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光の入らない部屋と笑わない少女
やはり話さない少女
しおりを挟む微妙な空気の中で4人食事を終えると、リナちゃんはまたソファ に腰掛けてテレビを見ていた。
私たちは少し離れたダイニングテーブルに腰掛け、岩田さんが入れてくれたコーヒーを飲みながら昨晩の報告を行った。
九条さんは単刀直入に岩田さんに告げる。
「女性の霊が映りました」
「え!!」
岩田さんが前のめりになる。目を見開いてこちらを見つめた。
「一瞬ですが。姿を認識出来ています」
「じゃ、じゃあそれが原因でリナはああなってるんですね……!? ああ、よかった!」
わあっと岩田さんが喜ぶ。声が大きくなったため、リナちゃんがこちらを振り返った。岩田さんは慌てて声をひそめ、リナちゃんにかすかに笑いかけた後続ける。
「じゃあ、その女の霊を除霊すると言う事ですか?」
「いえ、我々は対象の霊がこの世に残り続ける理由を調べ、その思いに答える事で解決させるのです。ですが、昨日の段階でまずその女性が何を求めているのか分かってません。もう少し調査を続けます」
「はあ……思いに答える、ですか」
「本日も撮影をさせて頂きたい。あと、途中で我々が寝室に入る事になるかと」
「それは構いません。リナが話せるようになるなら……どうぞよろしくお願いします」
テーブルに頭がつきそうなほどお辞儀をした岩田さんに、私も慌てて頭を下げる。
九条さんは一つ頷くと、岩田さんに言う。
「娘さんが鍵になりそうなんです。何でもいいので意思疎通をとりたいのですが」
岩田さんは顔を上げると、困ったようにため息を漏らした。私たちから視線をそらしボソボソと言う。
「あまりあの子を刺激しないでほしいんですが……元々人見知りなので、お二人に怯えていると思いますし……」
「無理なことはさせません」
「無駄だと思いますよ、時々首を振るかどうかで」
「それだけで十分です」
九条さんの有無言わさない言い方に岩田さんは折れた。渋々といった形で頷く。
「決して無理矢理なことはしないでください」
「はい、勿論」
九条さんは短く返事をすると、私を見た。やっぱりリナちゃんとのコミュニケーションは私の仕事らしい。私は立ち上がる。
ポケットから用意しておいた紙達を取り出す。平仮名やカタカナ、顔文字や記号など、色々な物を書いた自作の文字盤だ。リナちゃんが指をさしてくれれば少しは意思疎通が取れる。
私はゆっくりリナちゃんの隣に移動し腰掛けた。やっぱり、何も憑いているようには見えない。
「リナちゃん、あの、今少しいい?」
私が話しかけると、彼女はゆっくりこちらを見上げた。漆黒の瞳に私が映り込む。それだけで、生唾を飲み込んでしまいそうなくらい恐怖を感じた。
……人形みたい。
「あのね、少しお話したいの。見て、ちょっと作ってみたんだ!無理のない範囲でいいから、お返事を聞かせてくれるといいなあ。こうして指さしてさ!」
なるべく明るくつとめて言う。でもリナちゃんは頷かなかった。私は彼女の目の前に、用意しておいた紙を広げる。しかしリナちゃんはちらりとも見てくれなかった。
負けるもんかと、私は話を続ける。
「昨日の夜、お母さんがうなされてたの気づいてた?」
「…………」
「何か見たかな?」
「…………」
「それか、聞こえたとか」
「…………」
彼女は指をさすどころかびくとも動かない。
話題を変えてみよう。私はとにかく二人の距離を縮めるところからチャレンジしてみる。
「えーと、リナちゃん好きな食べ物何かなぁ?」
無言。
「あ、好きなキャラクターとか……」
無音。
「ええと、犬は好き?」
微動だにせず。
いくらか思い当たる質問を投げかけてみたがまるで反応はなかった。昨日少しでも頷いてくれたのって奇跡だったのかな、リナちゃんはただボンヤリと私を見上げているだけだ。
私のやる気と気合はどんどん萎んでいく。自分の声だけが響くリビングの気まずさったらない。かれこれ30分間、私は様々な角度からリナちゃんを攻めたが、どれも無駄に終わってしまう。
とうとう諦めの目で九条さんを見た。彼も仕方ない、というように頷く。その隣でなんだか岩田さんはほっとしたように微笑んだ。
「また、後にしようかな! うん、ありがとうねリナちゃん」
笑って話しかけるがこれもスルー。岩田さんはよく正気でいられるなと思った。返事のない子と部屋に篭りきりだなんて、気がおかしくなりそうだと思う。
やや疲れた足取りで立ち上がり九条さんたちの元へ行くと、彼も立ち上がる。
「とりあえずまた家中を見させて貰います、今後についてももう少し細かく練らねば」
「え、ええ。お好きに見てやってください。あ、お風呂とかも入ってもらって構いませんよ、狭いですが外に出るの面倒でしょう?」
「そうですか、ありがとうございます」
九条さんは軽く頭を下げると、そのままリビングから出て行く。私もフラフラした足取りでその背中を追った。最後にチラリとリナちゃんを見たが、彼女はやっぱりじっとこちらを無言で見つめているだけだった。
九条さんに続いて岩田さん達の寝室へ足を運ぶ。ドアを開けると、無造作にめくれた布団が目に入った。相変わらずダンボールで塞がれた窓。部屋の片隅には録画用のカメラが設置してある。
「……やはり何も感じない」
九条さんは不思議そうに呟いた。部屋中を歩き回り、クローゼットまで開けて見ていたがそこには誰もいない。
それは私も同じ感想だった。光の入らない部屋という不気味はあるものの、他は別段変わりない寝室だ。嫌な感じもない。
九条さんはふうと息を吐いて腕を組み私に言った。
「文字盤作戦はダメみたいですね」
「はい……いま意気消沈してます……」
ぐったりと答えた。あんなに手応えがないなんて。リナちゃんが重要なキーになりそうなのに。
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