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白い子猫と騎士の休日
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しおりを挟むとりあえず冬になるまでまだ時間の余裕はあったので、それまでに男は休日の暇な時にでも掃除をすることになった。いつも綺麗に見えてたけど、使う部屋の床を時々掃くくらいしかしてなくて、ちゃんとやった日は全然覚えてないって。わかる、一人暮らしで仕事忙しくて放ったらかしてると最後に掃除やったのいつだっけってなるよね。わかる。
でもそんなに使わなさそうなとこも綺麗に見えるけどな。物が多くないからそう見えるだけかな。床に物置くと汚部屋の一途とはよく言うもんだ。
男はせっせと掃除頑張ってる。なぁんもできない俺はソファーの上で応援してた。なんなら一日目にして汚れた足の裏で家に入ったせいでいざ綺麗なお部屋の一歩を見事遠のかせた。だって前の日雨だったんだもん。
にゃんにゃん鳴いてたぐらいで手伝えないから座ってる。
時々俺の傍通るときに撫でたそうにそわ……としては、薄汚れた手を気にしてか名残惜しそうにそのまま去ってゆく男を見送る。わかる。
男の家は一軒家。こじんまりとした、それほど大きすぎないのに一人暮らしにはなんとなく広く感じてしまう家。殺風景。
寂しいといえば寂しい家だし、憧れるといえば憧れる家。なんせ男の一人暮らしの一軒家。
そんで彼の持ち物は少ないといえば少ない。けれどそれは俺が元々人だった時に住んでた部屋よりかはという意味で、例えば置き場所がなくて詰め込まれる、ということがない。ものはあるけど、すっきりしているのだ。なぁんにもないわけでもない。
うろちょろしないで、このソファの上から見える範囲で、黙ってよく観察してみてみれば。
本棚に詰まった本も、台所の道具も、壁にかかった不思議グッズ(誰かのお土産なのかな)も、必要ないなら必要ないような部類。でも男にとってはみんな必要なのだろう、きっと。
つまりは彼もまたそれなりに人間らしい男なのだと実感なんて、してみたり。
ここであくびをひとつ。
でもね、でもね。例の物置状態の小部屋は割とごちゃごちゃしてた。いやごちゃごちゃどころか魔窟じゃんか。
まだ入ったことない部屋へ向かうのに後ろをついていってみて知った。
俺は、男が入ったことのある部屋、寝室とか、風呂とか、トイレとかも一度以上は入ってみたことがある。入らない部屋は俺も入ったことがない。つまりそういうことである。男も入らない部屋なのである。そういや表の木ゾリもそうだったな。捨てようと思って捨てなかったとかなんとか言ってたもんな。
ほつれてる毛布ある。昔使ってたの。冬の寒い時にみんなで使って良いかな。本はきっちり整頓してあるくせに、お手紙とか束にしてあるの、こんなとこにあるけど良いの、これ。開封した様子はあるからまあ良いか。ナイフの鞘だけ落ちてるけどいやほんとにいいのかこれ。あっナイフが壊れて鞘だけなの。そなの。
異世界アイテムみたいなのないかな。このへんとか。棚と棚の隙間に前足つっこんでごそごそ。ねずみが出たら追っかけてやるぜ。ふふふん。うわなんかしなびたきのこでてきたばっちぃ。
あとなんか価値ありそうなものもまとめてここに置いてない?? 魔物から採れた感のあるきらきらした羽とか角みたいなのも見えたよ。あときんきらした何かしらで授与されたっぽいの、それが食料の備蓄と共に木箱の底に転がってるの見えたよ??
あらやだ余計に人間らしいってか親しみを感じるっていうかだいぶ人として気が合いそうっていうか。
そんな感じで男の顔を見上げてみたら、ちょっと気恥しそうにそっぽ向かれたあらやだ~~~。
要らないものは捨てて。要らないけど希少性のあるらしいものは売るらしいのでまとめて寄せて。俺は応援して。要るものは後で整頓するので一旦部屋の外に出して。要るけどしばらく使わないものは屋根裏へ。屋根裏?
うっひょー屋根裏だ! 初めて入った! 実在したんだ! 屋根裏ってよくわかんないけどテンション上がる! よくわかんないけど! すごい! ドタドタしてたら男に黙って降ろされた。あー。
夕方にもなれば本日のお掃除も終わりにして。二人して頭の先から足の先まで俺は尻尾まで埃っぽくなって。尻尾の先におしゃれな綿ぼこりなんかつけちゃって。それじゃあご飯の前にお風呂にごー。
盥の中でわしゃわしゃ洗われる俺。
「目の周り洗うから閉じてろよ」
あーい。
水溜りで足を濡らしてきたことはあったが。
それよりも以前に、庭先で泥まみれになったことがある。兄弟たちと遊んで跳んで跳ねてこの始末。よりによって男の夜番の日だったから、どろんこ姿で一晩夜を明かす。
翌朝になって帰ってきた男に目をひん剥かれる。
流石にこんなんじゃ俺は家の中には入れなくて、仕方ないので、もちっと小綺麗な水溜りを探しで泥を落とそうかとでも思ってたら、荷物を置いて代わりに盥を持って男が庭先に出てきた。
バケツを使ってお湯を運んで汲み入れて。そいで俺を浸からせて。ああ疲れて帰ってきてるだろうにごめいわくを。
ちゃぱちゃぱしたら泥が水の中に溶けてゆく。ごしごし。くしくし。丸洗い。
そういや生まれて初めて風呂入った! あっ俺割と風呂好きかも。
ちなみに俺よりは被害がないけど四六時中外暮らしだからそこそこ汚れてる兄弟たちも、朝ご飯を餌に連れて来られつつ、洗われる俺を一目見て逃走してった。二匹ぐらい玄関前の石畳を踏んでったから、ああ彼のおうちの前が汚れた足跡で可愛いことに……。
なーんてこともあって。それから、俺は汚れると男に洗ってもらってる。
猫用シャンプーなんてのは当然ながらこの世界にはないけど、人間用石鹸はそこそこ種類があって。色んな匂いから高価なものだと砕いた魔石が練り込まれているものまであるらしいけど何に使うってんだ。まあ俺は水だけだけど。無臭なので家族が近づいても平気。あわあわになるのは楽しそうだけど。
水があまり濁らない程度まで何度か繰り返し流して、びちょびちょのほっそりした情けない姿になって。ぷるぷるして水滴払って男にかかって。タオルで丁寧に拭いて。おしまい。
最後に魔石使って風魔法でふわっふわにしてもろた。さいこう。
「じゃあ俺も入ってくるか……。その後に飯やるからな」
と頭をぽんぽんされて、玄関の扉を開けてくれる。折角洗ったのに、とも思わなくもないけど、まだ基本生活は外だから仕方ないね。テンション爆上がりのちょっと汚い兄たちに突っ込んでこられてもまあ仕方ないね。
最近、家の中に入ってもママンは特に何も言わない。言わないけど家から外へ出たらむちゃくそ舐められる。毛づくろいは好きだよ。ぺろぺろ。お返ししたらもっと毛づくろい強くなった。あぁー俺のほっぺ伸びちゃう。
それからしばらくして頭も乾かさずに外に出てきた男のご飯をみんなで食べて。ちゃんと乾かしなよ。風邪引くよ。なにせ引いたことがある俺が言うんだからね間違いない!
おなかいっぱいになったら、椅子に座って食べ終えるのを待ってた男の足元にごろり。そして足をよじよじ登って膝の上、ちょっとだけ構われて。ぐるにゃん。それから屈めたお顔を、俺の頭にちゅー。お耳をぴぴぴ。えへへ。
空になった皿を持つ男へ寝る前の挨拶をして。
「みゃあ」
「ああ。おやすみ」
おやすみなさい。
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