完璧からはほど遠い

橘しづき

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勢いとは恐ろしい

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 相変わらず凄い食欲でたくさんの料理を食べつくした成瀬さんと二人、店を出る。もう帰るのかな、と思っていると、彼は買い物を提案してきたのですぐに乗った。普段めんどくさくて出かけることが少ないので、せっかく外に出た日はここぞとばかりに動いておきたいらしい。

 仕事用の靴からプライベートの服まで見て回る。同時に私の服なども一緒に見てくれ、面倒な顔一つせずに似合うと褒めてくれた。特に服なんて欲しいと思っていなかったのだが、そのまま購入してしまった。単純すぎる。

 ゆっくり買い物をし、途中でお茶もし、たっぷり一日堪能した。気が付けば日が落ちてくる空に変わっていた。冬は日が短いことを憎んだ。同じ時刻でも、外が暗くなると帰宅せねば、という気にさせるからだ。

 私たちは両手にいっぱい持った荷物を抱え、ようやく電車に乗り込んだ。

 たくさんの買い物をし、成瀬さんは満足そうにしていた。テーブルをはじめ、欲しいなと思っていたものは大体購入できたらしい。

 やや人が多い電車に揺られ、最寄り駅に到着する。

「いやー買った買った、仕事用のものとかほしかったんだよね。佐伯さんに付き合ってもらってよかった」

「私も買い物してすっきりしました、買い物ってストレス発散になるし」

「あー女の子はそれいうよね」

「成瀬さんは違うんですか?」

「どうだろう。一人で動いて買い物行くのは億劫で仕方ないんだけど、今日は佐伯さんと一緒だったし楽しかった。すっきりした感じあるかも」

 白い歯を出してニコリと笑う。私も笑い返そうとするも、またしても胸の音がうるさくてうまくできなかった。荷物を無駄に持ち直してみたりして平然を装う。

「そういえば佐伯さんの家って知らなかった、こっちだっけ?」

「あ、そうなんです、本当に目と鼻の先なんです」

 駅からしばらく歩いたところで、自分の住むアパートが見えてきた。いつも私ばかり成瀬さんを訪ねているので、自分の家がどこなのか説明する機会がなかった。熱々カレーをそのまま食べられるぐらいの距離なのだ。

 そして、自分の家が見えてきてしまったことに気分が落ちた。そんなこと、これまでの人生で初めてのことだった。ああ、一日が終わる、と思ったのだ。

 これが何を意味しているのか、自分でも気が付いていた。

 絶望の気持ちで見慣れたアパートを見上げる。一歩一歩が憎くて辛い。進むな、足。

 ついの目の前までたどり着き、足を止める。成瀬さんは私の気もしらず、明るく言う。

「本当に近いんだ、すぐそこだ」

「そ、そうなんです、あっという間で」

「おかげで佐伯さんにはお世話になってるから、この偶然に感謝しなきゃ。
 じゃあ、今日はありがとう、おかげでテーブルも買え」

「ゆ、夕飯食べていきませんか!?」

 切り上げようとした成瀬さんに、言葉を被せて言ってしまった。つい口から出てしまった誘いで、言ってしまった後自分でも後悔した。軽率な言葉を言ってしまった。

 さすがの成瀬さんも驚きで目を丸くしていた。私は慌てて説明を足す。

「だ、だって私の部屋のテーブルを選ぶ約束です!」

「そうだったね」

「それに、このまま帰ったら成瀬さん絶対晩御飯食べないでしょう。家で簡単に作るから、食べてってくれれば運ぶ手間も省けますから」

「確かに!」

 尤もらしい理由を並べると彼は素直に納得した。私の言葉の裏にどんな気持ちがあるのかなんて、まるで感づいていない顔だ。成瀬さんはニコニコとして私の誘いに乗った。

「じゃあお言葉に甘えてもいいかな?」

「はい!」

 私は元気よく返事を返し、そのまま二人で中に入った。だが同時に、勢いだけで誘ってしまったものの、部屋の状態は大丈夫だったかと心配になってくる。以前は頻繁に大和が来てたから綺麗にしてたけど、最近はちょっと手を抜いてたけど……!

 しまった、ちゃんと掃除してピカピカにしてから招待した方がよかったのでは!? なんて過ちを犯したんだ自分だ。

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