ヒロインになれませんが。

橘しづき

文字の大きさ
13 / 42

まだまだ続く

しおりを挟む

 
 あのグループが去っていった後、私はどっと疲れに襲われた。両手で顔を隠し、何とか声を絞り出す。

「蒼井さん、ありがとうございました……」

 私たちの間にある何かを察してくれたんだ。だから、私に話を合わせてくれた。彼がいい感じにアシストしてくれたので、私は堂々とすることが出来た。

 蒼井さんは小さく首を振る。

「何もしてないよ。ただ、なんかあの人たちが安西さんを責めてるように見えて……」

「またスクールに戻らないか、と誘われていまして」

「そっか、でもやけに困ってなかった?」

「そ、それは、まあ……」

 どう説明しようか困っていると、蒼井さんがふと目が合う。途端、なんだか恥ずかしくなってしまい逸らした。

 あんな情けないシーンを見られてしまった恥ずかしさと、嘘でも口説いているなんて言ってもらった恥ずかしさ。

「あれ? 顔が赤いね」

「いえ、大丈夫です、大丈夫です! 蒼井さんみたいな人にああいうことを言ってもらえる経験なんてなかったもので……でもちゃんとわきまえております、フォローのためにありがとうございました」

「え、別に嘘を言ったわけで」

「ふう。変な汗かいちゃった。そろそろ出ませんか?」

 熱くなった顔を誤魔化すためにそう言うと、彼が時計を見上げた。

「そうだね、そろそろ……目的のものは買ったから、次は何する? 夕飯まで時間あるよね。映画でも見るか、それともぶらぶら他の物買い物するか」

 伝票を手にしながら彼がそう言ったので驚く。てっきり、そろそろ解散かと思っていたのだ。

「え、夕飯までですか?」

「うん。店を予約してくれたって言ってたでしょ」

 そう指摘され、しまった! と心の中で叫んだ。確かにそうだった、元々は蒼井さんと坂田さんを二人きりにさせる作戦だったので、店まで予約していた。キャンセルするのもすっかり忘れていた。

 あわあわと慌てる私をよそに、彼はさっさとお会計に行ってしまう。カバンから財布を取り出そうとする私を制し、お菓子を貰ったからと言う理由で支払いを断られてしまった。

……お出かけはまだまだ続くらしい。





 その後、二人で買い物をして回った。蒼井さんが仕事に使う靴が欲しいとのことで二人で選び、私の服や小物も一緒に見てくれた。

 そして時間を潰した後、私が元々予約していた店へと足を運んだのだ。



「お席はこちらです」

 高層ビルの上にある、お洒落な居酒屋の店員に案内されたどり着いた席を見て、私は冷や汗をかいた。外の景色がよく見える大きな窓の前に、テーブルとソファ席が一つ。横並びで座るカップルシートだったのだ。

 何たる失態。『景色が見える席を!』とお願いはしていたが、まさかカップルシートだったとは。

 私がいなくなった後、蒼井さんと坂田さんが少しでもいい雰囲気になりますように、という魂胆が裏目に出た。

 蒼井さんは案内された直後、少し目を見開いて驚いたようだった。そりゃそうだよなあ、こんなカップルがいちゃいちゃするような席が用意されているとは思うまい。

 私は頭を下げる。

「すみません! 景色が見える席を……ってお願いしていたんですけど、まさかカップルシートだとは思わず! 他に空いてる席がないか、聞いてきます!」

「あー別にいいんじゃない? 今更だし。お店の人も忙しいしさ」

「え、でも」

「それよりさ、これって予約が……」

 そこまで言って、彼は言葉を止める。すぐに話題を変えるように笑いながら席に座ってしまう。

「まあ、いいじゃん。おいで」

「……じゃ、じゃあ」

 こんなはずじゃなかった、と心で後悔しながら隣に座る。途端、一気に緊張状態になった。だって、これほど蒼井さんの近くに座ったことなんてないからだ。

 肘が触れそうで、触れない。

「飲める? 色々あるよ」

「で、ではチューハイにしようかと」

 二人でいくつか注文し、お酒が運ばれてくる。もう飲んで気を紛らわせるしかないと覚悟した自分は、届いたお酒をぐいっと飲んだ。

「はは、安西さんってお酒強いよね」

「好きではあります!」

「飲んで飲んで。ケーキ食べたから、食事はそうたくさんは入らないかも」

「私も、まだケーキが残ってる感じがします」

 お腹をさすりながら、とりあえずお酒と一緒にきたお通しを食べる。

「あそこで知り合いに会ったのは予想外だったね。テニス、どれくらいやってたの?」

「……えっと……二週間、ですかね」

「そうなの? 合わなかったんだ?」

「と、いいますか……」

 私は迷った末、スクールであった出来事を正直に話した。さっきの中にそのカップルがいたことも、戻ってこないかと誘われたこともついでに。蒼井さんを巻き込んでしまったので、隠すのは誠実ではないと思ったのだ。

 蒼井さんは手を止めてじっと私の話を聞いてくれていた。

「というわけで、私よくそういう当て馬女みたいな立ち位置になりやすくて……蒼井さんも知ってると思いますけど、女性からの第一印象もよくないみたいで。自分が悪いんですけどねえ」

 頭を掻きながら笑ってそう言ったが、蒼井さんは極めて真剣な表情で答える。

「話を聞く限り、君は悪い事していなくない? 気になった男性に恋人がいないかちゃんと聞いて、いないって聞いたから恋を頑張ろう、ってなったわけでしょ? ごく普通のことであって、責められることは何もしてないよ」

「そう言われると救われます……」

 ため息をついてお酒を一口飲む。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

ヒ・ミ・ツ~許嫁は兄の親友~(旧:遠回りして気付いた想い)[完]

麻沙綺
恋愛
ごく普通の家庭で育っている女の子のはずが、実は……。 お兄ちゃんの親友に溺愛されるが、それを煩わしいとさえ感じてる主人公。いつしかそれが当たり前に……。 視線がコロコロ変わります。 なろうでもあげていますが、改稿しつつあげていきますので、なろうとは多少異なる部分もあると思いますが、宜しくお願い致します。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー
恋愛
五年間、幸は彼を信じ、支え続けてきた。 「会社が成功したら、祖父に紹介するつもりだ。それまで俺を支えて待っていてほしい。必ず幸と結婚するから」 そう、圭吾は約束した。 けれど――すべてが順調に進んでいるはずの今、幸が目にしたのは、圭吾の婚約の報せ。 問い詰めた幸に、圭吾は冷たく言い放つ。 「結婚相手は、それなりの家柄じゃないと祖父が納得しない。だから幸とは結婚できない。でも……愛人としてなら、そばに置いてやってもいい」 その瞬間、幸の中で、なにかがプチッと切れた。

処理中です...