289 / 450
待ち合わせ
見てみてよ
しおりを挟む
スピーカーから無機質な声が溢れた。それと同時に、真琴ちゃんの目から涙が出てくる。私はその映像が恐ろしいものというより、ただ悲しいものにしか見えず、ぐっと胸が苦しくなった。
こんな小さな子が突然命を奪われて、何か罪悪感を感じてお母さんに会えないでいる。十五年も一人きりで隠れ、孤独を感じている。
お母さんに会いたいはずなのに、一体何がこの子をそんなに追い詰めているのか。
あの子を、救ってあげたいのに。
「あなたはなぜお母さんに会えないと言ったのですか。お母さんはあなたを探していますよ。きっと何も怒っていません」
九条さんが早口で伝える。だが、スピーカーからまた声が漏れた。
『お・こ・って・る』
切ない響きだった。私は我慢し切れず、目に涙を浮かべながら叫んだ。
「怒ってないよ! お母さんだもん、子供が一番大事なんだよ。会えたら喜んでくれるよ!」
自分の母親の顔を思い浮かべる。いつでも私の味方だった。優しくて、ちょっとお喋りでおせっかいで、でも間違いなく私を一番大事に思ってくれていた。
突然亡くした時に後悔したんだ。もっと親孝行すればよかった、って。色々話して、旅行行ったり、プレゼントを贈ったり、そうやればよかったんだって何度も泣いた。
せっかく会えるお母さんが近くにいるのなら、二人を再会させてあげたい。
私の叫び声が響き少し経つと、画面が突然真っ暗に変化した。映像が消えたのだ。泣きじゃくる自分の情けない顔と、それにしがみつく聡美の姿が映り込んだ。
しんとした沈黙が流れる。もう水が流れる音だとか、そういった不思議な現象は収まったようだった。
それでも、私の脳裏にはまことちゃんの顔が頭から離れない。悲しそうに言った言葉が残っている。
お母さんごめんなさい、怒ってる……。
一体何があったんだろうあの小さな少女に。どうしたら私たちの声が届くんだろう。事故の時、あんな悲痛な叫び声を上げていた明穂さん、折れた足を引きずりながらも探し続ける明穂さん、どうやったら……。
「な、何だったの、今の」
聡美の震える声が隣からした。ようやく彼女が顔を上げる。それは真っ青になっていた。さすがに説明し難いことが目の前で起こり、ショックを受けているようだ。
「多分、まことちゃんが何かを」
私がそう言った時だ。聡美の表情がピタリと止まった。その原因が、私にもわかっていた。足に何か違和感を覚える。
ゆっくりと下を見下ろした。聡美も同時に同じように頭を垂らす。
ソファのすぐ前に立っている私たちの足を、誰かが握っていた。小さな手だった。とても人が入り込めないであろうソファの下から、二本のその手は出ているのだ。
白い手は、驚くほど熱かった。
そして耳のすぐそばで、声がしたのだ。
『じゃあ 見てみてよ』
聡美の耳をつん裂くような声が響き渡った。同時に、私はそのまま意識を飛ばした。
背中の痛みが辛くて目を覚ました。固い床で眠っている体と瞬時に理解する。
冷たい床だった。体温が吸い取られるような感覚に陥る。目を開けると、ぼんやりと白い天井が見える。
電気はついていなかった。薄暗くてあまり周囲がはっきりと見えない。不思議に思い起きあがろうとした時、すぐ隣に見覚えのある子がいた。
目を凝らしてみると、それは聡美だった。巻き髪を振り乱したまま同じように床に寝ている。私はとりあえず彼女に声をかけた。
「聡美、聡美」
「ううん」
私の声に反応し、聡美が目を見開く。寝ぼけているようなぼやっとした眼で私を見上げると、痛そうに顔を歪めながら体を起こす。そしてすぐに体をぶるっと震わせた。
「え、さっむ、くっら……何、ここ?」
「わからない、私も今起きたところで」
「え? 一体何が」
そう話していると、近くから何か小さな音が響いた。はっと聡美と顔を見合わせる。黙り込むと、より鮮明にそれが聞こえた。
咳だ。子供が咳をする声なのだ。
慌てて辺りを見渡す。二人でじっと目を凝らしてみると、あまり広くない部屋であることがわかった。どこか埃っぽい匂い、何かはわからないが物が床に乱雑に置かれている。
そしてそんな部屋の隅に、小さな人影が揺れた。座り込んでいるのは子供だとわかる。顔はよく見えないが、誰かが座ったまま咳をしていた。
一体なぜ子供が同じ部屋にいるのだ、いやそもそもここはどこ? わからないことだらけで、それは聡美も同様のようだった。
こんな小さな子が突然命を奪われて、何か罪悪感を感じてお母さんに会えないでいる。十五年も一人きりで隠れ、孤独を感じている。
お母さんに会いたいはずなのに、一体何がこの子をそんなに追い詰めているのか。
あの子を、救ってあげたいのに。
「あなたはなぜお母さんに会えないと言ったのですか。お母さんはあなたを探していますよ。きっと何も怒っていません」
九条さんが早口で伝える。だが、スピーカーからまた声が漏れた。
『お・こ・って・る』
切ない響きだった。私は我慢し切れず、目に涙を浮かべながら叫んだ。
「怒ってないよ! お母さんだもん、子供が一番大事なんだよ。会えたら喜んでくれるよ!」
自分の母親の顔を思い浮かべる。いつでも私の味方だった。優しくて、ちょっとお喋りでおせっかいで、でも間違いなく私を一番大事に思ってくれていた。
突然亡くした時に後悔したんだ。もっと親孝行すればよかった、って。色々話して、旅行行ったり、プレゼントを贈ったり、そうやればよかったんだって何度も泣いた。
せっかく会えるお母さんが近くにいるのなら、二人を再会させてあげたい。
私の叫び声が響き少し経つと、画面が突然真っ暗に変化した。映像が消えたのだ。泣きじゃくる自分の情けない顔と、それにしがみつく聡美の姿が映り込んだ。
しんとした沈黙が流れる。もう水が流れる音だとか、そういった不思議な現象は収まったようだった。
それでも、私の脳裏にはまことちゃんの顔が頭から離れない。悲しそうに言った言葉が残っている。
お母さんごめんなさい、怒ってる……。
一体何があったんだろうあの小さな少女に。どうしたら私たちの声が届くんだろう。事故の時、あんな悲痛な叫び声を上げていた明穂さん、折れた足を引きずりながらも探し続ける明穂さん、どうやったら……。
「な、何だったの、今の」
聡美の震える声が隣からした。ようやく彼女が顔を上げる。それは真っ青になっていた。さすがに説明し難いことが目の前で起こり、ショックを受けているようだ。
「多分、まことちゃんが何かを」
私がそう言った時だ。聡美の表情がピタリと止まった。その原因が、私にもわかっていた。足に何か違和感を覚える。
ゆっくりと下を見下ろした。聡美も同時に同じように頭を垂らす。
ソファのすぐ前に立っている私たちの足を、誰かが握っていた。小さな手だった。とても人が入り込めないであろうソファの下から、二本のその手は出ているのだ。
白い手は、驚くほど熱かった。
そして耳のすぐそばで、声がしたのだ。
『じゃあ 見てみてよ』
聡美の耳をつん裂くような声が響き渡った。同時に、私はそのまま意識を飛ばした。
背中の痛みが辛くて目を覚ました。固い床で眠っている体と瞬時に理解する。
冷たい床だった。体温が吸い取られるような感覚に陥る。目を開けると、ぼんやりと白い天井が見える。
電気はついていなかった。薄暗くてあまり周囲がはっきりと見えない。不思議に思い起きあがろうとした時、すぐ隣に見覚えのある子がいた。
目を凝らしてみると、それは聡美だった。巻き髪を振り乱したまま同じように床に寝ている。私はとりあえず彼女に声をかけた。
「聡美、聡美」
「ううん」
私の声に反応し、聡美が目を見開く。寝ぼけているようなぼやっとした眼で私を見上げると、痛そうに顔を歪めながら体を起こす。そしてすぐに体をぶるっと震わせた。
「え、さっむ、くっら……何、ここ?」
「わからない、私も今起きたところで」
「え? 一体何が」
そう話していると、近くから何か小さな音が響いた。はっと聡美と顔を見合わせる。黙り込むと、より鮮明にそれが聞こえた。
咳だ。子供が咳をする声なのだ。
慌てて辺りを見渡す。二人でじっと目を凝らしてみると、あまり広くない部屋であることがわかった。どこか埃っぽい匂い、何かはわからないが物が床に乱雑に置かれている。
そしてそんな部屋の隅に、小さな人影が揺れた。座り込んでいるのは子供だとわかる。顔はよく見えないが、誰かが座ったまま咳をしていた。
一体なぜ子供が同じ部屋にいるのだ、いやそもそもここはどこ? わからないことだらけで、それは聡美も同様のようだった。
38
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。