視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
418 / 450
九条尚久と憑かれやすい青年

連絡手段

しおりを挟む
 戸谷の姿が見えなくなったのを確認し、伊藤は深いため息と共に天を仰いだ。恐る恐る隣の九条を見て問う。

「あれってつまり……これまでの住民、男はみんな狙われてたってことですよね……?」

「まず間違いないでしょう」

「やっぱりじゃあ、この部屋がいけないんですね……」

「戸谷さんと話せたのはかなり大きな収穫でした。伊藤さん以外の男性にも怪奇現象は起きていたと見て間違いないこと、建ってすぐに入った住民も体験しているということは、土地に何かある可能性が非常に高い」

「変なところに入っちゃったなあ……」

「これから話を聞きに行くご夫婦から、有力なことが聞けるといいんですがね」

 九条はそう言いながら歩き出したので、伊藤は項垂れながらその背中を追う。

「ところで伊藤さん、もしかすると今回の件は、引っ越しをすれば落ち着く可能性もあるかもしれませんよ」

「え!?」

「霊にも色々種類があります。そこいらをふらふら漂っている浮遊霊もいれば、土地にしがみつき存在し続ける地縛霊もいます。先ほどの話を聞くに、前に住んでいた方も何かしら経験していた可能性が高い。でもそのあと入った伊藤さんにも現象が起きているということは、霊は荒巻さんに付いていかずここに残ったということでしょう」

「あ、確かに……」

 九条は頭を掻きながら続ける。

「まあ、確定ではないですが、そういう可能性が高いかと。そうなれば、あなたはここから引っ越しさえすれば問題解決するかもしれないんです。正直に言いますが、調査は何日かかるか分からないので、このまま続行するより引っ越した方が安く済む可能性もありますよ。調査を中断するならそれでもいいです」

 九条の提案に、伊藤は色々と驚かされた。

 まず、この調査に時間がかかれば引っ越し費用より高い料金を求められてしまうのか、という衝撃。だが、二十四時間付きっ切りで何日もかかるとなれば、それぐらいしても仕方ないのかという気もする。昨日だって徹夜で見守ってくれていた。

 同時に、黙っていれば調査を続行して稼げるというのに、ここで切り上げるという案を出してきたその正直さにも衝撃を受けた。金を巻き上げてやろう、というやましい気持ちは一切ないのだ。

 伊藤は九条にさらに好感を持った。

「そうですね……でもそうすると、僕の後に入った男の人がまた体験するかもしれませんよね?」

「それはそうですね」

「うーん、それもどうなのかな。ここまで来たなら真実を知りたい気もするし、引っ越し先を探したり準備するのも面倒なので、続けようかと思います。お願いできますか」

 伊藤がそう言うと、九条は少し驚いたように目を丸くさせた。調査を終了させると思っていたようだ。

 伊藤はにっこり笑って見せる。すると九条もかすかに微笑んだ。

「分かりました。なるべく早く解決するよう努めます」

「お願いします」

 そう言った後、九条は考え事をするように黙り込んだ。何か納得できない、というような表情だ。それに気づいた伊藤は尋ねる。

「どうしました、何か気になりますか?」

「気になることは沢山ありますが……まず伊藤さん、前の住民という荒巻さんの郵便物がいまだに届く、ということはありませんか?」

「え、特にありませんけど……」

 突然そんなことを訊かれてきょとんとする。幽霊と郵便物に、一体何の関係があるというのか。

「そうですか。伊藤さん、荒巻さんに話を聞いてみたいと思いませんか? 一体どんな体験をしたのか」

「そりゃ聞いてみたいと思いますよ、同じ体験者でしょうし。でも、引っ越し先なんて分からないですよ? 個人情報保護の点から、不動産屋に聞いても無駄でしょう」

「新しい住所が分からなくとも、こちらから手紙を届けることは出来ます。伊藤さんも引っ越した際、郵便局に転送手続きをしたんじゃないですか?」

「あ……!」

 伊藤はハッとした。

 引っ越しの際、郵便局に転居届を提出すると、旧住所あての郵便物を新住所に転送してくれるサービスがある。これをしていないと、『前の住民の郵便物が届いた』というトラブルを招くことがあるが、伊藤が越してから一度も来ていないということは、前住民はしっかり転居届を出していることになる。

 ちなみに転送期間は一年間だ。

「じゃあ、僕の今の住所を書いて、宛名を荒巻さんにして郵送すれば、彼が今住んでるところに転送してくれるってことか!」

「その通りです。ですがまあ、こちらは一方的に送るしか出来ません。そこから返事が来るか来ないかは向こう次第。でもやってみる価値はあると思いませんか?」

 伊藤が強く頷いたのを見て、九条が少しだけ口角を持ち上げた。こんな方法、自分だったら思いつかなかったと伊藤は思う。

 九条は天然だしかなり変わった人間だが、頼りがいがある男、というのに気がついていた。普段はマイペースな男だが、事件の本質に迫れるよう的確に情報を得ようとしている。最初に思っていた除霊師とのイメージはだいぶ違うが、変なお祓いの儀式を見せられるより、こっちの方がずっと信じられると伊藤は思った。

「じゃあ、帰りにコンビニで切手を買って行きましょう!」

「あとポッキーも買い足さねば」

「え!? 昨日買ったやつ全部食べたんですか!?」

「すっかり無くなりました」

「糖分取りすぎ……」

 そんな会話をしながら、二人はマンションを下りて行った。



しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。