視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
384 / 450
憧れの人

なぜ?

しおりを挟む
「ああ、手が動く~!」

「はは、開放感凄いだろうね。おめでと。
 さて九条さん、影山さんは僕が見ておくので、光ちゃん家に送ってあげてください。早くゆっくりさせて」

「それもそうですね」

 九条さんも納得して立ち上がる。私は自然と頬が緩んでしまう。

 ああやっと家に帰れる。お風呂に入って、着替えて、自分の手で食べたいものが食べられる……!

 私も立ち上がり、九条さんに頭を下げた。

「すみません、よろしくお願いします」

「いいえ。ゆっくり家で休息を取ってください。しばらく仕事も休みにします、それぞれ落ち着きましょう」

「ええ、美味しいものをいっぱい食べていっぱい寝ますね!」

 私は笑顔でそう声をかけた。九条さんも優しく微笑む。

 終わった。ようやく終わったんだ、二人へのお礼はまたゆっくり考えよう。命を救われたんだからね。

 そう考えていると、目の前の九条さんがふと私を見つめた。そして、微笑んでいた顔を徐々に戻す。

 そして目を見開き、驚きの表情で言ったのだ。

「……光さん? その手は」

「え?」

 私は小さく首を傾げる。そして九条さんの視線の先を見るために、少し俯いてみた。




 自分の両手が、首を絞めていた。




「…………え?」

 疑問の声が自分の口から漏れた。

 しっかり首に巻きつく指たちは紛れもなく自分のものだ。何が起こったのかわからず、頭が追いついていない。私? 私が一体、何をしているというの。だって影山さんは。

 すぐそばで気を失う彼を見る。やはり、眠ったまま変な様子はない。さっき自分の目でもみたはずだ、黒い影山さんは消滅していった。

「なん」

 そう言いかけた途端、伊藤さんと九条さんが勢いよく飛んできて、引き離そうと腕を引っ張った。二人とも、いや、三人とも何が何だかわからないという状況だ。まだ手のひらに力は入っておらず、息は出来ていた。だが、しっかり首に張り付いている。

「離れない!」

「どうして!」

 パニックだった。まるで一体化しているように、手は首から離れてはくれなかった。男性二人が力の限り引いているのに、この腕はまるで動いてくれないのだ。

 なぜ。どうして。何が起こっているの。

 言うことを聞いてくれない自分の両手に愕然とし、絶望を覚えた。二人が引く力に痛みは感じるのに、手先の感覚だけが何もない。自分の体温を感じることすらなかった。

 九条さんが声を荒げて言う。

「なぜ! 影山さんの存在はもういなくなったはず!」

 混乱しているように叫んだ後、すぐにハッとした顔になる。そして小さく首を振り、唇を震わせた。

「まさか…………」

 そう呟いたときだった。

 九条さんの背後、事務所の隅の方に影が見えた。それはゆらゆら揺れる陽炎のように蠢いている。こちらの様子を伺うように、離れた場所にいる。

 はっとしてその一点を凝視する。耳に音など何も入ってこなかった。世界で自分と、その影二人きりになった感覚に陥る。

 影は徐々に姿を変えた。ただの塊だったそれが、人型になる。随分背が高い人間だ。まず見えたのは素足だった。汚らしい、痩せほそった足だった。

 白い服が見える。全体的に痩身だが、お腹だけ少し膨らんでいた。肩には長めの髪がかかっている。髪は痛み、ボサボサだった。

 顔が露わになった時、全てを理解した。こちらをニヤニヤして見る白い肌。頬は痩け、そこには適当に剃られた不揃いの無精髭。窪んだ目元、くすんだ顔色。不健康そうなそれは、ニュースでみた顔とはまるで変わり果てた男。でも顔の造りに、昔の面影を感じる。


しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。