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光の入らない部屋と笑わない少女
この少女はどこかおかしい
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「黒島さん何か見えますか」
「い、いいえ……何も……」
九条さんが険しい顔で岩田さんを見ている。彼女は未だうめき声をあげて顔を時折振っている。私は焦りながらただ何もいない寝室の部屋を見ていた。
私も九条さんも、全ての霊が見えるわけではない。霊とも相性というものがあるのだ。
だが私も九条さんも二人とも見えないだなんて……
「どうしましょう、一旦岩田さん起こしてあげましょうか」
「……そうですね、現場を見に入ってみましょう」
九条さんがそう決断し立ち上がろうとした瞬間、彼のガラスのような目が丸くなった。画面を注視している。
それに釣られて私も再び画面に目を戻した。
暗視カメラで全体的に暗く見える画面に、一人の人間が映っていた。その人はベッドの傍で、苦しむ岩田さんの顔を覗き込んでいる。
ゾッとする。
今まで見てきた者たちとはまた違った不気味さ。
「……リナちゃん……?」
震える自分の声が口から漏れる。
そこには、自分の母親が苦しむ様子をただ黙って覗き込んでいるリナちゃんがいた。その小さな体を微動だにせず、じっと岩田さんを見つめている。
異常だ。
この子は、何かがおかしい。
いくら精神を病んでいたとしても、母親が隣で苦しんでいるのをただ見ているだけだなんて普通ではない。心配して起こすでもなく、泣くでもなく、あの子はただ岩田さんを観察している。
ぶるると全身が震えたのを両腕で抑えた。暗視カメラのせいで瞳が白く光って見える。それがまた、彼女を不気味に演出する。
「……これは……異様ですね……」
九条さんがポツリと呟く。
「ど、どうしますか、部屋に入りますか?」
隣の九条さんに尋ねる。彼はじっと考えるように画面を見ながら答えた。
「岩田さんには申し訳ないですがこのまま観察しましょう。娘が何か行動を起こすかもしれない」
私は画面を見る。未だ動かないリナちゃんは母親を見さげている。
「や、やっぱりリナちゃんに何か憑いてるんでしょうか……!」
「……その割には、私も黒島さんも彼女に不穏な物は何も感じませんでした。私たち二人とも察知出来ないような相手では、解決は難しくなります。こんな事は初めてです」
珍しく九条さんも少し困ったように頭を掻いた。
確かに、どんな相手か分からないのではその霊の気持ちも理解できるはずがない。私たちのやり方は通用しなくなる。
九条さんは腕を組んで呟く。
「そうなればやはり除霊か……? 除霊して様子をみるか……」
リナちゃんはずっと体制を変えない。岩田さんはずっと唸っている。
悪寒が走りそうなほど異様な光景は、それから20分間続いた。リナちゃんはその間、全く動かなかった。
私と九条さんは言葉を発する事もなく、ただ異常な少女と苦しむ母親を見続けた。
そしてついに。
「……あ、うめき声が止んだ……?」
スピーカーから絶えず聞こえてきた岩田さんの声がピタリと聞こえなくなった。隣の九条さんも頷く。
「体も自由が効くようですね、足が動きました」
長い金縛りはようやく終えたようだった。それと同時に、リナちゃんは垂れていた頭を持ち上げ、静かにベッドへ潜り込んでいく。
まるで何事もなかったかのように再び横になろうとするリナちゃんの背後に、一瞬何かが見えた。
「……あ!」
声を漏らしたのは私だけではなく、九条さんもだった。彼も気づいたらしい。
リナちゃんに重なるようにほんの一瞬だけだが、私はその姿をとらえた。
「黒島さん、見えましたか?」
九条さんは霊そのものは黒いシルエットでしか判別出来ない。霊の姿形をハッキリ認識出来るのは私の特性なのだ。
「……あれ、は……」
私が話そうとした時、画面の中の岩田さんが飛び起きた。ようやく現実へ戻ってこれたらしい。苦しそうに肩で息をしている。
そしてすぐに、隣で眠る娘を見て抱きしめた。相変わらずリナちゃんは反応はない。母親の背に腕を回す事すらしないのだ。
岩田さんはしばらくリナちゃんを抱きしめたあと、こちらを見た。カメラの存在を確かめているようだった。
少し迷った素振りを見せたが結局は彼女は再び横になった。恐らく、私たちの元に来て何が映っていたか聞きたいが、リナちゃんがいるので明日にしようと思ったのだろう。
真っ直ぐ天井を見て臥床しているリナちゃんに寄り添うように、岩田さんは布団に潜り込む。
「……着物を着た女性でした……多分、現代の人ではありません……」
私がポツリと言う。
「私あまりこう、昔の人の霊って見たことなかったです。真っ白な着物を着てました、顔はハッキリは見えなかったけれど……」
「女、ですか……」
「……でも不思議なんです。
あの女の人、全然恐ろしいものに見えない」
素直な感想をぶつけた。一瞬見えた女性は、まるで悪しきものに思えない。むしろどこか優しさと神々しさを感じるほどの存在。
九条さんは頷いた。
「私もそう感じました。悪いものには見えない。ただ、どこかこう……怒りを滲ませているようには思いましたけど」
「何でしょうこの違和感?リナちゃんをあんな風にする霊が悪いものに見えないなんて?無害な霊がリナちゃんをあんな状態にするはずがないですよね?」
「…………」
「何で?リナちゃん、何であんな事になってるの……?」
いっそ悪霊と呼ばれるものが憑いていたら。怒りや苦しみで我を失っている程の悲しい霊が憑いていたら。それなら、全て繋がる気がするのに。
どうしてもさっきの着物の女性が、悪い事をしてるようには見えなかった。彼女は悪しきものじゃあない。それは私と九条さんの意見だ。
だがしかし、リナちゃん自体は恐怖そのもの。あんな異常な子供は見た事がないし、普通じゃないことは明白なのだ。
「……無駄かもしれませんが、明日岩田リナにもう一度話を聞いて見ましょう。今回の件は彼女が鍵になる」
九条さんは、画面の中の二人を鋭く見つめてそう言った。
「い、いいえ……何も……」
九条さんが険しい顔で岩田さんを見ている。彼女は未だうめき声をあげて顔を時折振っている。私は焦りながらただ何もいない寝室の部屋を見ていた。
私も九条さんも、全ての霊が見えるわけではない。霊とも相性というものがあるのだ。
だが私も九条さんも二人とも見えないだなんて……
「どうしましょう、一旦岩田さん起こしてあげましょうか」
「……そうですね、現場を見に入ってみましょう」
九条さんがそう決断し立ち上がろうとした瞬間、彼のガラスのような目が丸くなった。画面を注視している。
それに釣られて私も再び画面に目を戻した。
暗視カメラで全体的に暗く見える画面に、一人の人間が映っていた。その人はベッドの傍で、苦しむ岩田さんの顔を覗き込んでいる。
ゾッとする。
今まで見てきた者たちとはまた違った不気味さ。
「……リナちゃん……?」
震える自分の声が口から漏れる。
そこには、自分の母親が苦しむ様子をただ黙って覗き込んでいるリナちゃんがいた。その小さな体を微動だにせず、じっと岩田さんを見つめている。
異常だ。
この子は、何かがおかしい。
いくら精神を病んでいたとしても、母親が隣で苦しんでいるのをただ見ているだけだなんて普通ではない。心配して起こすでもなく、泣くでもなく、あの子はただ岩田さんを観察している。
ぶるると全身が震えたのを両腕で抑えた。暗視カメラのせいで瞳が白く光って見える。それがまた、彼女を不気味に演出する。
「……これは……異様ですね……」
九条さんがポツリと呟く。
「ど、どうしますか、部屋に入りますか?」
隣の九条さんに尋ねる。彼はじっと考えるように画面を見ながら答えた。
「岩田さんには申し訳ないですがこのまま観察しましょう。娘が何か行動を起こすかもしれない」
私は画面を見る。未だ動かないリナちゃんは母親を見さげている。
「や、やっぱりリナちゃんに何か憑いてるんでしょうか……!」
「……その割には、私も黒島さんも彼女に不穏な物は何も感じませんでした。私たち二人とも察知出来ないような相手では、解決は難しくなります。こんな事は初めてです」
珍しく九条さんも少し困ったように頭を掻いた。
確かに、どんな相手か分からないのではその霊の気持ちも理解できるはずがない。私たちのやり方は通用しなくなる。
九条さんは腕を組んで呟く。
「そうなればやはり除霊か……? 除霊して様子をみるか……」
リナちゃんはずっと体制を変えない。岩田さんはずっと唸っている。
悪寒が走りそうなほど異様な光景は、それから20分間続いた。リナちゃんはその間、全く動かなかった。
私と九条さんは言葉を発する事もなく、ただ異常な少女と苦しむ母親を見続けた。
そしてついに。
「……あ、うめき声が止んだ……?」
スピーカーから絶えず聞こえてきた岩田さんの声がピタリと聞こえなくなった。隣の九条さんも頷く。
「体も自由が効くようですね、足が動きました」
長い金縛りはようやく終えたようだった。それと同時に、リナちゃんは垂れていた頭を持ち上げ、静かにベッドへ潜り込んでいく。
まるで何事もなかったかのように再び横になろうとするリナちゃんの背後に、一瞬何かが見えた。
「……あ!」
声を漏らしたのは私だけではなく、九条さんもだった。彼も気づいたらしい。
リナちゃんに重なるようにほんの一瞬だけだが、私はその姿をとらえた。
「黒島さん、見えましたか?」
九条さんは霊そのものは黒いシルエットでしか判別出来ない。霊の姿形をハッキリ認識出来るのは私の特性なのだ。
「……あれ、は……」
私が話そうとした時、画面の中の岩田さんが飛び起きた。ようやく現実へ戻ってこれたらしい。苦しそうに肩で息をしている。
そしてすぐに、隣で眠る娘を見て抱きしめた。相変わらずリナちゃんは反応はない。母親の背に腕を回す事すらしないのだ。
岩田さんはしばらくリナちゃんを抱きしめたあと、こちらを見た。カメラの存在を確かめているようだった。
少し迷った素振りを見せたが結局は彼女は再び横になった。恐らく、私たちの元に来て何が映っていたか聞きたいが、リナちゃんがいるので明日にしようと思ったのだろう。
真っ直ぐ天井を見て臥床しているリナちゃんに寄り添うように、岩田さんは布団に潜り込む。
「……着物を着た女性でした……多分、現代の人ではありません……」
私がポツリと言う。
「私あまりこう、昔の人の霊って見たことなかったです。真っ白な着物を着てました、顔はハッキリは見えなかったけれど……」
「女、ですか……」
「……でも不思議なんです。
あの女の人、全然恐ろしいものに見えない」
素直な感想をぶつけた。一瞬見えた女性は、まるで悪しきものに思えない。むしろどこか優しさと神々しさを感じるほどの存在。
九条さんは頷いた。
「私もそう感じました。悪いものには見えない。ただ、どこかこう……怒りを滲ませているようには思いましたけど」
「何でしょうこの違和感?リナちゃんをあんな風にする霊が悪いものに見えないなんて?無害な霊がリナちゃんをあんな状態にするはずがないですよね?」
「…………」
「何で?リナちゃん、何であんな事になってるの……?」
いっそ悪霊と呼ばれるものが憑いていたら。怒りや苦しみで我を失っている程の悲しい霊が憑いていたら。それなら、全て繋がる気がするのに。
どうしてもさっきの着物の女性が、悪い事をしてるようには見えなかった。彼女は悪しきものじゃあない。それは私と九条さんの意見だ。
だがしかし、リナちゃん自体は恐怖そのもの。あんな異常な子供は見た事がないし、普通じゃないことは明白なのだ。
「……無駄かもしれませんが、明日岩田リナにもう一度話を聞いて見ましょう。今回の件は彼女が鍵になる」
九条さんは、画面の中の二人を鋭く見つめてそう言った。
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