視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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オフィスに潜む狂気

小話6

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「ううん……まだ熱いなぁ」

 私はベッドの中で丸くなりながら一人呟いた。

 昨日仕事を上がる頃、熱っぽいことに気がついた。慌てて薬局で体温計を購入、やはり熱があった。

 幸い今依頼は来ておらず、穏やかな毎日だったので今日は仕事をお休み頂いていた。一人ベッドで寝転がりながら熱と闘っている。

 症状は熱、少しの咳、倦怠感。やっぱり何より体が重くて動くのが辛い。

「はあ……昨日もうちょっと薬局で買い物してくればよかった」

 一人後悔する。料理はしなくて済むように冷凍パスタとかうどんとか買ってきたけど、今は全然食欲がない。もっとゼリーとかそういうの買うべきだった、やらかした。

 久しぶりに熱なんか出したなあ。前はお母さんがいてくれたけど、一人ってなんだか寂しい。

 ぼんやりとテレビから流れてくるバラエティを眺めていた。特に面白くもないけど、友達もいない自分はそれくらいしか寂しさを紛らわす方法がない。……自分で言ってて悲しすぎる。

 そうため息をついた時だった。

 枕元に置いてあるスマホが鳴ったのだ。ほとんど鳴ることのない可哀想なスマホなのだが。

 そろそろと手を伸ばし取ってみるとメッセージが届いていた。伊藤さんからだった。



『具合大丈夫?
 無理せずゆっくり寝るんだよ~
 ドアノブに差し入れ置いといたから取ってね!』



「……えっ!!」

 読み終えた自分は慌てて起き上がった。だるさも無視して玄関へたどり着きドアを開くと、確かにドアノブに白いビニール袋がかかっていたのだ。

「……神よ……」

 いけない、なんか宗教ぽいこと言っちゃった。だってこんなの凄すぎる。私は感激で言葉も出なかった。

 訪問せず差し入れだけ置いていくという心遣い。インターホン鳴らされてもすっぴんぼろぼろだから会うの気まずいもんね。

 袋を持って部屋に戻る。サラリと中身を見ると、飲み物やゼリー、レトルトのおかゆなどたっぷり入っていた。

「ああ……! もうほんとありがとうございます伊藤さん!」

 私はすぐに返信した。


『伊藤さん、凄く助かりました!
 ありがとうございます。
 今度お金払いますね、必ず!』


『よかった、おせっかいでごめんね。
 あとお金は九条さんが払ってくれたから』


 すぐに来た返信を見て驚く。え、と心臓が鳴った。九条さんも、いたの??

 普段事務所でソファに寝てばかりいる姿が思い浮かぶ。


『九条さんが買ってくださったんですか?』


『僕が光ちゃんのところに差し入れに行くって言ったら、私も行きますってついてきたよ。袋の下らへんが証拠!』


 急いでビニールをひっくり返した。風邪薬やスポーツ飲料の中に、ひとつだけ見慣れたパッケージがあった。

 ポッキーだった。

「……あはっ、お見舞い品ポッキーって!」

 溢れ出る笑いが止まらない。もう期待を裏切らなすぎる。面白すぎ。

 ひとしきり笑った後、一人微笑んだ。たくさんのお見舞い品を見渡し心が温かくなる。

 寂しくないや。私、今十分素敵な人たちに囲まれてる。早く治して、あの人たちに会いに行かなくちゃ。

 私は意味もなく、その差し入れたちを写真に撮ってしまった。何を撮ってるんだろう私は。でもいいよね、記念にね。








「……なんですかそれは九条さん」

 伊藤陽太が唖然とした様子で尋ねた。
 
 彼の前には買い物カゴを持った九条氏がいた。体調を崩した同僚のため差し入れを買いに来た二人だが、九条氏はカゴを持つと同時に一直線にある売り場へと足を運んだ。

 それはもう説明するまでもないが、お菓子売り場だった。

 整った顔立ちに買い物カゴはやけに目立ち、周りの視線が集まる。それを気にすることもなく彼は言った。

「光さんへの差し入れを買いに来たんですよね?」

「目的を覚えててくださってよかったです」

「なので差し入れを」

「いやいやいや! 熱ある人に山盛りポッキーいりませんて! チョコレート菓子も!!」

 伊藤の悲痛な声が響いた。九条氏の持つカゴの中には多種類のポッキーたちと、さらには山のような甘味ばかり入っている。

「ああ、光さんたけのこ派ですかね」

「そうじゃなくて! 普通熱ある時は甘いものでもプリンとかゼリーとかアイスとか口当たりいいものでしょ!」

「そうですか? ポッキーは調理要らず洗い物いらず手も汚れずで最適かと思ったんですが」

「それにしても量が多すぎですから! こんなにいりませんって!!」

 伊藤はカゴから棚にポッキーを戻していく。九条氏は不思議そうに首を傾げてその光景を見ていた。

 伊藤は呆れて眉を下げた。ほんとこの人ズレすぎ。まあ、自分が好きなものを相手に贈りたくなる気持ちは分かるけどさ……。

 九条氏は素直に従って伊藤の指示通り買い物を続けた。彼はあまり体調を崩した経験もなく、一般的な感覚がだいぶズレているのだ。

 逆に伊藤陽太のチョイスは見事だった。彼ほど気の利く男性も中々いない。正反対な二人はそのまま買い物を続けた。

「さーこんなもんですかね、行きましょうか」

 一通り買い物を済ませ、伊藤たちはレジに並んだ。レジ打ちをしているパートの女性が一瞬九条氏に見惚れていた。顔だけは完璧なのがこの男だ。

 さてそろそろ合計金額が出そうになり、伊藤が財布をポケットから取り出そうとした時だった。隣からすっとクレジットカードが置かれた。

 伊藤は横にいる九条氏を見る。当の本人は何も言わずぼうっとしていた。

……まあ、なんていうか。普段めんどくさがりで自分の食事もまともにできないのに、誰かのために差し入れを買いに来るんだから。こういうとこ九条さんはちゃんとしてるし、憎めないんだなぁ。

 伊藤は一人笑った。





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