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九条尚久と憑かれやすい青年
猫は可愛い
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中は外から見た以上に立派な家で掃除も行き届いており、どこか懐かしさを感じる。玄関を上がったところで、夫人が中に声を掛ける。
「あなたー! 伊藤さんがいらっしゃったわ」
少しして、廊下を歩いてくる足音と共に小川氏が現れた。これまた上品な男性で、細い目から優しさが伝わってくるような顔立ちをしている。彼は嬉しそうに声を上げた。
「おお、伊藤さん。いらっしゃい」
「突然お邪魔してすみません。ちょっと訊きたいことがありまして」
「初めまして、友人の九条です」
「えらい男前な人だなあ! 上がって上がって」
促されるまま、リビングへと向かう。伊藤は一度来たことがあるため、慣れた足取りで進んでいく。九条はその背中を黙って追った。
リビングに入ると、茶色のソファとテーブルがあった。ソファの上には一匹、三毛猫が寝そべっており、伊藤たちの訪問にゆっくりと頭を上げる。伊藤は明るい声で言う。
「あ! マロン~! 元気にしてたかー」
にこにこ顔でソファに近づき、マロンと呼んだ三毛猫をすぐに撫でた。伊藤が以前、脱走したのを捕獲した猫が、このマロンだ。
夫婦が大事に育てている猫で、普段は家の中で飼っているのだが、その日はベランダを開けた隙を狙ってするりと逃げ出したらしい。夫婦で急いで探し回ったがなかなか見つからず、途方に暮れていたところ伊藤が現れた。
彼は近くの木の上にいたマロンをすぐに発見。抱きかかえてこの家に戻ってきた経緯がある。
マロンは伊藤の事を覚えているのか、頭を撫でられ気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。それを見た夫人が微笑んで言う。
「あらあらすっかり懐いてるみたいねえ。あ、九条さんもどうぞソファに座って」
「失礼します」
九条はしゃがみこんだ伊藤を通り過ぎ、そっと猫の隣に腰かける。そしてちらちらと猫を気にかけているのを見て、伊藤が尋ねる。
「もしかして九条さん、猫好きですか?」
「まあ、動物は好きですが」
「人懐っこいですよーマロン!」
伊藤が手を休めることなく笑って言ったのを聞いて、九条はピクリとも動かずじっと猫を凝視する。そのまるで犯人を見つめる探偵のような眼光に、伊藤は思わず表情を引きつらせた。少しして、意を決したように九条が手を伸ばす。
と、何かを感じ取ったのだろうか。マロンは突然するりとソファから降り、ささっとどこかへ行ってしまったのだ。
残されたのは、手を伸ばした状態の顔のいい男。彼はすぐに悲し気に目を細めた。
その光景が伊藤のツボに入り、つい小さく吹き出し、お腹を抱えて笑ってしまう。堪えようとしても笑いが抑えきれない。
「す、すみませ……! 凄いタイミングだったから……!」
そういえば、九条は動物に嫌われやすい、と言っていたのを思い出した。伊藤は逆でかなり動物から好かれやすいタイプだったので、九条を哀れに思いつつも、猫に振られて悲しい表情をした九条がどうにも可愛らしく見えて仕方なかったのだ。
「さあさあお茶をどうぞ」
夫人がグラスに入った冷たいお茶を持ってきてくれたので、伊藤はマロンがいた場所に座った。
小川氏はソファの近くにあった一人掛けの椅子に座り、にこやかに話しかけてくる。
「先日はマロンをありがとう。もう帰ってこないんじゃないかとハラハラしたよ」
「たまたま見つかって、ほんとよかったです!」
「それで今日はどうしたの?」
「あ、えっと、小川さんってここに住まれて長いですよね?」
「ああ、もう五十年近くになるかな」
「僕が住んでるマンションの前って、何があったか覚えてらっしゃいますか?」
聞かれた小川氏は腕を組み頷いた。
「あなたー! 伊藤さんがいらっしゃったわ」
少しして、廊下を歩いてくる足音と共に小川氏が現れた。これまた上品な男性で、細い目から優しさが伝わってくるような顔立ちをしている。彼は嬉しそうに声を上げた。
「おお、伊藤さん。いらっしゃい」
「突然お邪魔してすみません。ちょっと訊きたいことがありまして」
「初めまして、友人の九条です」
「えらい男前な人だなあ! 上がって上がって」
促されるまま、リビングへと向かう。伊藤は一度来たことがあるため、慣れた足取りで進んでいく。九条はその背中を黙って追った。
リビングに入ると、茶色のソファとテーブルがあった。ソファの上には一匹、三毛猫が寝そべっており、伊藤たちの訪問にゆっくりと頭を上げる。伊藤は明るい声で言う。
「あ! マロン~! 元気にしてたかー」
にこにこ顔でソファに近づき、マロンと呼んだ三毛猫をすぐに撫でた。伊藤が以前、脱走したのを捕獲した猫が、このマロンだ。
夫婦が大事に育てている猫で、普段は家の中で飼っているのだが、その日はベランダを開けた隙を狙ってするりと逃げ出したらしい。夫婦で急いで探し回ったがなかなか見つからず、途方に暮れていたところ伊藤が現れた。
彼は近くの木の上にいたマロンをすぐに発見。抱きかかえてこの家に戻ってきた経緯がある。
マロンは伊藤の事を覚えているのか、頭を撫でられ気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。それを見た夫人が微笑んで言う。
「あらあらすっかり懐いてるみたいねえ。あ、九条さんもどうぞソファに座って」
「失礼します」
九条はしゃがみこんだ伊藤を通り過ぎ、そっと猫の隣に腰かける。そしてちらちらと猫を気にかけているのを見て、伊藤が尋ねる。
「もしかして九条さん、猫好きですか?」
「まあ、動物は好きですが」
「人懐っこいですよーマロン!」
伊藤が手を休めることなく笑って言ったのを聞いて、九条はピクリとも動かずじっと猫を凝視する。そのまるで犯人を見つめる探偵のような眼光に、伊藤は思わず表情を引きつらせた。少しして、意を決したように九条が手を伸ばす。
と、何かを感じ取ったのだろうか。マロンは突然するりとソファから降り、ささっとどこかへ行ってしまったのだ。
残されたのは、手を伸ばした状態の顔のいい男。彼はすぐに悲し気に目を細めた。
その光景が伊藤のツボに入り、つい小さく吹き出し、お腹を抱えて笑ってしまう。堪えようとしても笑いが抑えきれない。
「す、すみませ……! 凄いタイミングだったから……!」
そういえば、九条は動物に嫌われやすい、と言っていたのを思い出した。伊藤は逆でかなり動物から好かれやすいタイプだったので、九条を哀れに思いつつも、猫に振られて悲しい表情をした九条がどうにも可愛らしく見えて仕方なかったのだ。
「さあさあお茶をどうぞ」
夫人がグラスに入った冷たいお茶を持ってきてくれたので、伊藤はマロンがいた場所に座った。
小川氏はソファの近くにあった一人掛けの椅子に座り、にこやかに話しかけてくる。
「先日はマロンをありがとう。もう帰ってこないんじゃないかとハラハラしたよ」
「たまたま見つかって、ほんとよかったです!」
「それで今日はどうしたの?」
「あ、えっと、小川さんってここに住まれて長いですよね?」
「ああ、もう五十年近くになるかな」
「僕が住んでるマンションの前って、何があったか覚えてらっしゃいますか?」
聞かれた小川氏は腕を組み頷いた。
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