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白い子猫と騎士の休日
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しおりを挟む吾輩は猫である。名前はまだにゃい。
うん、まだなんだ。
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俺、猫。0歳。
元々ただの人間。
今はただの猫。
地球の日本に住んでた三十代はいってたようなまだいってなかったような、成長するにつれて段々もう自分の年齢とかわかんなくなってきたおっさん、とはまだ呼ばれたくないお年頃。
この世界は地球とは違う世界。多少似てはいるけど全然違う。文化も暮らしも情勢も、生き物も能力もなにもかも。
例えばこの世界に「月」は存在するし一個しかないし、夜には照らされてくっきり見えるし、朝はうっすらぼんやり映る。けれど、それが恒星なのか惑星なのか、或いはそういうガラス玉なのか。そもそもこの世界は丸い星なのかもさっぱりわかりゃしない。海はあるらしい。他にも大陸があるらしい。本に載ってた地図は平面。それしか知らない。この世界、でっかいガラス張りで空に投影されてるだけとか言われても納得しちゃいそう。
空を飛ぶ魔法とかないのかな。そんな疑問の尽きない世界。でも俺がそれを発見したりどうこうしたりすることはない。
なにせただの猫ちゃんなので。
そんな異世界に転生したらしいし、実は召喚で呼ばれた上に探されてたらしいけど、そんなん知らずにぬくぬく暮らしてた俺。
みんな大好きちーとぱわーも特別無いどころか人になることも今のとこ出来ないただの猫、否、ただの可愛いいたいけな子猫。にゃん。
そんな矢先に世界を救う聖者云々すったもんだの問題があったけど、まあどうにか事は済んで。
また何事もなかったかのようにのんびりと暮らせることになった俺は今、こちらの世界で出会った男と同棲してる。
間違えた。飼われてる。
飼われるっていうか。入り浸ってるっていうか。
男が外出してる時は外にいるし、休みの日なんかは一日中室内にいることもあるし。そんで偶に布団の上に上がりこんで一緒に昼寝する。でもずっと寝てると目も覚める。その頃には男は熟睡しちゃってることが多い。俺は扉が開けられないので外にはいけない。するとどうだ。男なら今俺の隣で寝てるぜごっこを一人寂しくする俺が出来上がる。わびしいね。
さ、さみしくなんかないやい。
俺はね、まあどっちでも良かったのよ。外で兄弟と遊びながら半野良生活も楽しくて嫌いじゃないし、でも人間だったし室内生活を知っていたんだから飼い猫暮らしも良きだし。どっちが良いとか悪いとかはない。けど、快適なのは確実に室内なのだ。
だから、一度人家に踏み入れちゃうともう居心地の良さに引き寄せられちゃいましたわでへへ。ぽかぽかの日の当たるフローリングで寝そべるのさいこー。おふとんさいこー。
けどママンと兄弟たちはまた別でしょ。ご飯の時はさておいてもあっちは完全に野良生活。
俺は猫の家族も人の暮らしもどっちも選びたいわがままだから家にも入るし、外でも寝る。けどみんなはきっと外が良いに決まってる。なにせまだ少し男の住む家に警戒してるから。
ご飯に加えて俺が散々触られてるおかげ(?)もあってか、男に触れられるのを許すようにはなってるから、彼のことが苦手ってわけではなくて、この家自体がよくわかんなくて怖いんだろうね。得体のしれないでかい箱に嬉々として入って長時間出てこない俺。字にしたらそらなんか怖いな。これは怪しいとこじゃなくて、いつもご飯出してくれる人間の住処って言っても信じきってない。まあ俺らの住処、"そり"だしな。
ので俺が家に出入りする度、実は毎回心配されてる。
あとついでに言うとしゃがんだり座ったりしてた男が突然立ち上がった時も一瞬兄弟たちビビってる。身長でかいみたいだからね。言わんとしてることはわかる。
でも俺も今は猫だから、男の身長って人から見てどの程度なんだろね。相変わらず比較対象がないのもあって調べようがない。お話できたらそういうのも聞きたいね。あっお話できる頃には人の姿になれるか。えへへ。
話を戻して。
ずっと外暮らし。そうしたいって彼らが言うのならそれならそれで構わないんだけど、でも今俺が抱えてるのは、今後のこと。
もだもだにゃんにゃんしてたらそうこうしてるうちに、今はもう秋でしょ。
そう、冬が来る。師も走る、猫は丸くなる。
年中春とかそういう世界ならまだしも、自然や気候はやや地球に似たこの国には、冬があるしそれなりに雪も降るらしく。それはちょっと流石に見過ごせなかった。
だってねえ、寒い雪空の下に、例え雨避けの中に居たとしても家族を置いとくなんてねえ。
毛皮があるし冬毛になるなら暖かいと思ったけど足の裏なんて素足よ。こないだすっかり冷えた夜に外走ったら水溜まり踏んだよ。ちべたいよ。
この世界での冬がどんなものかはまだこれからのことだからわからないけど、いや、文字の上での情報なら男から聞いたけど。夏の終わりも秋の始まりも経験した上で想像するに、きっと元の世界の冬と変わりない。
だから家族が嫌がっても、ほんの少しでも男が嫌だとしても、俺のわがままでも、冬の間だけでもね。
どうにか家に入ってくれないかな、ここはあったかいとこだよ。あなたのおうちを貸してくれないかな、俺は部屋の隅っこでいいからみんなの住むとこを貸してほしいなって。どうにかしたいなって。みんな大事な家族だからって。
一生に一度のお願いを使っていいよ。おねがいって、もし喋ることができたら、今はそれをいのいちに伝えたかった。けど俺はまだ喋れないから。その内あの魔術師が訪ねてくるのをもどかしく待ってた。
でも俺が待ちぼうけするよりも前に、男は俺の言葉に気づいてくれたのだ。
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