異世界きたのに、冒険者試験で詰みました。

アセチルサリチルさん

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第2話 俺の固有スキルはゴミでした

 養成所生活がスタートした。
 教壇に立ってるのは、ゴリラみたいな筋肉隆々の中年男。

「俺がこの養成所の教官を務めるギルドマスターのガロンだ。こう見えても魔法の方が得意でな、お前らには基礎をみっちり叩き込んでやる」

 こう見えても、の部分に説得力がなさすぎる。どっからどう見ても脳筋ゴリラだろ。

 教室を見渡すと、女子三人の中で一人だけ妙に目立つ奴がいた。
 赤髪のポニーテールに、整った顔。そしてなんつーか、周りを見下すようなオーラを放ってる。美人なのは間違いないが……とにかく近寄りがたい雰囲気だ。

「なぁあいつ、なんか偉そうじゃないか?」
「わかる。プライドの権化って顔してるよなあ」

 タクヤと小声で話してると、ガロンが黒板に何か書き始めた。
 魔力循環の方程式。魔法陣の幾何学構造。属性変換の理論式。

 ——数学じゃねぇか。

「くそ、俺文系なんだよ……」
「同感だ……異世界に来てまでなんで数学もどきをやらねばならん……」



  ◇ ◇ ◇


 しばらくして俺たちは、訓練場に移動した。

「では実技に移る。基本魔法のファイヤボールで適性を見てやろう。誰からやる?」

 ガロンの言葉に、俺は手を挙げた。よし、ここで俺の実力を見せつけてやるぜ。

「——見てろよ」

 訓練場の真ん中に立って、右手を前に突き出す。炎よ、俺の手に宿れ——イメージだ、イメージ。

「『ファイヤボール』!」

 ——パチパチ。

 手のひらの上で、百円ライターより酷いしょぼくれた火花が散った。

「クソカスじゃねぇかwww」

 タクヤの容赦ない煽りが突き刺さる。

「うるせぇ!! じゃあお前がやってみろ!!」
「いいだろう、『魔炎の貴公子』と畏れられたこの俺の実力を見せてやる」
「戯言はいいから、さっさとやれ」

 タクヤが自信満々で前に出て、同じように集中して——

「『ファイヤボール』!」

 パチパチ。同レベルのゴミが生成された。

「お前もクソカスじゃねぇかwww」

 今度は俺が煽る番だった。

「ザコ同士、お仲がよろしいようね」

 冷たい声が割り込んできた。振り返ると、さっきの赤髪ポニーテールの女が腕を組んで立ってる。

「見てなさい? 本物の魔法ってものを教えてあげるわ」

 女は優雅に訓練場の真ん中に進んで、詠唱を始めた。

「『炎よ、我が手に集え——』」

 その瞬間、空気が変わった。女の周りに魔力が渦巻いて、気温がグッと上がるのを肌で感じる。これは——本物だ。

「『——灼熱の業火となりて、我が敵を焼き尽くせ』」

 女の手に、太陽みたいな光球が凝縮されていく。
 待て、これファイヤボールの規模じゃねぇだろ。

「『イグニス・インフェルノ』!!」

 轟音。爆風。熱波。
 放たれた炎が訓練場の的を消し飛ばして——ついでに壁も吹っ飛ばした。

「「「…………」」」

 唖然とする俺たちの前で、女は髪をかき上げてドヤ顔を決めた。

「ふふん、どう? 私の実力、わかったかしら?」

「……訓練場の修繕費、弁償な」

 ガロンの冷静な一言が、ドヤ顔を凍りつかせた。

「威力は認めるが、魔力制御ができてない時点でお前もカスの仲間だ。ファイヤボールを撃てと言っただろう。誰が施設を破壊しろと言った。ついでに反省文も書け」
「そ、そんな……」

 さっきまでの偉そうな態度はどこへやら、女は絶望してる。

「プププ。これが"本当の魔法"っスか~? 勉強になりやす!」
「いや~笑いが止まりませんなぁ!愉快爽快痛快欣快!」

 俺とタクヤの煽りに、女が血相変えて振り返った。

「うるさいわね!! あんたたちのクソカスファイヤボールよりマシでしょ!!」
「プ。暴走魔法少女さん……ププ」
「……『炎よ、我が手に集え——』」
「「お、おい待て!!!」」

 キレて詠唱を始めるとは恐れ入った。危うく消し炭にされるところでした。


  ◇ ◇ ◇


 授業が終わって、俺たちは現実的な問題にぶち当たった。

「そういや俺ら、金ないけどどうやって生活すんの?」
「寮の家賃は学費の三十万リーフに含まれてるらしいが……問題は食費だな」

 タクヤと話してると、ガロンが近づいてきた。

「食費は自分で稼げ。訓練生用のクエストがある」
「クエスト?」

 お、ついに冒険者っぽいことでもできるのか?と期待したら——

「雑草抜きにドブさらい、農作業の手伝い等だ。ただし昼間は授業があるから、働けるのは夜間の数時間だけだがな」

 要するにバイトじゃねぇか。

「……なんで俺たち、異世界来てまで苦学生やってんだよ」
「俺の知ってるテンプレとはまるで違うな……」

 こうして俺たちの華々しい異世界生活は、早くも大幅に道を逸れることとなった。


  ◇ ◇ ◇


 一週間後。
 俺は限界だった。

「あーーーーー!! やってられん!!!」

 酒場のテーブルを叩きながら叫んだ。

「毎晩ドブさらいして、朝から授業受けて、それで稼げるのはその日の食費だけ!? 借金1ミリも減ってねぇじゃねえか!!」
「いや、それな……もう体力の限界だ……」

 タクヤも同じくらい疲弊してる。目の下のクマがもう、パンダ。

「こうなったら討伐クエストしかねぇ。俺らでもできそうなのがないか、ゴリラに聞いてみようぜ!」
「初心者用の雑魚と言えばスライムが定番だな!」

 俺たちはガロンのとこに直談判しに行った。

「外壁付近でのスライム狩り? ……まあ、あの辺りなら危なくなっても街に逃げ込めるし、帰還途中の冒険者も多い……お前らみたいな駆け出しのヒヨッ子ちゃんにも丁度いいか」
「「な、なにィ?」」
「いいだろう。許可してやる。ただし無茶はするなよ! 死んでも知らんぞ」

 なんか死亡フラグっぽいこと言われたけど俺たちは気にせず意気揚々と街の外に向かった。


  ◇ ◇ ◇


 外壁出てすぐの草原。ひらいた場所にそいつはいた。

「……なんか、でかくねぇか?」
「……でかいな」

 スライム。
 ゲームとかアニメじゃ雑魚モンスターの代名詞だが、目の前のこいつは想像の五倍くらいデカかった。体長約二メートル。当然、俺たちよりデカい。ぷるぷる蠢く青い塊が、小生意気にも威圧感を放っていやがる。

「おいタクヤ、スライムってあんなんだっけ?」
「俺の知ってるテンプレとは違うが……まあスライムだ。雑魚には変わらんだろ。いくぞ!!」


 ここで、衝撃的なお知らせがあります。

 なんと俺たち——丸腰じゃないっスか!!!

 その事に今さら気付きテンパる俺たち。お茶目だね。

 
 スライムの野郎が何かを吐き出した。

 ブシュウウウウ……!!
 
 それが当たった石がみるみる溶けだす。

「うわっ!汚ねえな、何だコレ……酸か!?」
「やべえぞ!当たったら普通に死ぬんじゃないか!?」

「……ふっ。仕方ねぇ」

 俺は一歩前に出た。

 やれやれ。もうこのスキルの出番か。武器がない今、時間を止めたところでどうしようもなさそうだが……石とかで殴り倒せばいいか? まあ止めてからじっくり考えるとしよう。

「——退がってろ、タクヤ」

 俺は右手を前に突き出した。
 集中しろ。スキルを発動するイメージだ。

「——時よ、止まれ……『時間停止』」

 我ながらカッコいいセリフだ。

 瞬間——
 世界が、静止した。

 風が止まる。草が止まる。空気が止まる。目の前のスライムも、まるでゲームでいうポーズ画面みたいに完全に静止している。

 「すげぇ……本当に止まった」

 これが俺の固有スキル———完全にチートじゃないか!!

 さてと! スライムの愚鈍をいたぶってや……


 ———あれ?


「う…動けんッ! ば…ばかな!?」


 ま…全く体が動かん。1ミリも、ピクリとも。
 
 え? 俺のスキルなのに?

 俺は必死に体を動かそうとした。が、マジで指の一本も動かせない。

 くそ、どうすれば——その時。


「——うおっ!? な、なんだ!?」

 タクヤの間抜け声が聞こえた。

 視界の端に僅かにタクヤが映る。止まっているはずなのに意識がある。ただ、動けてはいない。俺と同じ状況のようだ。

 なんで——そういえば、さっき「退がってろ」と言った時、タクヤの肩を押した気がする。
 よく見えないが、まだ触れている感触は僅かにある。

 もしかして——俺が触れているやつは、我が止まった世界に入門できる……?

「タクヤ! 聞こえるか!」
「ユウヤか? 聞こえるぞ! てか、なんだこれ!? 体が全く動かんぞ!?」
「俺のスキルだ! 時間停止を使ったら、どうやら俺もろとも止まったらしい」
「はぁ!?」

 タクヤが素っ頓狂な声を上げた。

「なんだそのクソスキル!!」
「うるせぇ! 俺も知らなかったんだよ!!」
「時間止めて自分も止まるとかアホなのか? マジで意味ねぇじゃねえか!!」
「仕方ねぇだろ! 俺だって不本意極まりないわボケ!」
「てか、なんで俺は意識があるんだ?」
「お前に触れてるからっぽい。俺が触れてる奴は引き込めるみたいだ。まあ、動けんことに変わりはなさそうだが……」
「まったく、使えんスキルだな!」

 停止した世界の中で、俺たちは不毛な口論を繰り広げた。
 しばらくして、俺は名案を思いついた。

「……とりあえず、お前の『言語理解』試してみろよ。解除したら、あのスライムと話してみてくれ。もしかしたら和解できるかもしれん」
「スライムに知性があるとは思えんが……まあ、試す価値はあるか。外れスキル持ちのクセに機転が効くじゃないか!」

 苛烈にムカつく物言いだが仕方ない。俺は時間停止を解除した。

 
  ————世界が動き出す。


「タクヤ、今だ!」
「おう!」

 タクヤが目を閉じて集中する。言語理解のスキルを発動しているのだろう。

「……聞こえる。あのスライム、なんか言ってるぞ!」
「おおお!! なんだ!? なんて言ってる!?」
「待て、今お前にもかけてやる」

 タクヤのおかげで俺にもスライムの声が———

 《コロス……コロス……ニンゲン……コロス……ナルベク……イタブル……》

「「…………」」

 俺たちは顔を見合わせた。


「……ヘヴィな世界だな」
「ああ……」
「和解は……無理そうだな」
「倒すのも……今の俺らじゃ不可能だろうな」

「「…………」」

「……逃げるか」
「異論ない」

 俺たちは、全力で逃げ出した。

「くっそ! なんでスライムがあんなに凶暴なんだよ!!」
「知らねぇよ!! テンプレ通りにいかんこともあるんだろ!!」
「お前の知識、全くあてになんねぇな!!」
「うるせぇ! お前の時間停止も大概だろうが!!」

 ギャイギャイと文句を言い合いながら、俺たちは街まで走り続けた。



  ◇ ◇ ◇


 養成所に戻った俺たちは、即座にガロンの元へ突撃した。

「おい教官! どういうことだ!!」
「なんだうるせえなお前ら……」
「なんだじゃねぇよ! スライムのやつがバカでかかったんだが!?」
「普通に死にかけたんですけど!? 俺たちを殺す気か!? この鬼が!」

 筋肉ゴリラが珍しく眉をひそめる。

「でかいって、どのくらいだ?」
「二メートルくらいはあったぞ! 人間よりデカいスライムとか聞いてねぇんすけど??」
「しかも酸吐いてきたんですけどォ! 石、溶けてたんですけどォ!」
「やれやれ、ピーピーとうるさいヤツらだな……だが、二メートルか」

 ガロンの表情が変わった。さっきまでの呆れ顔から、真剣な顔に。似合わないから小難しい顔はしないでほしい。

「変異種か。通常のスライムはせいぜいスイカ程度の大きさだ。二メートルなんてのは聞いたことがないな」
「はぁ!? じゃあ俺たち、とんでもねぇのと遭遇したってことか!?」
「そういうことになる。……よく無事だったな、お前ら」

 ガロンが腕を組んで考え込む。

「しかし、外壁付近に変異種が出るとは……調査が必要だな」
「おい、俺たちへの謝罪は!? 危うく死ぬとこだったんだぞ!?」
「死ななかっただろ。それで十分だ」
「「なんだと!?」」

 俺たちが不満たらたらで部屋に戻った後——ガロンは静かに部下を呼んだ。

「外壁付近のスライム生息域を調査しろ。変異種が出たとなると、放置はできん」
「了解しました」
「……あのバカどもには内緒だ。余計なことに首を突っ込まれても困る」

 部下が去った後、ガロンは窓の外を見ながら呟いた。

「バカガキどもめ……まあ、生きて帰ってきただけマシか」

 その口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。

  ◇ ◇ ◇


 翌日。養成所での授業中に、最悪の事態が起きた。
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