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聞こえない声
結果
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「彼が初めて依頼に来たとき、うちの事務所のやり方、つまりは除霊ではなく浄霊だと説明をした時、彼は乗り気ではなかったんです。早く解決させたかったんでしょうね。ですが光さんが入ってきた直後、突然調査を依頼する方向に変わっていたので」
「そ、そうだったんですか……」
「この無謀とも言える調査の続行を決意したのも、あなたとの接点がなくなるからでは」
(それ本人も言ってたなあ……)
「薄々勘づいてましたが、なるほど、昨日コンビニに行った時ですね」
これは単純な疑問なのだが、どうして他人のことに関してはこんなに洞察力もあって鋭いんだろうか? 私が抱いてる片想いにも多少は気づいてほしいんですけど。
唖然としている私に、九条さんはまっすぐ正面から見つめる。つい背筋を伸ばしてしまうほどの視線だった。彼からどんな言葉が出てくるんだろう、『依頼主と親密な関係になるのは望ましくない』ぐらいでいいから言ってくれないだろうか。深い意味がなくてもいいから。
そしたら、私は素直に……
「別にいいですよ」
普段のトーンと全く同じで、九条さんの口から出てきた言葉はそれだった。
私はただ彼を見たまま停止した。電源を突然抜かれたようだった。
「! く、九条さん!」
慌てたように立ち上がる伊藤さんのことも気にせず、彼は続ける。
「別に依頼人とそういう関係になってはいけないという決まりはありません。まあ調査に私情を挟むのはよくありませんからそこだけ気をつけてくれれば」
「…………はい」
「あとは個人の気持ちですから。交際しても大丈夫ですよ」
彼はそう短く言うと、そばに置いてあったペットボトルを持って水を飲んだ。
そう言われるだろうなあって、分かってた。
やっぱりどう考えても九条さんが私を意識してくれてることなんてないし。
これはかなりのダメージだ。
完全に、振られた。
「あ! えーと、く、九条さん、この人の名前なんですけどー」
私の気持ちを知っているであろう伊藤さんが、困ったように声をかけている。流石に伊藤さんもフォローしきれない展開だ。それでも彼の優しさはありがたい。
私はゆっくり微笑んで頷いた。
「分かりました。それについては一人で考えてみます」
「はい」
「すみません、今日寝坊したから朝ごはん食べれてなくて。コンビニ走ってきてもいいですか?」
「ええどうぞ」
私は自分でも驚くほど冷静に言って立ち上がった。鞄を手にし、しっかりとした足取りで歩く。
多分、覚悟してたんだ。こうなることを。
ショックでたまらないけど、でも受け入れられる。
事務所を一旦出てエレベーターへ向かった。頭の中はただぼうっとしていて、涙すら出てこない。廊下をまっすぐ歩いていると、背後から伊藤さんの声が響いた。
「光ちゃん!」
足を止めて振り返った。慌てた様子の伊藤さんがこちらに駆けてくるのが見える。私は力なく微笑んで彼を見た。
「伊藤さん」
私の目の前にきた伊藤さんは、困ったように視線をおとしてやたら瞬きを繰り返す。どうフォローしていいのか必死になって考えているのがよくわかった。そんな様子を見て苦笑いをする。
「ありがとうございます、大丈夫ですよ」
「いや、あのさ。僕この前、他の人も見てみたらって言ったけど。言ったけど、まさかこうなるとは思ってなかったっていうかこういう意味じゃないっていうか、うーん」
珍しく歯切れが悪くしどろもどろな伊藤さんに少しだけ笑う。伊藤さんにまで気遣わせてしまった、本当申し訳ない。
「大丈夫です、こう言われるだろうなってわかってたから」
「いやでも」
「いい加減諦めろって神様が言ってるんでしょうね。そう簡単には切り替えられないですけど、でも平気です。心配いらないですよ」
私は頭を下げる。再びエレベーターに向かおうとした私を、伊藤さんが止めた。
「付き合うの? 菊池さん」
足を止めて振り返る。伊藤さんの真剣な顔が目に入った。小さく首を傾げて悩む。
「まだ考えてません。これからゆっくり答えを出します」
「……そう」
「心配してくれてありがとうございます、伊藤さんはやっぱり優しいですね」
いつものようにおどけて拝んでみたけど、今日は彼は笑わなかった。なんとなく気まずい雰囲気のまま、私はこれ以上何を言えるわけでもなく、そのままエレベーターへ向かって乗り込んだ。
「そ、そうだったんですか……」
「この無謀とも言える調査の続行を決意したのも、あなたとの接点がなくなるからでは」
(それ本人も言ってたなあ……)
「薄々勘づいてましたが、なるほど、昨日コンビニに行った時ですね」
これは単純な疑問なのだが、どうして他人のことに関してはこんなに洞察力もあって鋭いんだろうか? 私が抱いてる片想いにも多少は気づいてほしいんですけど。
唖然としている私に、九条さんはまっすぐ正面から見つめる。つい背筋を伸ばしてしまうほどの視線だった。彼からどんな言葉が出てくるんだろう、『依頼主と親密な関係になるのは望ましくない』ぐらいでいいから言ってくれないだろうか。深い意味がなくてもいいから。
そしたら、私は素直に……
「別にいいですよ」
普段のトーンと全く同じで、九条さんの口から出てきた言葉はそれだった。
私はただ彼を見たまま停止した。電源を突然抜かれたようだった。
「! く、九条さん!」
慌てたように立ち上がる伊藤さんのことも気にせず、彼は続ける。
「別に依頼人とそういう関係になってはいけないという決まりはありません。まあ調査に私情を挟むのはよくありませんからそこだけ気をつけてくれれば」
「…………はい」
「あとは個人の気持ちですから。交際しても大丈夫ですよ」
彼はそう短く言うと、そばに置いてあったペットボトルを持って水を飲んだ。
そう言われるだろうなあって、分かってた。
やっぱりどう考えても九条さんが私を意識してくれてることなんてないし。
これはかなりのダメージだ。
完全に、振られた。
「あ! えーと、く、九条さん、この人の名前なんですけどー」
私の気持ちを知っているであろう伊藤さんが、困ったように声をかけている。流石に伊藤さんもフォローしきれない展開だ。それでも彼の優しさはありがたい。
私はゆっくり微笑んで頷いた。
「分かりました。それについては一人で考えてみます」
「はい」
「すみません、今日寝坊したから朝ごはん食べれてなくて。コンビニ走ってきてもいいですか?」
「ええどうぞ」
私は自分でも驚くほど冷静に言って立ち上がった。鞄を手にし、しっかりとした足取りで歩く。
多分、覚悟してたんだ。こうなることを。
ショックでたまらないけど、でも受け入れられる。
事務所を一旦出てエレベーターへ向かった。頭の中はただぼうっとしていて、涙すら出てこない。廊下をまっすぐ歩いていると、背後から伊藤さんの声が響いた。
「光ちゃん!」
足を止めて振り返った。慌てた様子の伊藤さんがこちらに駆けてくるのが見える。私は力なく微笑んで彼を見た。
「伊藤さん」
私の目の前にきた伊藤さんは、困ったように視線をおとしてやたら瞬きを繰り返す。どうフォローしていいのか必死になって考えているのがよくわかった。そんな様子を見て苦笑いをする。
「ありがとうございます、大丈夫ですよ」
「いや、あのさ。僕この前、他の人も見てみたらって言ったけど。言ったけど、まさかこうなるとは思ってなかったっていうかこういう意味じゃないっていうか、うーん」
珍しく歯切れが悪くしどろもどろな伊藤さんに少しだけ笑う。伊藤さんにまで気遣わせてしまった、本当申し訳ない。
「大丈夫です、こう言われるだろうなってわかってたから」
「いやでも」
「いい加減諦めろって神様が言ってるんでしょうね。そう簡単には切り替えられないですけど、でも平気です。心配いらないですよ」
私は頭を下げる。再びエレベーターに向かおうとした私を、伊藤さんが止めた。
「付き合うの? 菊池さん」
足を止めて振り返る。伊藤さんの真剣な顔が目に入った。小さく首を傾げて悩む。
「まだ考えてません。これからゆっくり答えを出します」
「……そう」
「心配してくれてありがとうございます、伊藤さんはやっぱり優しいですね」
いつものようにおどけて拝んでみたけど、今日は彼は笑わなかった。なんとなく気まずい雰囲気のまま、私はこれ以上何を言えるわけでもなく、そのままエレベーターへ向かって乗り込んだ。
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