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⑯小山数子
しおりを挟む数子は駅へ向かう道中に、見事ナノハナを見つけた。
「よかったぁ~……逢えた~」
ジリジリと寄って来る数子から後退りながら、ナノハナは子供たちを背中に隠す。
「この人……もしかして、さっき話してた……?」
小声で聞いてくるアリサに、小さく頷き返す。
すると、背後にも緊張感が走っていくのがわかった。
「ねぇ、ナノハナくん?今って《巡回》なんだよ?こんな所でなにをしているの?」
変わらずにじり寄る数子に、一定の距離を取るナノハナ。
彼は持っていたリュックを静かに開き、中に忍ばせていたスタンガンに手をかける。
それと同時に、数子はその場に立ち止まった。
「ねぇ?ねぇ?その子達はなに?」
数子に関心を向けられた【陽キャグループ】は身を縮こませた。
咄嗟にナノハナは口を開く。
「この子達は、《巡回》対象の中学生です。俺はこれからこの子達を―」
「クソガキども!ナノハナくんから離れて!」
ナノハナが喋り終わらないうちに、数子が怒鳴った。
突然の怒鳴り声で、その場にいる全員に戦慄が走る。
「あっ、ごめんなさい大きな声出して。でもね、ナノハナくん?その子達には、新型インフルエンザウイルスが入っているのかもしれないのよ?ナノハナくんに伝染ったら大変でしょう?死んじゃうかもしれないのよ?」
「……体調管理くらい自分でちゃんとするので失礼します」
「だめよ。どこにいくの?《巡回》中の外は危険がいっぱいなの。ナノハナくんの家に行きましょう?ジニアくんも待っていてくれているはずよ」
「え……は?」
数子の口からジニアの名前が出たことで、新たに不安が芽生える。
そんなナノハナの心情など知る由もなく数子は言葉を続ける。
「ねぇ?だから早く、そんな子供はほっといて、こっちに来て?ね?」
「……なんにしても俺は、この子達を安全な所まで送り届けなきゃいけないんです」
その言葉を聞いた途端、数子の顔から表情が消え去った。
彼女を刺激しないような言葉選びをしたはずであったが、どれかが数子の地雷を踏んでしまったようだ。
「……なんで?ナノハナくん?なんでよ……わたしはぁぁあぁぁぁ?」
数子が咆哮し、ついに迫ってきた。
「スイセン君!皆を連れて行って!」
ナノハナは叫ぶと、スタンガンを取り出して数子に威嚇する。
バババババと眩い光と共にスパーク音が鳴り響く。
それに怯んだか、迫る数子はナノハナのニメートル手前で立ち止まった。
放電の閃光越しに、青白く照らされた数子が何か口を動かしている。
「あ……驚かしてごめんね?……そうよね……わかってる。ナノハナくんは優しいものね……子供達を優先しちゃうし、迷惑に思っても見捨てられないんだよね?わかってるよ?でも大丈夫だよ。あの子達は私がなんとかするから……もうナノハナくんに迷惑かけないようにさせるから。ね?ちゃんとあの子達からやるから……ね?ナノハナくん。そうすれば心配ないでしょう?ね?……ね?」
放電を止めると、そんな声が聞こえてきた。そして―
カチカチカチカチ
数子は、隠し持っていたカッターナイフを取り出した。
やはり、この女は誰にでも害を及ぼすのだ。
動き出す数子に、ナノハナはすかさずスタンガンを起動させる。
しかし、今度の数子は止まらなかった。
「近づくな!」
数子から距離を取り、スパーク音にかき消されないようナノハナは叫ぶ。
その声が届いたのか、数子はまた止まった。
再び青白く照らされた数子の顔は、悲痛に歪んでいた。
今もなにかを言っているようだったが、スタンガンのスパーク音にかき消されて聞こえない。それでも、もうスタンガンを止めるわけにはいかない。
しかし、鳴り響くスパーク音のなか、だんだん数子の叫びが聞こえてきた。
「なんでよ……なんでそんな事いうの!いつから?……いつからなのよぉっ!」
数子は頭を抱えて苦しみだし、手にしたカッターナイフを乱暴に振り回し始めた。
「あぁあぁぁぁぁああぁ!」
叫び狂いながら刃物を振り回す数子を見て、ナノハナはチャンスだと思った。
数子は今、周りが見えていないようだった。
闘う必要なんて無い。逃げるなら今だ。
ナノハナは数子に注意を向けつつたっぷり五歩後ろに下がると、身を翻し全力疾走で逃げた。駆け出してから三秒後、逃げたナノハナに気付いた数子はもちろん追いかけてきた。だが、足の速さは遅く、その距離の差はだんだん開いていった。
長かった一本道の突き当りまできた。
角を曲がる前に一旦振り返って数子の様子を見る。
随分距離が開いていたようで、もう米粒程の大きさにしか見えない。
数子は、カッターを振り回す事も叫びもしていなかった。
体力が持たないのか減速し、今はほぼ歩いている。
だが、減速をしていてもその足は止まることを知らない。
その姿の中に、どうなろうが追い続けてやるという念が感じられ、ナノハナは恐怖した。そのおぞましき姿の中で、数子の口に動きがあるのを見た。
「ナノハナくん」
鳥肌が立った。
聞こえるわけがないのに、まるで、耳元で囁かれたかのようだった。
この角を曲がって、姿が見えなくなったとしても、きっと数子は名前を呟き続けるのだろう。ナノハナは、得体の知れない絶望感に襲われていた。
もう見ていられない。彼は、再び足を動かした。
突き当りを曲がり、しばらく行くとスイセンと【陽キャグループ】の姿が見えた。
皆が無事で、数子からは何とか逃げられたようで、ひとまず安心する。
しかし、ナノハナには、生まれていたもう一つの不安があった。
自宅に残っている相方、ジニアの事である。
部屋の真ん中で座り込んでいるジニアは、自己嫌悪に陥っていた。
最低だ。自分が助かるために相方の行き先を吐いてしまった。
もし、ナノハナが数子に見つかってしまったら最悪だ。危険だ。
あいつは刃物だって持っている。
ナノハナはスタンガンくらいしか持っていない。
なんにせよ、ナノハナに危険が迫っていることは確実だ。
ジニアは、防犯グッズの詰まったリュックを掴み、家を飛び出した。
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