視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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憧れの人

届け物

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「依頼の人ですかねえ?」

 立ち上がりかけた伊藤さんに慌てて言った。

「私対応します!」

「ほんと? しばらくは依頼は受けないって伝えてもらえる?」

「はい、そうお伝えしますね」

 ようやくできた仕事だと立ち上がる。二人を通り過ぎて入口に向かった。ドアを開け、そのまま閉めることなく顔だけひょこっと出してみる。

「あ、こんにちは! お荷物です!」

 客ではなかった。宅配の格好をした男性が荷物を持って立っていたのだ。宅配便だったか。私は戸をそのままにして、外に出た。にこやかに対応する。

「お疲れ様です」

「こちらですねー」

 渡されたのは小さな小包だった。両手でそれを受け取る。一体何が届いたんだろう、事務所に荷物が届くのは珍しいことだ。

「寒いですねー」

「あ、外は寒いですよね。本当お疲れ様です」

「いや、ほとんど車の中なんですけどね」

 笑いながら誰宛てだろうかと小包を眺めていると、宅配の人が何かを思い出したように声を上げた。

「あ! そうだ」

「え?」

「伝言です!」

「私にですか?」

 帽子を被り直すようにツバを持ったまま、彼は明るい声で言った。



「いつまで 生きるつもり?」



 はっとしたときには、もう目の前に誰も立っていなかった。

 無人の廊下が続いている。奥の方に見える銀色のエレベータがひっそりとあった。

 今の今まで目の前にいたはずの人は忽然と姿を消し、私は一人佇んでいたのだ。

「…………え」

 ただ呆然とした。何が起きたのかまるで分からなかった。いくら周りを振り返って確認しても、やっぱり誰もいないのだ。

「光さんどうしました」

 背後からそんな声が聞こえて振り返る。九条さんが不思議そうに私を見ていた。その顔を見ただけでホッとし、でも同時に混乱が襲ってくる。

「あ、あれ? 今、確かに宅配の人がいて、会話してたんですけど、いつのまにか、えっと」

「……光さん! あなた何を持ってるんです!」

 慌てたような九条さんの声が聞こえたと思うと、突然自分の両手に痛みが走った。視線を下ろして見る。

 小包を持っていると思っていたそれはまるで違うものだった。キラキラと輝く小さな破片たち。一つ少し大きめなものに、有名なブランドのロゴが見えた。

 大事にそれを握っていた自分は、手のひらから血が出ていた。






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