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一章

可愛い?

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 あまりに遅いので、様子を見に部屋に入る。王子の姿はなかったが俺の布団にくるまっている人が目に入る。

「・・・王子?」

「はい」

「何してるんですか?」

「・・・ちょっと感極まってしまって。嬉しさを体現しています」

「体現ってねぇ・・・ほら、早く帰る準備してください」

 団子と化している王子から布団を剥ぎ取る。なされるがままに殻を失った王子は顔を手で覆い動こうとしなかった。

「何してるんです?」

「恥ずかしい・・・」

 消えかけた声で王子は言った。正直、人のベッドの上で身体を丸めている姿もなかなかだと思うが・・・

「そんなこと言ってないで早く帰る準備してくださいよ。馬車来るんでしょう?」

「・・・そうですけど、今はそれどころじゃないです」

「もう・・・ワガママ言ってないで!」

「・・・ダンが悪いんですよ!急に・・・急に可愛いこというから」

「はぁ?」

「いつもはツンケンしてるのに、急にあんな可愛いこと言うなんてずるいです!」

 ・・・・少し遅れてブラッドとの会話を盗み聞きしていたのだと理解する。顔が熱くなっていくのを感じた。

「なっ!可愛いことなんて言ってないですよ!変なこと言わないでください!」

「だって!僕のこと大事な人って言ったじゃないですか!大事な人って!」

「恥ずかしいので何回も言わないでください!」

 ダンゴムシになっている王子を布団から引っ張りだそうと奮闘していると迎えの馬車が見えた。

「ほら!馬車来ましたよ!とっとと帰ってください!」

「そんなこと僕に言うのダンくらいですよ…ちょっと僕の扱いが雑なんじゃ…」


 ぶつぶつ文句を言う王子を追い出し店を開く。しばらくしてジルさんがやってきた。

「また、王族の馬車が来てなかったか?」

「う・・・」

 さすがにばれてしまったのかと観念する。

「どうやらカイル王子がこのお店を気に入ってくださっているようで定期的に遊びに来てくださるんです」

「へぇ~それはまた、随分大変だな。気に触ることを言ったら打首にでもされそうだ」

 ジルさんは大きく口を開けて「わはは」と笑う。実際簡単に打首に出来るのだろうけどまだ首が繋がっていることには感謝しかない。

「それにしても、王国の方は今大変らしい。なんでも、現国王がそろそろ王位を退くかもしれないと噂が流れたらしく、冷戦状態がついに動き出すかもしれないらしい」

「そうだったんですね」

 そんなこと、初耳だった。街に行かないので他国同士の戦争の話を聞いてもなんとも思わなかったが、今回はそうも行きそうにない。

 いつか終わる関係であっても、大事な人が巻き込まれているのだから。『大事な人』頭の中で復唱してまた、顔を熱くした。
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