視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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目覚めない少女たち

ゲームとは

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 伊藤さんも同じように思っているらしく、どこか嬉しそうに九条さんにいう。

「へえ! いいじゃないですか、最近のゲームはクオリティ高いですしね! 僕も結構やりますよー」

「今までほとんどゲームなどしたことがなかったので、確かにそのクオリティに驚きました」

「睡眠時間を削るほどハマったんですね! どんなやつです?」

 伊藤さんの問いかけに、九条さんはズボンのポケットから携帯を取り出す。私たちは彼の背後に回り、それを覗き込んだ。

 九条さんがハマるゲームってどんなのだろう。有名なパズルゲームとか。あるいはRPGとか。はたまた意外と箱庭ゲームだったり。

 九条さんの背後に立った時、伊藤さんが思い出したように私に聞く。

「光ちゃんは今携帯持ってなかったね」

「はい、解約してしまって……持ってた頃は少しはゲームもしてました」

「そうなんだ! もし契約したら教えてね」

 色々事情があった自分は、携帯電話を解約してしまっていた。この時代携帯一つあればなんでもできる時代だというのに、よく無しで過ごせるなと感心されるだろう。

 ただ連絡を取りたい家族もいないし、友達もいなかった自分にとって優先順位の高いものではないのだ。悲しいことに今現在あまりお金に余裕がない。懐が潤ってからまたゆっくり契約しようかなあ、くらいだ。

 でも、携帯かあ。私はふと心の中で考える。

 それがあれば、九条さんと連絡先を交換したりするだろうか。いや、したところでプライベートな連絡は一切取らないだろうけど、九条さんがどんなメールを打つのかということくらい知ってみたい気もする。絵文字やスタンプ……なんて使わないのかな、使ってたら意外すぎる。

 例えば九条さんがハマっていると言うゲームに誘ってもらって、一緒にプレイしたりできたらもう少し仲良くなれたり……

 そこまで考えてはっと冷静になる。一人恥ずかしくなって顔を伏せた。

 だめだ。完全に彼への恋心を意識してしまった自分は、最近頭の中がこういうことでいっぱいなのだ。そのくせ何度も二人きりで泊まり込みの調査に行っても何も進展はなし。当然と言えば当然だ、彼は私の気持ちに何も気づいていない。

 一人で考えて一人で喜び、一人で落ち込む。友達がいないってこう言う時辛い、相談相手すらいない。

「ああ、これです、このゲーム」

 目の前にいる九条さんがそう言ったので慌てて顔を上げた。伊藤さんと二人ずいっと画面に見入った。

 そこには可愛らしいフォントでこう書かれていた。

『はじめての おみせやさん』

「…………」

 私と伊藤さんの沈黙が流れる。

 九条さんは感心したように言った。

「美容師やケーキ屋だったりの職業体験をするんです。よくできてます」

 それって。

 子供向けじゃあ……

 疑問に思う私のとなりで、こっそり伊藤さんが自分の携帯を取り出していた。どうやら先程のゲームを探しているらしい。そして少し経ってから、九条さんに気づかれないように私に画面を見せた。

 そこにはやはり、『対象年齢3、4、5歳』と書かれていた。

 私と伊藤さんはそっとソファに座った黒髪を見つめる。

「やってきた客の髪を自由にカットしたりできます。どんな髪型にしても喜んで帰っていきます」

 珍しくどこかキラキラしたような目で画面を見つめる九条さんを見て、私と伊藤さんは無言を貫いた。

 ああ、やっぱり。

 私、なんでこんな人好きなんだろう。




 時計を見上げれば、正午を指していた。

 手元の書類をキリのいい所まで読み込むと、一旦持っていたペンを置いた。ちょうどその頃、近くに座っていた伊藤さんも作業を切り上げたようだった。

「ん~昼ですね! さーて食事にしよーっと」

 彼は大きく伸びをした。九条さんは椅子に座って、どうやら例の子供向けゲームをいまだにしているようだった。どこから突っ込んでいいかわからないからもう突っ込まない。

 伊藤さんが立ち上がろうとした時、九条さんが何かを思い出したように顔をあげる。そして私たちに声をかけた。

「伊藤さん、光さん」

「はい?」

「今日お給料日でした。明細そこの引き出しに入ってるから持っていってください」

 その言葉を聞いて、カレンダーを見る。確かに、今日は月に一度の給料日だった。私にとっては、ここにきて初めての日だ。

 伊藤さんがわっと笑顔になる。

「そっか! そうでしたね、忘れちゃいけない日だった」

 ニコニコしながら九条さんに言われた引き出しに手をかけ開ける。そしてそこから封筒に入った明細書を取り出した。

「はい、こっちは光ちゃんの」

「あ、ありがとうございます!」

 人間お金が入る日はびっくりするくらいテンションが上がる。私の心は一気に弾んだ。僅かな貯金を切り崩しての生活だったので、この日を待ち望んでいたのだ。

 欲しいものが山ほどある。とにかく必要最低限の物だけで生活してきたので、これでもう少し身の回りの物が潤うだろうか。

「二人ともお疲れ様でした」

 九条さんは淡々とそれだけ述べると、また携帯に視線を下ろす。私はワクワクを隠しきれずに上がる口角もそのままに封筒を握る。ああ、まず何を買おうかな。次々頭をよぎる妄想に一人微笑む。
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