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第一章

第36話 男としての性

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 話の路線を強引に戻され、ハンナに何かを主張されるも、内容があまりに簡潔で俺の理解が追いつかない。

「何がだ?」

 俺は疑問符を浮べる。すると、

「このまま朝まで2人でこの部屋で過ごすんですよ!」

 これは名案!とばかりに手を打ち、うんうん、と頷きながら自画自賛といった表情を浮かべるハンナ。

 こちらの気も知らずによくもそんな無邪気な笑顔を……と内心でぼやく。 自分が今何を言っているのか分かっているのだろうか?

 しかし、ハンナが浮べる無邪気でキラキラとした笑顔はやはり魔女に似て――いや。まるで魔女からの誘惑に、動揺と男としての性が同時に去来する。
 しかし、それでも相手は魔女では無い。別人だという事実を知った上でなんとか理性を保ちながら必死に繕う。
 
「この部屋で2人で朝まで過ごすって……俺は寝るぞ?」

 油断すれば崩れてしまいそうな表情筋を叱咤。力を込めて必死にぶっきらぼうを装う。――違うと、魔女では無いと、必死に抗う。

「えぇー……」

 落胆の声を上げるハンナに俺は素朴な疑問を投げ掛ける。

「一体、俺にどうしろと?」

「朝までお話しましょう!」

 ハンナのその答えにカクッと肩の力が抜けた。

 『私は誰かと話をしてる時が一番幸せです』

 そういえばそうだった、と昼食時のハンナの言葉からその事を思い出した。

「俺は口下手だ!断る! おやすみ」
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