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第一章
第14話 エドワード公爵
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「やぁやぁ! よく来てくれたね」
扉が開かれ、ささっと、速い歩調で入室してきたのは赤髪オールバックに同色の瞳が特徴的な渋めの男性。 多分40代前半くらいかな……
私は立ち上がってからスカートの裾を摘み、淑女の礼をした。
「スカーレット家から参りましたハンナ・スカーレットです!不束者ですがよろしくお願いします」
男性は和やかな笑みを浮かべながら私の前に立ち止まった。 ふわりとシトラス系の良い匂いが鼻腔をくすぐる。
「ヴィルドレットの父で、オルズ・エドワードだ。よろしく」
――オルズ・エドワード様。
この御方がエドワード公爵家の当主で、私のお義父様になられる御方か。
穏やかな笑顔が印象的で、とても優しそう。それでいて大人の雰囲気が魅力的で、私の様な小娘にはそれがちょっぴり刺激的に感じてしまう。
さらに握手を求めて差し出されたお義父様の右手に目をやると、またしてもうっとり。とろけるように目尻が下がってしまう。
捲り上げられた袖口から露わになった腕は程良く鍛えられ、さらに盛り上がった血管が何ともセクシー。
そして、握手を交わす私の手はその大きく逞しい手の平に包まれ、ぎゅっと、優しくも力強い握り返しに私の乙女心はドキドキ。
「掛けてくれ」
私はお義父様に促され再び椅子に腰掛ける。
すると、お義父様は私から視線を外した途端にその穏やかな笑顔を険しいものへと変えて、
「ルイス、ヴィルドレットはどうした?」
「昨夜、南門前に現れた魔獣の討伐作戦の疲れもあってか……」
「まだ、寝ておるのか!?」
「左様でございます」
「如何なる理由があろうと、花嫁を待たせるなど言語道断!! 叩き起こせ!!」
「はっ。かしこまりました」
ひぇー、こわー。
でも、このギャップがこれまたまたらん……って、ダメダメ!さっきから何なのよ、私!!
私の旦那様になる御方はヴィルドレット様でしょ!?会う直前からこんなにも浮ついた心でいるなんて淑女らしくない!! ヴィルドレット様に対しても失礼!!
いつの間にか支配していた自分の中のふしだらな心に幻滅する。
「私の馬鹿息子が大変失礼した。申し訳ない。」
巨大テーブルを挟んで私の対面側に座ったお義父様は私に対して深々と頭を下げる。
「いえいえ!とんでもありません! 公爵様ともあろう御方が私のような下級貴族に頭を下げてはいけません! それに、ヴィルドレット様もお勤めの後でお疲れなのでしょう」
それにしてもエドワード公爵様って……噂以上の人格者。
なんでも、エドワード公爵夫人――即ち私のお義母様に当たる御方は15年前に流行り病でお亡くなりになられたとか。しかし、お義母様との永遠の愛を誓い合ったお義父様はその誓いに従って今現在まで一度も再婚をしていないらしい。
言うまでも無く、普通ではあり得ない。ましてや公爵家ともあろう名家、ましてやエドワード家は王国筆頭公爵家。跡取り候補は多い方が良いに決まっている。
――にも関わらず、エドワード家の跡取り候補はヴィルドレット様のみ。ヴィルドレット様に兄弟はいない。
これだけ一途に想われるお義母様……きっと幸せだったんだろうな。そう思うとなんだか羨ましい。
…………。
いや、私みたいな女が羨ましいと思う事すら烏滸がましいか。
お義父様のような人からここまで愛されるお義母様はきっと素晴らしい女性だったのだろう――、そう思いを馳せると同時に、私自身の意地汚い女心が浮き彫りなって急に恥ずかしくなってくる。
「――誠、ルイスの言った通り、当家は素晴らしい嫁に恵まれたようだ。この縁談を申し出てくれた父君には心から感謝しなければならないな。 知っていると思うが、私の子はヴィルドレットただ一人でね。だから娘を持つ事に強い憧れを持っていたんだ。君のお陰で私の夢が叶ったよ。本当にありがとう!君のような娘が出来て私は本当に幸せ者だ! ハンナ嬢――改めてエドワード家へようこそ!歓迎しよう!」
お義父様は私に優しい笑顔を向けてくる。
「……いえ、私はそんな……」
お義父様が思っているような女じゃないんです。
私はヴィルドレット様の事を何も知らない。
結局のところ私はヴィルドレット様の名声と肩書きのみに興味を示し、それだけで結婚を望み、「愛は後からでもついてくる」だなんて愚かな考えを持ち、「前世が不幸だった分、今世は幸せになろう」とか悲劇のヒロイン的な事を思ってみたり……。 私みたいな女、ヒロインでも何でも無いのに。
私は只々傲慢で――『エドワード公爵家』、『剣聖』、『近衛騎士団長』、『王国屈指の美青年』結局これらのブランドに目が眩んだだけの意地汚い女だ。
そして、挙げ句の果てにはお義父様にうつつを抜かす始末……。もはや、救いようのない馬鹿な女ね……私って。
とても、エドワード家に相応しい嫁とは思えない。
私はやはり幸せにはなれないのかもしれない。そもそも幸せになる資格がないのかも。
前世、魔女だった頃の私が夢見た幸せな結婚……辛かった……でも、その辛い日々の中でも『幸せな結婚』を諦めないで、いつかきっと幸せになるんだ――と、そう思っていた。
この頃の私は今みたいに穢れていなかったような気がする。一体いつからこんなふしだらな心を持つようになってしまったのだろう……。
そんな自分への悲観を続けていると、この部屋の出入り口の扉が開いた。
扉が開かれ、ささっと、速い歩調で入室してきたのは赤髪オールバックに同色の瞳が特徴的な渋めの男性。 多分40代前半くらいかな……
私は立ち上がってからスカートの裾を摘み、淑女の礼をした。
「スカーレット家から参りましたハンナ・スカーレットです!不束者ですがよろしくお願いします」
男性は和やかな笑みを浮かべながら私の前に立ち止まった。 ふわりとシトラス系の良い匂いが鼻腔をくすぐる。
「ヴィルドレットの父で、オルズ・エドワードだ。よろしく」
――オルズ・エドワード様。
この御方がエドワード公爵家の当主で、私のお義父様になられる御方か。
穏やかな笑顔が印象的で、とても優しそう。それでいて大人の雰囲気が魅力的で、私の様な小娘にはそれがちょっぴり刺激的に感じてしまう。
さらに握手を求めて差し出されたお義父様の右手に目をやると、またしてもうっとり。とろけるように目尻が下がってしまう。
捲り上げられた袖口から露わになった腕は程良く鍛えられ、さらに盛り上がった血管が何ともセクシー。
そして、握手を交わす私の手はその大きく逞しい手の平に包まれ、ぎゅっと、優しくも力強い握り返しに私の乙女心はドキドキ。
「掛けてくれ」
私はお義父様に促され再び椅子に腰掛ける。
すると、お義父様は私から視線を外した途端にその穏やかな笑顔を険しいものへと変えて、
「ルイス、ヴィルドレットはどうした?」
「昨夜、南門前に現れた魔獣の討伐作戦の疲れもあってか……」
「まだ、寝ておるのか!?」
「左様でございます」
「如何なる理由があろうと、花嫁を待たせるなど言語道断!! 叩き起こせ!!」
「はっ。かしこまりました」
ひぇー、こわー。
でも、このギャップがこれまたまたらん……って、ダメダメ!さっきから何なのよ、私!!
私の旦那様になる御方はヴィルドレット様でしょ!?会う直前からこんなにも浮ついた心でいるなんて淑女らしくない!! ヴィルドレット様に対しても失礼!!
いつの間にか支配していた自分の中のふしだらな心に幻滅する。
「私の馬鹿息子が大変失礼した。申し訳ない。」
巨大テーブルを挟んで私の対面側に座ったお義父様は私に対して深々と頭を下げる。
「いえいえ!とんでもありません! 公爵様ともあろう御方が私のような下級貴族に頭を下げてはいけません! それに、ヴィルドレット様もお勤めの後でお疲れなのでしょう」
それにしてもエドワード公爵様って……噂以上の人格者。
なんでも、エドワード公爵夫人――即ち私のお義母様に当たる御方は15年前に流行り病でお亡くなりになられたとか。しかし、お義母様との永遠の愛を誓い合ったお義父様はその誓いに従って今現在まで一度も再婚をしていないらしい。
言うまでも無く、普通ではあり得ない。ましてや公爵家ともあろう名家、ましてやエドワード家は王国筆頭公爵家。跡取り候補は多い方が良いに決まっている。
――にも関わらず、エドワード家の跡取り候補はヴィルドレット様のみ。ヴィルドレット様に兄弟はいない。
これだけ一途に想われるお義母様……きっと幸せだったんだろうな。そう思うとなんだか羨ましい。
…………。
いや、私みたいな女が羨ましいと思う事すら烏滸がましいか。
お義父様のような人からここまで愛されるお義母様はきっと素晴らしい女性だったのだろう――、そう思いを馳せると同時に、私自身の意地汚い女心が浮き彫りなって急に恥ずかしくなってくる。
「――誠、ルイスの言った通り、当家は素晴らしい嫁に恵まれたようだ。この縁談を申し出てくれた父君には心から感謝しなければならないな。 知っていると思うが、私の子はヴィルドレットただ一人でね。だから娘を持つ事に強い憧れを持っていたんだ。君のお陰で私の夢が叶ったよ。本当にありがとう!君のような娘が出来て私は本当に幸せ者だ! ハンナ嬢――改めてエドワード家へようこそ!歓迎しよう!」
お義父様は私に優しい笑顔を向けてくる。
「……いえ、私はそんな……」
お義父様が思っているような女じゃないんです。
私はヴィルドレット様の事を何も知らない。
結局のところ私はヴィルドレット様の名声と肩書きのみに興味を示し、それだけで結婚を望み、「愛は後からでもついてくる」だなんて愚かな考えを持ち、「前世が不幸だった分、今世は幸せになろう」とか悲劇のヒロイン的な事を思ってみたり……。 私みたいな女、ヒロインでも何でも無いのに。
私は只々傲慢で――『エドワード公爵家』、『剣聖』、『近衛騎士団長』、『王国屈指の美青年』結局これらのブランドに目が眩んだだけの意地汚い女だ。
そして、挙げ句の果てにはお義父様にうつつを抜かす始末……。もはや、救いようのない馬鹿な女ね……私って。
とても、エドワード家に相応しい嫁とは思えない。
私はやはり幸せにはなれないのかもしれない。そもそも幸せになる資格がないのかも。
前世、魔女だった頃の私が夢見た幸せな結婚……辛かった……でも、その辛い日々の中でも『幸せな結婚』を諦めないで、いつかきっと幸せになるんだ――と、そう思っていた。
この頃の私は今みたいに穢れていなかったような気がする。一体いつからこんなふしだらな心を持つようになってしまったのだろう……。
そんな自分への悲観を続けていると、この部屋の出入り口の扉が開いた。
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