo. 1なのは悪い気はしないが……二点ってなんだ。どこで二点取ったんだ俺。名前書いた分か?
「当然、不合格となりますが……ご安心ください!」
受付のお姉さんがにっこり笑って、一枚のパンフレットを差し出してきた。
『ウィステラ冒険者養成所——あなたも一流の冒険者に!』
専門学校の広告かよ。
「皆さんこちらに入られますよ。冒険者を目指すなら一番の近道ですし、おすすめです~」
「養成所……」
「学費の三十万リーフは借金としても記録できますので、今手持ちにお金がなくても大丈夫です♪」
ニコニコ笑顔で地獄への片道切符を渡された。
借金三十万。
なんということでしょう。異世界に来てみたら、開始1時間足らずで多重債務者になっちまいました。チクショウ。
◇ ◇ ◇
ギルド内に併設されている冒険者養成所は、思ってたよりしょぼかった。
講義室に集まった新入生は男が二十人くらい、女は……三人しかいないな。圧倒的に男ばっか。冒険者って過酷な仕事なんだな~って改めて思わされますね。
ふと部屋の隅を見ると、一人の男がしゃがみ込んでいた。
美少女アニメのTシャツにジーンズ——どう見ても中世の服じゃない。しかもなにやら肩を震わせて泣いている。
嫌な予感がしつつも、俺は近づいた。
「おい、お前——」
「ひぐっ……ぐすっ……」
顔を上げた男は、涙と鼻水で顔面ぐちゃぐちゃだった。金髪で端正な顔立ちをしてはいるが、服装はどう見ても現代日本のそれだ。
「……お前、もしかして」
「!」
こっちに気づいた男も立ち上がって——
「「日本人か!?」」
俺たちは同時に叫んでいた。
◇ ◇ ◇
男の名前はタクヤ。俺と同じく今日この世界に転移してきたらしい。
話を聞くと、こいつも筆記試験に落ちてこの養成所送りになったとのことだが——問題は別のところにあった。
「だってよぉ……俺、ファンタジーに憧れてたんだよ……」
タクヤは涙声で語り始めた。
「チートスキルで無双して、可愛い女の子たちにモテモテで、最強の冒険者になって……そういう異世界ライフを夢見てたんだよ……!」
まあ、気持ちはわかる。俺も同じだし。
「なのに現実は何だ!? 筆記試験で落ちて、養成所で勉強させられて、借金三十万リーフ!? 俺の知ってるテンプレと全然違うじゃねぇか!!」
うーん、情緒が不安定! 急に泣き止んで、今度は怒り出したぞこいつ。感情の起伏が激しすぎやしないか?
「それにしても、同郷がいるとは思わなかったな。正直、この世界に英雄は一人でいいと思うが」
「こっちのセリフだ。まさか転移者が2人もいるなんてな」
「で、お前はこういうの詳しいの? 見た感じオタク丸出しの見苦しいバカなんだが……」
「ナメるな小僧。アニメも小説も全て履修済みだ。俺にとってここは庭みたいなもんだな」
ほぉ~ん? ならなんで養成所にいるんですかねえ? ……まあオタクの知識があるのは都合がいいか。正直俺はたまたまやってたアニメを何作か見たことがある程度で、そこまで詳しいわけではない。
「そういえば、お前の固有スキルは何なんだ? ここにくる時にもらったよな?」
「『言語理解』だ」
タクヤの目が、泣き腫らしてるくせにキラッと光った。
「言語理解?」
「異世界のすべての言語が分かるスキルだ。動物とか、魔物とか、そういうのも含めて」
「へぇ、便利そうじゃん!」
「最高の選択だろ? いずれ最強の魔物や精霊なんかも使役できるかもな」
確かにそういう使い方もできるのか。さすがガチオタ、異世界上級者というわけか。だが……
「それならテイム系のスキルでよくないか? なんでまた言語理解なんて回りくどいことを」
「バカがユウヤ、決まっているだろ!?」
タクヤがニヤリと笑った。
「ケモミミ獣人っ娘と、仲良くなるためだろうが!!!」
「……は?」
あまりにトンチキな理由に俺が唖然としていると、
「おいおいマジかユウヤ、お前ってやつは……仕方ないから教えてやろう。異世界には獣人とか亜人とか、そういうのが当然いるだろう? そういう連中は独自の言語を持ってるのがセオリーだ」
「それで?」
「俺をお兄ちゃんと慕う可愛いケモミミっ娘たちが、俺と意思疎通ができないと困ってしまうだろが!! 迷える彼女たちとモフモフいちゃライフを送るためにも、俺には言語理解を取得する義務がある!!」
「お前……」
「これは何よりも難しく、賢い選択だった。まぁ神算鬼謀のタクヤさんと評判の俺には造作もないことだがな」
ドヤ顔で言い放った。
……これ、アカンやつや。こいつの顔からは微塵にも恥の色を感じない。
その時、俺の視界の端に動くものがあった。養成所の新入生らしき犬耳の男が、他の生徒と談笑してる。
「もしかして獣人ってあいつらのことか?」
「そうだ、まさにあれが——」
「え、普通に俺たちの言葉喋ってね?」
タクヤが固まった。
犬耳の男は、それは流暢な人間語でペラペラと喋っていた。独自言語とかそんなもん全然なさそう。
「…………」
タクヤの顔から、音を立てて血の気が引いていく。そして——
「うわあああああああああ!!」
崩れ落ちて号泣。
悲惨だ……目も当てられない。
異世界でのこいつの人生設計が崩壊した瞬間だった。
「……ま、まぁ、ドンマイ。言葉の通じない可愛い悪魔っ娘とかもいるかもしれないじゃん! だろ?」
「……そうだな。そう願うしかない……もう、それしか……」
目から光が消えたタクヤを見て、俺は悟った。
異世界初日にして、俺は頭のおかしな相棒を引き当てたらしい。
受付のお姉さんの間延びした声が、死刑宣告に聞こえた。
冒険者ギルドの試験会場。俺の手元にある羊皮紙はいまだに白紙だ。
異世界転移して一時間。最強チートで無双するはずが、なぜか俺は冷や汗を垂らしながら机にかじりついている。
とにかく、もう時間がない。改めて問題用紙に目を通す。
問1
『魔力欠乏症の初期症状と対処法を述べよ』
——知るかボケ。俺は「気合で耐える」と書き殴った。
問2
『野営時に気をつけるべきことを三つ挙げよ』
——熊よけの鈴……くらいしか思いつかん。
問3
『魔力回路の基礎理論について説明せよ』
——マジでなに言ってんだこいつ。
俺はこの世界に来てまだ初日なんだよ! わっかるわけないじゃんね!?
そもそも、なんで俺がこんな目にあってるかっていうと——
◇ ◇ ◇
話は一時間ほど前。
気がついたら俺は、異世界にいた。
多分死んだっぽいが……ま、いいか!
日本に未練とかないし、剣と魔法の世界への憧れは少なからずあったからな。
強い魔物をバッタバッタと倒して「英雄様ァ…!」とか言われてチヤホヤされて、終いにゃお姫様にも惚れられちゃったりして——ウヘヘ、たまんねぇな。
みたいな妄想を膨らませながら、俺はギルドの扉を開け放った。
「新たな伝説の、はじまりだ」とかイカしたキメ台詞まで吐いて。こういうのは最初が肝心だからね!
結果、ギルド内の冒険者たちには盛大にスルーされたわけだが……まあ、それはいい。問題はその後だ。
気になるステータス鑑定の結果は「普通」。レベル1の平均値。ギルド内がざわついて「伝説の勇者の再来か!?」となる予定だったのだが、受付のお姉さんに「強くも弱くもないですねぇ」と一蹴された。世知辛いよね。
ただ、俺には切り札がある。
固有スキル『時間停止』
はっきりとは思い出せないが、転移前に神っぽい奴から「とりあえずチートなのがいい」って選んで貰ったスキルだ。
『時間停止』だぞ? 字面最強じゃんね!? 能力バトルものでもラスボス級が使うやつだ。
だから、これさえあればどんな敵でも余裕だろうと高を括っていたワケだが——
「では、次は筆記試験です」
「……は?」
魔物退治以前の問題でした。
◇ ◇ ◇
「試験の結果が出ました」
答案用紙を回収した受付のお姉さんが、変わらぬ笑顔で戻ってくる。
カウンターにいた時は落ち着いた感じのかわいい雰囲気だった。
ご存知の通り、こういう清楚系、俺けっこう好きなんですよね! たはは。——などと浮ついていたのだが、試験後の今となってはその屈託のない笑顔も恐ろしい。
「タナカ・ユウヤ様、百点満点中……二点ですね」
「に、二点……?」
「はい。ギルド創設以来の最低点となります」
最低点。ギルド創設以来の。
つまり俺、このギルドの歴史上一番バカってことじゃねぇか。まあNo. 1なのは悪い気はしないが……二点ってなんだ。どこで二点取ったんだ俺。名前書いた分か?
「当然、不合格となりますが……ご安心ください!」
受付のお姉さんがにっこり笑って、一枚のパンフレットを差し出してきた。
『ウィステラ冒険者養成所——あなたも一流の冒険者に!』
専門学校の広告かよ。
「皆さんこちらに入られますよ。冒険者を目指すなら一番の近道ですし、おすすめです~」
「養成所……」
「学費の三十万リーフは借金としても記録できますので、今手持ちにお金がなくても大丈夫です♪」
ニコニコ笑顔で地獄への片道切符を渡された。
借金三十万。
なんということでしょう。異世界に来てみたら、開始1時間足らずで多重債務者になっちまいました。チクショウ。
◇ ◇ ◇
ギルド内に併設されている冒険者養成所は、思ってたよりしょぼかった。
講義室に集まった新入生は男が二十人くらい、女は……三人しかいないな。圧倒的に男ばっか。冒険者って過酷な仕事なんだな~って改めて思わされますね。
ふと部屋の隅を見ると、一人の男がしゃがみ込んでいた。
美少女アニメのTシャツにジーンズ——どう見ても中世の服じゃない。しかもなにやら肩を震わせて泣いている。
嫌な予感がしつつも、俺は近づいた。
「おい、お前——」
「ひぐっ……ぐすっ……」
顔を上げた男は、涙と鼻水で顔面ぐちゃぐちゃだった。金髪で端正な顔立ちをしてはいるが、服装はどう見ても現代日本のそれだ。
「……お前、もしかして」
「!」
こっちに気づいた男も立ち上がって——
「「日本人か!?」」
俺たちは同時に叫んでいた。
◇ ◇ ◇
男の名前はタクヤ。俺と同じく今日この世界に転移してきたらしい。
話を聞くと、こいつも筆記試験に落ちてこの養成所送りになったとのことだが——問題は別のところにあった。
「だってよぉ……俺、ファンタジーに憧れてたんだよ……」
タクヤは涙声で語り始めた。
「チートスキルで無双して、可愛い女の子たちにモテモテで、最強の冒険者になって……そういう異世界ライフを夢見てたんだよ……!」
まあ、気持ちはわかる。俺も同じだし。
「なのに現実は何だ!? 筆記試験で落ちて、養成所で勉強させられて、借金三十万リーフ!? 俺の知ってるテンプレと全然違うじゃねぇか!!」
うーん、情緒が不安定! 急に泣き止んで、今度は怒り出したぞこいつ。感情の起伏が激しすぎやしないか?
「それにしても、同郷がいるとは思わなかったな。正直、この世界に英雄は一人でいいと思うが」
「こっちのセリフだ。まさか転移者が2人もいるなんてな」
「で、お前はこういうの詳しいの? 見た感じオタク丸出しの見苦しいバカなんだが……」
「ナメるな小僧。アニメも小説も全て履修済みだ。俺にとってここは庭みたいなもんだな」
ほぉ~ん? ならなんで養成所にいるんですかねえ? ……まあオタクの知識があるのは都合がいいか。正直俺はたまたまやってたアニメを何作か見たことがある程度で、そこまで詳しいわけではない。
「そういえば、お前の固有スキルは何なんだ? ここにくる時にもらったよな?」
「『言語理解』だ」
タクヤの目が、泣き腫らしてるくせにキラッと光った。
「言語理解?」
「異世界のすべての言語が分かるスキルだ。動物とか、魔物とか、そういうのも含めて」
「へぇ、便利そうじゃん!」
「最高の選択だろ? いずれ最強の魔物や精霊なんかも使役できるかもな」
確かにそういう使い方もできるのか。さすがガチオタ、異世界上級者というわけか。だが……
「それならテイム系のスキルでよくないか? なんでまた言語理解なんて回りくどいことを」
「バカがユウヤ、決まっているだろ!?」
タクヤがニヤリと笑った。
「ケモミミ獣人っ娘と、仲良くなるためだろうが!!!」
「……は?」
あまりにトンチキな理由に俺が唖然としていると、
「おいおいマジかユウヤ、お前ってやつは……仕方ないから教えてやろう。異世界には獣人とか亜人とか、そういうのが当然いるだろう? そういう連中は独自の言語を持ってるのがセオリーだ」
「それで?」
「俺をお兄ちゃんと慕う可愛いケモミミっ娘たちが、俺と意思疎通ができないと困ってしまうだろが!! 迷える彼女たちとモフモフいちゃライフを送るためにも、俺には言語理解を取得する義務がある!!」
「お前……」
「これは何よりも難しく、賢い選択だった。まぁ神算鬼謀のタクヤさんと評判の俺には造作もないことだがな」
ドヤ顔で言い放った。
……これ、アカンやつや。こいつの顔からは微塵にも恥の色を感じない。
その時、俺の視界の端に動くものがあった。養成所の新入生らしき犬耳の男が、他の生徒と談笑してる。
「もしかして獣人ってあいつらのことか?」
「そうだ、まさにあれが——」
「え、普通に俺たちの言葉喋ってね?」
タクヤが固まった。
犬耳の男は、それは流暢な人間語でペラペラと喋っていた。独自言語とかそんなもん全然なさそう。
「…………」
タクヤの顔から、音を立てて血の気が引いていく。そして——
「うわあああああああああ!!」
崩れ落ちて号泣。
悲惨だ……目も当てられない。
異世界でのこいつの人生設計が崩壊した瞬間だった。
「……ま、まぁ、ドンマイ。言葉の通じない可愛い悪魔っ娘とかもいるかもしれないじゃん! だろ?」
「……そうだな。そう願うしかない……もう、それしか……」
目から光が消えたタクヤを見て、俺は悟った。
異世界初日にして、俺は頭のおかしな相棒を引き当てたらしい。
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