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一瞬の出来事
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ソウスケの唇はどこか冷たく、柔らかい感触だった。勢いあまって少し歯が当たったのはこれまた締まりがないが、知ったことではない。とにかく試せることは試してやろう、ということだ。
辺りは無音になり、スローモーションになった気がした。それくらい、私はこのキス一撃に全てを注いだ。自分ではよくわからない陽の気とやらが、ソウスケに移るように祈った。
しっかり彼の唇に押し当てたあと、顔を離す。そこには、目を丸くしているソウスケがいた。止めていた息を再開し一旦酸素を吸う。
「どう!?」
鼻息荒くして聞いた私を見て、驚いた顔をしていた彼はふっと笑いを溢した。
「色気のないキスだな」
「愛のないキスに色気なんかいるもんか!」
「思い切りがいいな。
だが、他人のために思い切れる人間は嫌いじゃない」
そう笑った途端だった。
ソウスケの瞳は金色に光った。
はっと息を飲む。
風も吹いていないのに、彼の髪がなびいた。艶のある黒髪が生きているように動く。
なんて、美しい。
なんて、神々しい。
その金色の瞳は見ている者を魅了した。あまりに幻想的で、現実離れしていて、私は息をするのも忘れる。そして、心の中で確信したのだ。
ああ、この人は本当に神様なんだ、と。
根拠のない答えだが、それでも強い自信があった。金色の瞳が、ソウスケの身に纏う全てが、私の全身を震え上がらせとらえて離さない。金縛りにあったように動けないでいた。
ソウスケが強い視線で男を見た。私もそれを追えば、強盗は銀行員から投げられた鞄を手に取ろうとしている時だった。
ソウスケがそっと腕を伸ばし、指先で円を描くように僅かに動かす。その長い指が綺麗だ、と思った。
「お、お?」
男が声を漏らす。拾おうとした鞄が、なぜかすすすっと一人でに動き離れたのだ。男は反射的にそれを追うように足を運ぶ。鞄に夢中になっていた彼は、ナイフを持つ手が少し緩んでいた。
次の瞬間だった。
店内にとんでもない衝撃と爆音が鳴り響いた。耳が痛くなるほどの音に地響き、突風。その拍子でたくさんの人たちが足をもつらせその場で尻餅をついた。
見えたのは黒いワゴン車だった。丁度強盗がいた場所に向かって狙ったように車が向かってきたのだ。私は両手で口を押さえながらその光景を見ていた。
ワゴン車は入り口のガラスを割って店内に突入してきたのだった。強盗は無論驚いたように動きを止める。その一瞬の隙をついて、いつのまに移動したのかソウスケが少女を素早く掻っ攫った。強盗は人質を奪われたことすら気づいていないほどの、風のような速さに思えた。
ほんの数秒。瞬きする間。
ワゴン車は強盗にぶつかる直前で停止した。強盗は腰が抜けたように床に倒れ込んでいた。
……何が起きた?
それが店内にいる人間全ての心の声だった。
少しの間沈黙が流れるほど、その場にいる人間は混乱していた。
「お、押さえ込め!」
誰かの声が聞こえて、再び男性陣が強盗に向かっていった。ナイフは先程の衝撃でどこかに落としたようだった。素手であれば強盗に勝ち目はない、あれよあれよという間に、今度こそ犯人は床に押し付けられ拘束されたのだ。
慌ただしい中で、ソウスケだけが冷静にそれを見ていた。そして抱き抱えていた女の子をゆっくり母親の元へ連れて行き、そっと手渡した。
母親は少女を抱きしめると、涙を流しながらソウスケに礼を述べた。
「ありがとうございます、ありがとうございます……!」
ソウスケは何も言わずにその親子を見ていた。少女も泣きながら母親にしがみついている。
そして彼は優しく口角を上げた。その光景をみて、ホッと息をつく自分がいる。
辺りは無音になり、スローモーションになった気がした。それくらい、私はこのキス一撃に全てを注いだ。自分ではよくわからない陽の気とやらが、ソウスケに移るように祈った。
しっかり彼の唇に押し当てたあと、顔を離す。そこには、目を丸くしているソウスケがいた。止めていた息を再開し一旦酸素を吸う。
「どう!?」
鼻息荒くして聞いた私を見て、驚いた顔をしていた彼はふっと笑いを溢した。
「色気のないキスだな」
「愛のないキスに色気なんかいるもんか!」
「思い切りがいいな。
だが、他人のために思い切れる人間は嫌いじゃない」
そう笑った途端だった。
ソウスケの瞳は金色に光った。
はっと息を飲む。
風も吹いていないのに、彼の髪がなびいた。艶のある黒髪が生きているように動く。
なんて、美しい。
なんて、神々しい。
その金色の瞳は見ている者を魅了した。あまりに幻想的で、現実離れしていて、私は息をするのも忘れる。そして、心の中で確信したのだ。
ああ、この人は本当に神様なんだ、と。
根拠のない答えだが、それでも強い自信があった。金色の瞳が、ソウスケの身に纏う全てが、私の全身を震え上がらせとらえて離さない。金縛りにあったように動けないでいた。
ソウスケが強い視線で男を見た。私もそれを追えば、強盗は銀行員から投げられた鞄を手に取ろうとしている時だった。
ソウスケがそっと腕を伸ばし、指先で円を描くように僅かに動かす。その長い指が綺麗だ、と思った。
「お、お?」
男が声を漏らす。拾おうとした鞄が、なぜかすすすっと一人でに動き離れたのだ。男は反射的にそれを追うように足を運ぶ。鞄に夢中になっていた彼は、ナイフを持つ手が少し緩んでいた。
次の瞬間だった。
店内にとんでもない衝撃と爆音が鳴り響いた。耳が痛くなるほどの音に地響き、突風。その拍子でたくさんの人たちが足をもつらせその場で尻餅をついた。
見えたのは黒いワゴン車だった。丁度強盗がいた場所に向かって狙ったように車が向かってきたのだ。私は両手で口を押さえながらその光景を見ていた。
ワゴン車は入り口のガラスを割って店内に突入してきたのだった。強盗は無論驚いたように動きを止める。その一瞬の隙をついて、いつのまに移動したのかソウスケが少女を素早く掻っ攫った。強盗は人質を奪われたことすら気づいていないほどの、風のような速さに思えた。
ほんの数秒。瞬きする間。
ワゴン車は強盗にぶつかる直前で停止した。強盗は腰が抜けたように床に倒れ込んでいた。
……何が起きた?
それが店内にいる人間全ての心の声だった。
少しの間沈黙が流れるほど、その場にいる人間は混乱していた。
「お、押さえ込め!」
誰かの声が聞こえて、再び男性陣が強盗に向かっていった。ナイフは先程の衝撃でどこかに落としたようだった。素手であれば強盗に勝ち目はない、あれよあれよという間に、今度こそ犯人は床に押し付けられ拘束されたのだ。
慌ただしい中で、ソウスケだけが冷静にそれを見ていた。そして抱き抱えていた女の子をゆっくり母親の元へ連れて行き、そっと手渡した。
母親は少女を抱きしめると、涙を流しながらソウスケに礼を述べた。
「ありがとうございます、ありがとうございます……!」
ソウスケは何も言わずにその親子を見ていた。少女も泣きながら母親にしがみついている。
そして彼は優しく口角を上げた。その光景をみて、ホッと息をつく自分がいる。
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