ヒロインになれませんが。

橘しづき

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本音をついに

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「……蒼井さん!」

 蒼井さんは深く、そして長いため息をつきこちらに近づいてくる。私の隣に来ると、先ほどのセリフをもう一度言う。

「安西さんと付き合ってるんですけど。だから、昨日お見舞いに来てくれたのもストーカーじゃないです」

 彼の証言を聞いて、一気にみんなの肩の力が抜けた。『なんだ、やっぱり』『だと思った』そんな言葉を口々に吐いていく。

 だが鈴村さんは納得するはずがなく、顔を真っ赤にして叫んだ。

「嘘! 安西さんに聞いたら付き合ってないって言ってたもん!」

「だって昨日から付き合いだしたからね。やっとここまでこれて喜んでるとこ。だから、安西さんが鈴村さんに嫉妬して嫌がらせなんてするのはありえないの」

「嘘、嘘!」

 認めない鈴村さんに、離れたところから吉瀬さんが声を上げる。彼は人込みから離れた場所でめんどくさそうに立ったままだ。

「あー安西さんに蒼井の住所教えたの俺だから。安西さん以外の人なら教えてない。蒼井の気持ち知ってたら、そりゃ教えるでしょ。あとで蒼井に感謝されたぐらいなんですけど」

「て、いうかさ」

 蒼井さんの声がぐんと低くなる。鈴村さんに近づき、顔を覗き込むようにして言う。

「昨日、せっかく安西さんが僕のために買ってきてくれた差し入れ、君が奪ったんでしょ? 返してほしいんだけど」

 怒りの声に、鈴村さんの顔が青くなる。信じられない、というように首を横に振った。

「違うよ……とーまくん、そうじゃないでしょ……? とーまくんは嫌がらせされたのを心配して、私を庇うところだよ……? 吉瀬さんだって、なんでそんな遠くから見てるだけなの? 二人で私を囲って悪い人を責めるシーンじゃない」

 鈴村さんの訴えに、吉瀬さんは呆れたように頭を掻いただけだ。その場から動くそぶりもなく視線を合わせようともしない。

 蒼井さんが言う。

「勘違いしない方がいい。僕たちは君が思ってるほど君に興味がない」

「とーまくんはそんな事言う人じゃないでしょう! おかしいよ、なんでこんな人と付き合うことになってんの? よりによってこんなタイプ」

「よりによって、ってなんだよ」

「男騙してそうな顔したこんな女!」

 鈴村さんが吐き捨てると、蒼井さんはため息をついて手で顔を覆った。少しして顔を持ち上げた時、彼の顔は嫌悪感に満ちていた。

「あのさあ。前も注意したけど、そのやり方と性格何とかした方がいいよ」

「……え?」

「安西さんは最初勘違いされがちな子だけど、君とはぜんっぜん違うから。まず仕事への姿勢。安西さんは初日から必死にマニュアル読んでメモ取って、分からないことは指導係にきっちり質問。できる雑用は立候補してやる。それが何? 鈴村さんはマニュアルを適当に読み流して、分からないことは近くの男に聞いてばっかり」

「そ、そんなこと」

「人に差し入れするのだって、自分をちやほやしてほしい人にだけ渡してる。安西さんはお世話になった人に、って男女問わずあげてたよ。それに、相手の好みもしっかり考えてプレゼントしてた。気に入られたいわけじゃない。気遣いのレベルが違うんだよ」

「ひ、ひどい!」

「ひどいのはどっち? 根拠もないのに人を犯人呼ばわりして。ストーカーって、よく言うよ。そっちこそ勝手に住所調べてやってきたくせに。自分は家に上げてもらえなかったのに、安西さんは家に呼んでもらったことで気づかないかなあ?」

 蒼井さんの説教は止まらない。周りの人も誰一人止めなかった。いや、止められる雰囲気ではなかった。普段温厚な人が怒ると、とにかく怖いのだ。どこか抑揚を無くし淡々と話し続けるその声には冷たさを感じ、それがとても怖かった。

「小さな頃から人にちやほやされないと気が済まない性格だったのは知ってるけど、いい大人になってまでそのままなのは本当にきついから直した方がいい。女の子の友達いないでしょ?」

「……! とーまくんどうしちゃったの? そんな怖い事言うの、とーまくんじゃない! いつも優しくて私の王子様だったのに!」

 鈴村さんが蒼井さんに縋りつくようにするのを、私は驚きながら見ていた。ここに彼女がいるって言ってんのに、平気で触るんだなあこの人。

 すると蒼井さんは分かりやすく嫌そうに顔を歪めた。その顔を見て、さすがに鈴村さんもヤバいと思ったのか、無言で蒼井さんから手を離す。

「昔はそっちが子供だったから仕方なく面倒みてただけ。友達の妹だし、ってね。今も最初は穏便に済まそうとしたんだけど、そうやって親切心を出したのがよくなかったな。正直に言うね。いい加減にしろよ」

 彼の周りに黒いオーラが見えた、気がした。鈴村さんは小さく震えているのが分かる。私すら口を挟めない。それぐらい、今の蒼井さんの威圧感が凄い。周りもしんとして、みんな物音を立ててはいけないと心で思っている。


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