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獣人の地位

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通りを抜けると再び家が点在するだけの区域になった。
ようやく彼は足を緩めて、振り返ると、ひどく気まずそうな顔をして、
「巻き込んで悪い」
と謝った。


「ノーチェが謝ることじゃない。それより、なんで何も言い返さなかったんだ」

あれ以降も卵や生ゴミや普通のゴミや石やら。色々投げつけられた。
一緒にいた俺も少し被害を被ったが、大抵は彼がかばってくれたので本当に少しだけだ。

ノーチェはかなり汚れてしまっているし、おそらく傷もできているだろう。

俺には彼がなぜこんな扱いを受けて、何も言わないのかわからなかった。

彼には力がある。
ちょっと力を見せれば、よほど腕に自信のあるものでなければ彼にこのような仕打ちは受けないはずだ。

「いつものことだよ。言い返すことは無意味どころか害だ。人間に反論したり、危害を加えたりしたら俺はおそらく捕まって、一生奴隷としてこき使われるか、処分される」

衝撃的な言葉に思わず息を飲む。

「そ、それでもノーチェは人間に暴力を振るわれてるわけだし・・・」
「そんなのは関係ねぇよ」

バカにしたように鼻を鳴らす。
ムッと顔をしかめた俺に、彼は仕方なさそうに小さくため息をついた。

「お前の国がどうかは知らんが、この国では、人間の数が圧倒的に多い。俺のような獣人は数が少なく、人間は俺たちを見下している。獣の特徴を持った知性のない種族だと。そして基本的に街にある施設を獣人は利用できない。獣人が入れるのは貧しい人間がやっているところか、さらに奇特な獣人が店主をやっているところぐらいだ。そのどちらもここから一番近い街には存在しねぇ」

それから。
そこで彼は一呼吸置いた。

「人間が獣人に何しても、罪には問われねぇ」
「なっ」
「さっき言った関係ねぇってのはそういうことだ。人間が俺に何かしたところで罪に問われることはねぇ」

お前が俺に対して何をしても、もちろんなんも罪にはなんねぇぜ

そう言って彼は肩をすくめた。
その目には、諦めと卑下と得体の知れない暗く濁った色が見えた。


獣人として虐げられてきた彼を哀れに思った。
やり返さない彼の暗い表情が、ひどく苦しく見えて、何かしてやりたいとすら思える。

見ず知らずの俺を助けてくれた。

ご飯と寝床を与えてくれた。

いつものことだと言っていたから、きっと街に来れば、あんな風にものを投げつけられることだってわかっていたはずなのに、俺を街まで案内してさらに行くべきところに送り届けようとしてくれている。

そんな彼を見ずに、獣人というだけで虐げる街の人間たちに憤りが湧いた。

俺はこの世界の獣人というものをノーチェしか知らないけど、少なくともノーチェは理由なく暴力を振るわれる人ではないと、強く思った。
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