91 / 450
真夜中に来る女
新たな展開
しおりを挟む「て、手に負えないって……どういうことですか!?」
戸惑ったようなまさこさんの声が背後から聞こえる。九条さんは一旦目を閉じ、ふうとため息をつく。私も平常心を取り戻すために真似して深呼吸した。
九条さんが私の肩から手を下ろす。そしてゆらりと立ち上がった。
「大丈夫ですか光さん」
「な、なんとか……」
九条さんはまさこさんの質問に答えず、再び誰もいなくなったガラス戸を見た。私は近くにおいてあったお茶を一気に飲み干し、九条さんに続き立ち上がる。
夢を見た後のようだ。ふわりと浮遊感を感じる。
「まさこさん。我々の前にもどこかへ依頼したのでは」
突然九条さんがそんなことを言った。驚いて後ろを振り返る。まさこさんと八重さんはお互い支え合うようにして廊下の隅に立っていた。二人とも真っ青な顔をしている。
まさこさんが勢いよく頭を下げた。
「すみません……! それを話しては始めに断られるかもと思って、隠していたんです……」
「やはり。これだけ強烈な物が毎日来ているというのに、二週間以上放置とは考えにくい。警察に相談後、どこかへ除霊を依頼したんですね?」
「おっしゃる通りです……。その方も、あの女を見た途端無理だとおっしゃって、他を当たるように言われたのです……」
そういうことか。私は納得する。他の誰かも匙を投げたほどのものということか。
九条さんはふうと息をついて聞く。
「その者の名前は」
まさこさんが男性の名前を告げた。私はまるで聞いたことのない名前だったが、九条さんは知っていたらしい。少し驚いたように目を見開くのを見逃さなかった。
「九条さん、知ってるんですか?」
「そこそこ有能な人ですよ。同業者ですから名前くらいは知っています。なるほど、あの彼が無理と断言したものとは……とんでもないものですね」
考え込むように腕を組む。私たちの元へ八重さんが駆け寄って頭を下げる。
「あの、お願いします、どうにかなりませんか……!」
「無理です」
キッパリと九条さんは断言する。
「我々のやり方は浄霊です。つまりは霊がこの世に残した未練を探していく。私は霊と会話することが特技で、今までも数多くの霊の気持ちを聞いてきました。
ですが今回の場合は訳が違う。あれはこの世に未練があるから残っているものではない。恐らく私が話しかけても会話は成立する代物ではありません」
「あ、あの、引っ越せばどうにかなるとか……」
「そう言った問題ではないと思います。あれほど毎日訪れてるのです、あなた方によほど執着していると言えます。それより女が現れる二週間ほど前に、何か変わったことはありませんでしたか。あんなもの、道端で拾ってくることはありえませんよ。例えば心霊スポットに行ったとか、何か新しい物を買った、拾ったとか」
九条さんの言葉に、二人は顔を見合わせた。しばらく考え込むように黙るも、特に思い当たらないようで首を振る。まさこさんは困ったように答えた。
「何も思いつきません、本当に突然始まったんです」
今度は九条さんが考え込むようにして黙る。私たちはじっとその光景を見守り、彼の言葉を待った。そしてしばらく経って九条さんが出した言葉は残酷なものだった。
「酷なことを言いますが。
このままでは命も脅かすほどのものだと私は考えています」
ひっと声を上げて八重さんが固まる。まさこさんはただ唖然としていた。普段から気遣いもない九条さんだが、今回はそれをフォローする気にはなれなかった。今は遠回しに話している場合ではない。私ですらそう思うのだ。
もう誰もいなくなったガラス戸を見つめる。そう、私ですらあれは人に危害を及ぼすヤバいものだとわかる。今でも治らない鳥肌をそっとさすった。あんな感覚、初めてだった。
まさこさんが九条さんに縋りついた。
「おね、お願いします、八重だけでもなんとか助けてくださいませんか……! お金はどうにでもしますから! 娘だけでも!」
「大川さん」
「八重は結婚が決まったばかりで今幸せの絶頂にいるはずなんです……! なんとか、どうかお願いします!」
まさこさんは目を真っ赤にさせながら何度も何度も頭を下げた。その必死な光景に心が痛む。母が娘を思う気持ちはよくわかる。それに八重さん、結婚するんだ……。そんな大事な時期にこんなことになるだなんて、なんて不運なんだろう。
九条さんはまさこさんの肩に手を置いた。
「落ち着いてください、話はまだ終わっていません」
「え……?」
「まさか私もあなた方の命も危ういと分かって放り出す真似はできませんよ」
真剣な眼差しだった。私たちはほっとする。ううん、わかってた、九条さんはこんな中途半端な状態で放棄なんかするはずない。
同時に不安が押し寄せる。では一体どうするつもりだと言うのか。
「九条さん? でもどうするんですか、あれは私たちに手にはとても……」
「一人、あれに立ち向かえそうな人物を知っています」
大川さんたちが顔を上げる。私も驚きで言葉を飲む。
「同業者の知り合いはそこそこいます。その中で、私が知る上で除霊の能力は右に出るものはいないと思えるほどの人物がいます。その人に依頼をしましょう」
「除霊師にお願いするってことですか?」
目を丸くして聞き返した。今まで仕事を他の人に回した経験などないからだ。九条さんは頷いた。
「我々の業界では言わずと知れた人物です。ですが力の強い霊ばかり相手するので体力もかなり消耗するらしく、月に一、二しか依頼を受けないのですがね。力は保証します」
まさこさんの顔色が変わる。希望を見つけたような顔で私たちに言う。
「そ、そのかたを紹介していただけるのですか!?」
「そのかわり料金も跳ね上がりますよ。今回は私たちには支払いは求めませんからその人への支払いのみにしますが、それでもかなりの出費かと」
「いいです、お金はなんとかします……どうかよろしくお願いします!」
まさこさんはもはや拝むようにして九条さんにお礼を言った。後ろにいた八重さんも顔を真っ赤にさせながら頭を下げている。私もほっと安堵した。とりあえず希望は一つできたわけだけど……
小声で尋ねる。
「でも、月に一、二しか仕事を受けないような方、受けてくれますかね……?」
「私が依頼すれば恐らくいけます」
「そうか、ならよか……ん?」
私が依頼すれば? それって、九条さんと仕事以外でも面識があるということなのだろうか。仲のいい友人とか?
頭に疑問がよぎったが、この状況でそれは大したことでないと思った。私はすぐに引き下がる。
48
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。