【完結】聖人君子で有名な王子に脅されている件

綿貫 ぶろみ

文字の大きさ
1 / 52
一章

のびのびスローライフ

しおりを挟む
 時計の音で目を覚ます。深呼吸すると草木のいい匂いが鼻腔を刺激した。やっぱりこの土地は素晴らしいと改めて実感する。

 俺が住んでいるのは村と村の山道の中腹辺りから、少し山奥に入ったところだった。ここでカフェを経営していて、旅人だったり近くの村の人が遊びに来るお店だ。繁盛しているわけではないけど、生活には困っていない。

 朝は起きると、山に木の実や果物を取りに行って、昼はお客さんと雑談して、日が沈む頃に寝るというこれ程までストレスフリーな生活は無いのではないかと思う。街の大通りにお店を開くことが小さい頃の夢だったけれど、俺が悪いので仕方がない。

 俺は保護対象のオメガだからだ。齢15になると病院でバース性の検査をしなければならない。俺は当然ベータだと思っていたが実際のところはオメガだった。本来病院側が政府に届け出を出し、役人が迎えに来る。

 もとい、上級国民と番になり子供を産ませられる。もちろん、幸せになる人もいたがオメガへの差別や偏見からずさんな扱いをする人もいるらしい。俺はそんな生活にはなりたくなかった。

 いつも通っている病院だったため、お医者さんが気づかって政府の目の届かないところに避難することを提案してくれた。俺にはそれに乗る以外の選択肢がなかった。

 それから4年後俺は使っていた家の1階を改築し、カフェにした。憧れだった自分の店をもつ夢を叶えられてこの上ない幸せな生活を送っている。

 
「今日はこの後大雨が降るらしいから、気をつけるんだぞ」

 隣町からわざわざ来てくれている常連のジルさんが窓の外を見ながらそんなことを言っていた。「そうなんですね。ありがとうございます」と言うと、ジルさんは重そうに腰を上げゆっくりと帰って行った。

 それにしても、大雨かぁ、今日は早めに店じまいしておこう。もしかしたら、明日は森に材料を取りに行けないかもしれないな。


 俺が就寝してから暫くして、一階のドアが叩かれていることに気がついた。辺りはすっかり暗くなっていた。眠い目を擦りながら下へと駆け下りる。ドアのガラスには人影が浮かんでいた。

「すみません!開けていただけませんか!」

「は、はい!」

 慌てて鍵を開け、中に招き入れる。やけに身なりのいい男性が入ってきた。服が濡れているところを見ると、大雨に見舞われてしまい休憩できるところを探していたら行き着いたのだろう。

「大丈夫ですか?」

「夜分遅くにすみません」

 イスに座らせ、タオルを渡すと頭をわしゃわしゃと拭き髪をかきあげる。銀色の髪の下からは鮮やかな紫色の瞳が覗いていた。

 はぇぇ。すごいイケメンがいたもんだ。これは女性が放っておかないだろうな

「もしよかったら、泊まっていかれますか?」

「いいんですか!」

「ええ、あ、身分証の掲示はお願いしていますが」

 偶に旅人さんが来るため、泊まれる客室があった。さすがに盗賊などを泊めるのは怖いので念の為に確認させてもらっている。

「あ!はい!」

 カバンの中を漁り、出してもらった身分証に目を通す。目に飛び込んできたのは『ルシアテア王国 第一王子 カイル・ヒルストン』の文字だった。

 え?王子様?え?

「あの、つかぬ事をお聞きしますが王族の方でしょうか?」

「はい。一応そうです」

 王族に一応とかあるのだろうか。王族なんてはじめてお目にかかった。ルシアテア王国では、王族の血を引くアルファが政治の中心となっていた。つまり、将来的に国王になる可能性がある人だということだ。

「なぜ、こんな遅くにこのような辺鄙へんぴな場所にいらっしゃったのでしょうか?」

「ちょっと遠出していて帰ろうと思ったら雨が降ってしまったんです」

「そうでしたか。どうぞ、上の部屋をお使いください」

「ありがとうございます!」

 カイル王子を部屋に案内し、ドアを閉じると部屋から寝息が聞こえてきたため余程疲れていたのだろう。俺も明日は遅いわけじゃない。早く寝よう。

 第一王子であるカイル王子は大変ご聡明な方で心が広いと有名だった。権力に胡座あぐらをかかず、市民との距離感も近いため支持も厚かった。

 何気にこのお店を作ってからアルファのお客さんが来るのは初めてかもしれない。そんなことを思いながら眠りについた。


 これが事の発端だった―
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

追放されたので路地裏で工房を開いたら、お忍びの皇帝陛下に懐かれてしまい、溺愛されています

水凪しおん
BL
「お前は役立たずだ」――。 王立錬金術師工房を理不尽に追放された青年フィオ。彼に残されたのは、物の真の価値を見抜くユニークスキル【神眼鑑定】と、前世で培ったアンティークの修復技術だけだった。 絶望の淵で、彼は王都の片隅に小さな修理屋『時の忘れもの』を開く。忘れられたガラクタに再び命を吹き込む穏やかな日々。そんな彼の前に、ある日、氷のように美しい一人の青年が現れる。 「これを、直してほしい」 レオと名乗る彼が持ち込む品は、なぜか歴史を揺るがすほどの“国宝級”のガラクタばかり。壊れた「物」を通して、少しずつ心を通わせていく二人。しかし、レオが隠し続けたその正体は、フィオの運命を、そして国をも揺るがす、あまりにも大きな秘密だった――。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

異世界転移しましたが、私は当て馬聖女でした 〜本来のヒロイン(美少年)が隣国にやってきたので、物理で更地を作ります〜

南條ゆりか
BL
女子大生の天音は、ゼミ室に向かうエレベーターを降りた瞬間、異世界に転移した。 眩い光が消えたあと、目の前に広がるのは、煌びやかな広間と、イケメンたち。 異世界転生、転移ものを読み漁っている天音は、瞬時に自分に与えられた「聖女」の役割を察するのだが……。 どうやら、この世界はそう一筋縄ではいかないようだ。 作中、ウザイほど()書で注釈が入ります。 コメディとして、流していただけると幸いです。

処理中です...