視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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真夜中に来る女

ついた場所は

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 後部座席から麗香さんがひょいっと顔を覗かせる。

「動いてるのね相手?」

「行き先はどこでしょうね。こちらもすぐに追い付かねば」

「こんな真夜中に近くのコンビニでもなければ行く用事なんてそうそうないわよね。ビンゴかしら」

「…………あの」

 黙っていた八重さんが小さな声を漏らす。彼女は俯いたまま小声で言った。

「誰、なんですか、私に呪詛を掛けている人って」

「……証拠はないです、空振りに終わる可能性もありますから。真夜中のドライブとでも思っていてください」

 九条さんはあくまでも今誰を追っているのかは言わなかった。八重さんもそれ以上は追求しない。

 まさこさんが必死に八重さんの肩を抱いていた。

 麗香さんはふうと息を吐いて背もたれにもたれる。再び気まずい沈黙が流れ出した。こんな時に場を和ませる言葉ひとつ言えるわけもなく、私もただ黙って流れに身を任せる。

 車は畦道をどんどん進んでいった。真っ暗な空間の中に時折浮かび上がる対向車のライトが眩しい。舗装されて長く時間が経った道は白線も所々消えていて凸凹していた。

 ホルダーに装着された携帯をチラリと覗き込むと、赤い点はどうやら移動をやめたらしかった。一箇所に止まっている。九条さんもそれに気づいているのか、一瞬だけチラリとそれを見た。決してコンビニや誰かの家に駐車している様子ではない。

(ここ、って……)

「相手は止まったようですね。この場所ならここから十分程度でしょうか。我々も急がねば」

 九条さんはそう淡々というと、急がねばといいつつもスピードは決してあげないままアクセルを踏み続けていた。





 真っ暗な道を通り続け、左右には木々が生い茂っていた。車がすれ違うほどの広さもない狭い道だ。舗装も何もされておらずタイヤが回るたび体が跳ねた。

 周りには車一台すら見ることのない朽ちた道だ。

 道とも呼べそうにない道を通って大丈夫なんだろうか、と不安に思いつつも言葉に出すことなんてできず、ただ黙って身を任せていた頃、九条さんがゆっくり車を停車させた。ふと地図を見ると、もう目的の相手はすぐ目の前にいるようだった。

 目を凝らしてみると、やや離れた前方に車が一台停まっているのが見えた。周りは真っ暗でどんな車かはよく見えない。ただ、エンジンは止まっているようだった。

「あまり近づきすぎて感づかれても困るので。この辺にしておきましょう」

 私は窓の外を眺める。辺りはただ木、木、木。木が生い茂っているだけの場所だ。こんな場所で?

 九条さんがシートベルトを外したので私もそれに従う。振り返ってみると、八重さんが小さくなって座っていた。唇をわずかに開き、苦しそうにも見えた。

「八重さん、大丈夫ですか……?」

 私が声をかける。彼女は一度頷くとシートベルトを外した。

「大丈夫、です。私も行きますから……」

 その言葉を合図に私と麗香さんが動き出す。九条さんがガチャリと車のドアを開けた瞬間、突然うっと八重さんが両手で口を押さえた。麗香さんが慌ててその背中をさする。

「大丈夫?」

「ごめんなさ……気持ち、悪くて」

「女の気がえげつないほど強くなってる。あなたに現場はキツすぎるかも。まさこさんと待ってる?」

「え、でも……」

 麗香さんは自身の胸ポケットから例のコンパクトミラーを取り出した。それを開き、八重さんに握らせる。

「いい? この鏡を離さずに持ってて。もし女が来たら鏡を女に向けるのよ。そしたら絶対近寄って来れないはずだから。一応この車にも壁を作っておくわ。まさこさんも見守っててあげて」

「は、はいわかりました……」

「少しの間耐えるのよ」

 八重さんはミラーをしっかり胸に抱いて頷いた。私はそれを見届けて車から降りる。靴から土と石の感覚が伝わってきた。辺りは方向もわからなくなるほどの木々しか見えず、不気味さにすでに音を上げてしまいそうになる。

 慌てて九条さんの元へ駆け寄る。彼はトランクから懐中電灯を取り出して私と麗香さんに手渡した。しかしすぐに困ったように眉を下げる。

「車の場所は追えましたが肝心の本人はどこに。この樹海をむやみに歩き回るわけにも」

 樹海、という単語を聞いて背筋に寒気が走った。

「じゅじゅ、樹海ですか……自殺者とかよく出る……」

「ええ、しかもちゃんとした入口ではないところですね。探してる最中首吊りなどを見つけなければいいですが」

「本気で笑えないんでやめてください……」

 懐中電灯を持つ手が震える。しかし、隣に立つ麗香さんは堂々とした佇まいで言った。

「どこにいるかはわかる」

「え」

「ここが呪詛を掛けている場所でビンゴよ。女の嫌な気がとんでもないから。この気を追えばすぐに辿り着けるわ。着いてきて」

 そういうと麗香さんはくるりと踵を返して躊躇いなく木々たちの中へ足を踏み出した。私と九条さんもそれに続いていく。急いで手元の懐中電灯をつけた。
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