視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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九条尚久と憑かれやすい青年

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 二人は伊藤が簡単に用意したインスタント中心の夕食を食べ、(九条は驚くほど何も手伝わなかった)伊藤は一人シャワーを浴びた後、早々にベッドに入った。電気を暗くし、タオルケットを体に掛けた後、一人静かにため息をつく。
 
 ぼんやり見える天井を眺めながら、この不思議な状況を思い出し、今更ながら首を傾げる。

 とんでもない一日だったし、なぜこうなっているんだっけ。

 勇気を出して、心霊事務所などという怪しげなビルに行ってみた。思ったより普通のところで、そこにいた九条という男の力は本物らしいとすぐに分かった。

 だが事件はそう簡単には片付かず、この部屋には何かがいるということだけが分かり、調査のために今日会ったばかりの男が泊まることになっている……。

 伊藤はちらりと横を見てみる。暗闇に慣れてきた目はぼんやりと反対側の壁にもたれている男の姿をとらえた。九条は寝るわけでもなく、ただじっと座り込んでいる。さすがに、この闇の中では表情までは分からない。

 今更ながら、伊藤は自分の行動が軽薄だったのではないか、と心配になってくる。初対面の人間を家に招き入れ、泊りまで許可してしまった。もし自分が寝ている間、彼が何かを盗んでいったら? 初めからそういうのが目的だった可能性も……。

 そこまで考えたが、すぐに頭が冷静になり、生暖かい目で九条を眺めた。

 ありえないな。だったら、もう少しまともな人間のフリをしてこっちをもっと安心させようとするだろう。あんなど天然な性格、演技で出来るわけがない。

 見つめていたシルエットが、何やらごそごそ動く。どうしたのかと思っていると、暗闇の中で『ぽきっ』という音がしたので、ああ、あのお菓子を食べているのか、と分かった。ほら、緊張感の欠片もないあの人間が、詐欺や泥棒が務まるとは到底思えない。それに、うちには金目の物は何もない。

 伊藤はそう結論付け、九条に背を向けて目を閉じ、寝る準備へと入った。すぐ近くに人がいるという普段と違う状況は、入眠の障害になるかと思ったが、疲れもあったのか彼はすぐに寝息を立て始めた。

 マンション前の道を車が通り、その音が微かに聞こえる。他の住民の足音らしきもの、エアコンの稼働音などの音の中で、九条がまたぱくりとポッキーを頬張った。伊藤からは規則的な寝息が聞こえてくる。彼は退屈そうな顔もせず、じっと時間が過ぎるのを待っていた。時折ちらちらと伊藤の様子を観察し、口寂しいときにはお菓子を頬張るだけだ。

 それから数時間が経過し夜も更けた頃だった。九条が近くに置いてあった新しいポッキーの箱を開けようと手を伸ばした時、ぴたりと動きが止まった。

 彼の眼光が鋭くなる。

 ゆっくりと部屋の出口を眺めた。第六感が、何かを感じ取っている。先ほどまでとは違った嫌な空気感で、つい眉を顰めた。いつの間にか全くの無音状態になっており、この部屋だけ違う空間へ飛ばされたような感覚だった。

(何が来る?)

 九条はちらりと、設置してあるカメラを見た。小さな赤いランプが点いており、ちゃんと録画状態であることが分かる。暗視機能がついているので、暗くても撮影は出来るようになっている。それを確認し、再びドアを注視した。

 すると、カタカタと小さな音が響いてくるのに気が付く。ドアが揺れているのだと分かった。風に煽られているように小刻みに動いているのだ。だがもちろん、風など吹いていない。九条は息をするのも忘れて見つめ続ける。

 ふいに、ドアの動きが止まる。

 ついに来るか、と身構えるも、それ以降何も起こらない状態が続き、九条は首を傾げた。不穏な空気感だけは残っているが、一向に相手が姿を見せないのだ。

……何かがいるのは間違いない。
 
 九条は伊藤の方を見てみる。タオルケットが盛り上がっており、寝返りでも打ったのかそれがもぞもぞと動いていた。この不穏なオーラに気付かずに寝ていられるのは、やはり伊藤が霊を視る才能がゼロであることを示しているな、と九条は思う。

 だがすぐに、はっとして立ち上がる。

 ベッドの上のタオルケットが、徐々に大きく膨らんでいく。さらには、先ほどまで規則的だった寝息が途切れ途切れになっており、苦しそうに聞こえてきたのだ。
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